第一章八節 突破

 胸と腹部を切り裂かれたBladブラドは、主をも同時に喪った事で機能を完全に停止していた。

 膝から崩れ落ちて前のめりに倒れる。その過程で、切り裂かれた頭部付近と胸部周辺が分離した。

 やがて全身が地面に吸い寄せられると、結晶片が辺りに舞い散る。


『…………』


 仲間のうちの1台が倒されるのを目の当たりにして、Bladブラドの搭乗者達は静まり返っていた。

 その間に漆黒の魔導騎士ベルムバンツェが距離を詰め、もう1台のBladブラドをなます切りにする。


『……ひっ!』


 この攻撃で、ようやく現在の状況を正確に理解しだしたBladブラド達であったが、遅きに失していた。

 漆黒の魔導騎士ベルムバンツェが左手に保持した盾で、3台目のBladブラドのである。


『来るな、来るなぁっ!』

『頼む、消えてくれ……!』


 残った2台のBladブラドが、宝飾品と思しき緑色の宝石から光弾を連射する。

 それは真っ直ぐ漆黒の魔導騎士ベルムバンツェに向かい、命中する――が。


「悪あがきか、なるほど。大したことは無いな」


 漆黒の魔導騎士ベルムバンツェの装甲には、傷一つ付いていない。

 何発光弾が命中しても、結果は変わらなかった。


「このまま、一気にけりを付ける」


 残った2台の距離を確認した青年は、全速力で漆黒の魔導騎士ベルムバンツェを走らせた。

 Bladブラド達は光弾による攻撃をも諦め、逃走を図るが、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェの速度には叶わない。


「終わりだ」


 青年がそう呟いた後、2台のBladブラドは、それぞれ胸部を真一文字に切り裂かれていた。


 そして胸より上の部分が、遅れて胸から下の部分が倒れ、やはり結晶をまき散らして機能を停止した。


     *


「終わったか。おい、正気は保っているか?」


 全てのBladブラドを撃破した後、青年は少女に無事を問うていた。


「え、ええ……。それにしても、何て性能の魔導騎士ベルムバンツェ……。こんなの、今まで見たことがありませんわね」


 少女は後部座席で青年の戦いぶりを見ていたが、未だ、何もかもに驚いていた。

 と、別の重厚な足音が響く。


「敵か……?」


 青年がモニター越しに見たものは、黒と銀のカラーリングを有する、ずんぐりとした人型物体であった。


「あれは、リラ師匠の魔導騎士ベルムバンツェOrakelオラケル……! ちょっとあなた、この機体はどうやって降りるのでしょうか!?」

「“降りる”と言われてもな……。仕方がない、おれの肩にさわれ」

「へっ?」

「早く!」


 青年に急かされ、少女は慌てて青年の肩に触れる。


 次の瞬間、二人は草原の上に立っていた。


「あ、あら? あなたの魔導騎士ベルムバンツェは、どちらに?」

「元の場所に戻っただけだ。それよりも、あの黒銀の魔導騎士ベルムバンツェ……。お前の知り合いか?」

「ええ。こちらです、リラ師匠!」


 少女が右腕をブンブンと振ると、黒銀の魔導騎士ベルムバンツェはゆっくりと歩み寄る。

 そして片膝を付けた姿勢を取ると、胸部のハッチが開き、一人の女性が出てきた。

 女性は草原に降りるや否や少女の元まで駆け寄り、少女を抱きしめる。


「無事かしら!? フィーレ姫!」

「ええ、この方に助けていただきました」


 二人の抱擁を見ていた青年は、耳慣れぬ単語に疑問を抱く。


「“フィーレ姫”だと?」

「ああ、そう言えば……」


 フィーレと呼ばれた少女は、女性との抱擁を一旦解くと、青年に向き直った。


「まだ、名乗る事が叶っておりませんでしたわね。




 わたくしの名前は“フィーレ・ラント・ベルグリーズ”。このベルグリーズ王国の、第二王女ですわ。




 そして、こちらの女性の名前は……」

「“リラ・ヴィスト・シュヴァルベ”と申します。この度は私の弟子であるフィーレ姫を助けていただき、ありがとうございました」


 少女と女性は、それぞれが青年に一礼をしたのであった。

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