第一章十節 命名
「あら、グスタフではありませんか。ただいま帰りましたわ。これを預かって下さるかしら?」
「う、うん……。ところで、その男の人は誰……?」
「
「お待ちなさい。あなたが話すと、面倒になりますわ」
フィーレが青年を遮り、彼に代わって説明する。
「この方は、私を助けて下さった恩人ですわ。諸々の事情があって、名前が無いのですが…………リラ師匠の計らいで、本日よりここに泊まる事になりましたの」
「そうなんだ……カッコイイ! 僕はグスタフ! “グスタフ・ヴィッセ・アイゼンヘルツ”! 男の人……ううん、お兄さん、よろしくね!」
「ああ、よろしくな」
あっという間に、グスタフと呼ばれた少年は青年と打ち解けた。
「ただいま、フィーレ姫にグスタフ。のんびり過ごしていましたか?」
そこに、リラの声が響いた。
「あっ、ししょーの声だ! ししょー!」
グスタフは一目散に、リラの元へと駆け寄る。
「お帰り、ししょー!」
「あら、グスタフ。ただいま帰ったわ。元気そうで何よりです」
リラは駆け寄ったグスタフを抱擁し、頭を撫でる。
と、フィーレ姫がリラに耳打ちする。
「ふむふむ。分かりました、フィーレ姫。では…………グスタフ、少しごめんなさい」
リラはグスタフを名残惜しそうに、胸元から離す。
グスタフも名残惜しそうではあったが、リラに撫でられた事に、満足感を覚えていた。
「あなたの名前を決めようという話でしたが……今、決まりそうです。その前に、少し喉を見せていただいても?」
「ああ」
彼は上を向き、リラにのどぼとけを見せる。
リラはしばしのどぼとけのアザを見つめていたが、やがて得心したように呟く。
「今、はっきりと分かりました。確かにこれは、別の名前を用意すべきです」
「何か言ったか?」
「いいえ。それよりも、貴方の名前が決まりました」
リラは青年に向き直ると、はっきりとした声で告げる。
「“シュランメルト・バッハシュタイン”。貴方の名前は、今からシュランメルト・バッハシュタインです」
「分かった。その名前、有り難く頂こう」
青年、いやシュランメルトは、ここにかりそめの名前を得たのである。
「ふふ……。では時間も時間ですし、夕食にしましょう? もちろん、シュランメルトを含めて、ね」
「ええ」
「やったー、ししょーのごはんだー!」
「助かる」
「今日からは、シュランメルトも私の工房員の一人よ。よろしくお願いします、シュランメルト」
「ああ。よろしく頼む、リラ」
そしてそのまま、シュランメルトの歓迎会じみた夕食が開かれる事になったのであった。
*
「ここか。それでは、世話になる。おやすみ」
その後、リラに部屋をあてがわれたシュランメルトが寝静まった。
(そろそろですね……)
リラはそれを確かめると、フィーレの部屋へと向かう。
静かに三回ノックをして間もなく、フィーレが扉を開けた。
「はい、リラ師匠」
「フィーレ姫、お話を聞かせていただきます。シュランメルトが搭乗していたという、“未知なる
「分かりました」
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