第一章五節 追跡

「ふむ、ひとまずここまで逃げれば十分だろう。降ろすぞ、掴まっていろ」


 青年は街からだいぶ離れた草原で、そっと少女を降ろす。

 そして素早く全身を見まわし、無事を問うた。


「怪我はしていないな?」

「え、ええ……」

「ならば良かった。もっとも、買ったものに関しては少々、乱れてしまったがな」


 少女が買った品々を見て、青年は残念そうに呟く。

 と、それを少女が止めた。


「いいえ。あなたの助けが無ければ、今頃わたくしはどうなっていたか……」


 そう。

 あのままでは、少女に暗い未来が降り掛かってきていたというのは、たやすく想像出来る話である。


「さて、と」


 そんな推測を少女はあっさりと振り払い、青年に向き直った。


「命の恩人であるあなたに、恩返しをしなくてはなりません。申し遅れました、わたくしの名は――」

「待て」


 少女が名乗りを上げようとするのを、急に青年が止めた。


「掴まれ、逃げるぞ! よくわからんが、巨大な人形ヒトガタが迫って来ている!」

「わ、わたくしは義足で、走るのは少々……!」


 少女はおぼつかない足取りで、何とか青年について行っている。

 同時に、逃げながら、ある可能性について思い当たっていた。


(巨大な人形ヒトガタ!? まさか、魔導騎士ベルムバンツェを……!?)


 その推測が正解である事は、直後に響く足音で証明される。


『いたぞ! 追え!』

『兄貴をやった奴らだ、捕まえろ!』


 灰白色の、全高10m程の人型の何かが5台、ズシンズシンと足音を響かせ、青年と少女を追っていた。


「ちょっと、止まって、ください、まし……!」

「止まるな! 死ぬぞ!」

「いえ、これ以上は……キャッ!」


 ついにバランスを崩し、少女が前のめりに転倒する。


「大丈夫か!? くっ、おれも慌てたものだ……」

『み~つけた!』

「……ッ」


 青年が少女を抱きかかえようとした途端、人形ヒトガタの何かの内の1台に追い付かれる。

 程なくして他の4台も合流し、青年と少女を取り囲んだ。

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