第一章七節 反撃

「……これ、は?」


 少女は、自らがいきなり異空間へと飛ばされた事実を、飲み込めていなかった。

 ただ、自らが“椅子らしきものに座っている”という状態だけを、把握していたのである。


「ここは、どこなのです? それに、先程のお方は――」

「いるぞ。お前のすぐ前にいる。覗き込んでもいぞ」

「でしたら、遠慮なく……」


 少女がおずおずと覗き込むと、青年が自分同様に、椅子らしきものに腰掛けていた。


「こうする他に、無かったからな。いきなりおれの“相棒”に飛ばしてしまった事、謝ろう」

「相棒……?」

「そうだ。おれの相棒、改め……何といったか、こういう人形ヒトガタの……」

「もしかして、“魔導騎士ベルムバンツェ”でしょうか?」

「それだ。おれは何も思い出せなかったが……こいつの名前は、召喚び方は、


 青年は淡々と、少女に語る。


「そして、おれはこいつの動かし方すらも知っている。見ていろ」


 青年は肘掛けの先端にある透明な半球に手を乗せ、目を閉じて思念する。

 それに呼応するかの如く、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェが両の拳を構え、Bladブラドに向かって突進した。


「お待ちなさい! まさか、何の武器も持っておりませんの?」

「そうだ」


 少女の高い声での叫びに、しかし青年は動じる事無く淡々と返す。


「無茶ですわ! 何の武器も無しに、堅牢な魔導騎士ベルムバンツェの装甲を破るなど……」

「無茶かどうかは、これを見てから言ってもらおうか!」


 青年の叫びに合わせ、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェが拳を振るう。

 音速をも超える拳に、Bladブラドの盾による防御が間に合ったのは、幸運の一言であった。


 しかし、Bladブラドの搭乗者にとって、また少女にとって、予想外の事態が起こる。

 漆黒の魔導騎士ベルムバンツェの拳は、Bladブラドのかざした盾を、右拳みぎこぶしの一振りでバラバラに叩き割ったのだ。

 盾は結晶片をそこら中にまき散らして、Bladブラドの左手から脱落した。


「嘘……でしょ……?」

『何だと!? 120mmの頑丈な盾が、たかが拳なんかに!?』


 少女は驚愕し、Bladブラドの搭乗者は悲鳴を上げる。

 そこに、彼にとっては二度目の幸運が起きた。漆黒の魔導騎士ベルムバンツェが、一度距離を取ったのである。


『ヤ、ヤバいぜ、みんな……! こいつ、一対一じゃオレ達が……!』

『バカ、頭を使え頭を……! オレ達は5台いるんだ、囲んで袋叩きにすれば……』

『待て、アイツ何か、取り出したぞ!?』


 5台のBladブラドが、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェに向き直る。

 右手にはつからしきT字型の棒が、左手にはひし形の盾が握られていた。


『何だ、ありゃ!?』


 Bladブラドの搭乗者達が、次々に驚愕する。

 そんな中、1台のBladブラドだけは、剣を鞘から引き抜いていた。


『あんなもん、ハッタリだハッタリ! 武器の長さはこっちが上だ、勝てるはず……!』


 そして、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェへと突進した。


「…………」


 その様子を見た青年は、静かに思念する。

 すると、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェが握りしめるつかからは黒色の刃が伸び、盾からは黒色の結晶が生成される。


『伸びた!? けど、この勢いなら……!』


 突進してきたBladブラドが、構えた剣で斬り付けんとばかりに、腕を振る。

 その瞬間、突風が巻き起こった。


『……え?』


 一瞬のち。




 Bladブラドの胸部と腹部が、真一文字に切り裂かれていたのであった。

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