アリとキリギリス

賢者テラ

短編

 

 むかしむかし。


 あるところに、アリとキリギリスがいました。


 アリは暑い夏の日差しの中、せっせと畑仕事。


 それを尻目に、キリギリスはお気楽にヴァイオリンを弾いています。


「バカだなぁ、こんなに暑い日に働くなんて。しんどくないかい?」


 アリはムッとしましたが何も言い返さず、仕事を続けるのでした。


 


 冬が来ました。


「寒いよ~ お腹すいたよ~」


 フラフラのキリギリスは、アリの家までたどり着きました。


「アリさん、どうか火にあたらせてください。そして食べ物を分けてください」


 ……それ見たことか。


 アリはよっぽど断ろうかと思いましたが、情けを出して家へ入れてあげました。


 火にあたらせてあげ、食べ物も分けてあげました。


「来年からは、こういうことのないようにします——」


 キリギリスはそう言いました。




 また冬が過ぎ、春がやってきました。


 アリはまた畑作を試みようとしましたが——


 その年は、地球温暖化のせいもあってか、異常気象が続きました。


 この辺りではかつてないような、不作の気候が襲ってきたのです。


 食べ物は、他の国の輸入に頼る社会になりました。


 畑仕事のできなくなったアリは、仕方なくある企業の会社員になりました。


 鬱になりかけるほどこき使われましたが、それでもせっせと仕事をします。




 一方、キリギリスはというと——


 冬にあんな目に遭ったのに、また楽器を弾いています。


 前はバイオリンでしたが、今度はギターを弾いています。


「今の流行は、これだからね」


 ……またかよ。


 アリはそう思いましたが、何も言わずに会社に通い続けました。


 


 また、厳しい冬がやってきました。


「寒いよ~ お腹すいたよ~」


 今度フラフラと歩くのは、アリの方でした。


 不景気で、勤めていた会社がアリをリストラしたのです。


 職を失ったアリさんは、ハローワークに通う日々。


 なかなか、仕事が見つかりません。


 ふと、どこからかにぎやかな音が聞こえてくるのき気付きました。


 ……何だろう?


 アリさんが不思議に思って近付いていきますと——




 野外コンサート会場で熱狂する観衆たち。


 ものすごい音です。まるで音のゴミ溜めのような、聞くに堪えない曲。


 でも、そこに集っている者は喜んで聴いています。


「クラウザーさん、最高!」


「殺してぇ! いっそアタシを殺してええええ」


「ゴートゥ D・M・C!」


 なんと、大人気のデスメタルバンドのリーダーは——


 あの、キリギリスさんではありませんか!


 ライブ終了後、アリは楽屋に行ってキリギリスに会いました。


「夏中、ギターを弾いていてよかったよ。


 曲のインスピレーションが湧いてね、これだっ! と思ったね。


 お陰で、世間で大ウケさ!」


 スターになって、裕福にもなっていたキリギリスは——


 この前君に助けてもらったからね、と言ってアリに食べ物をめぐんでやりました。




 ところが。


 キリギリスの人気は、一過性のものでした。


 個性が強すぎた反面、それ以外のバリエーションがなく——


 音楽性に幅を持たせられなかったため、世間に飽きられていったのです。


 やがて仕事もなくなり、キリギリスはまた以前のように貧乏になりました。


 リストラされ職の見つからないアリと、売れなくなったキリギリス。


 このタイミングで、二人は再会しました。


 お互いこれからどうしていったらよいのだろうか? と真剣に考えました。


 そして、彼らの出した結論は……?




 アリさんは、条件に贅沢を言わずに、まずハケンの仕事から始めました。


 待遇は良くなく、悔しさに唇をかむことも多い職場でしたが——


 それでも会社のために一生懸命に働きました。


 自分のやれることを、腐らず楽しむように心がけました。


 そして、いつしか認められるようになり、正社員に抜擢されました。


 一方キリギリスは……




 せっかく身につけた音楽の知識と技術を、生かしたいと思いました。


 キリギリスは、儲けや名声といったものの一切を頭から追い出しました。


 ただ、音楽を愛する心で曲を生み出しました。


 人々に感動と喜びを与えたいと願う一心で発表した曲は、大ヒットとなり——


 キワモノではなく、息の長い人気シンガーソングライターとして活躍しました。




 今でも、仲のよくなったアリとキリギリスはたまに会います。


 それぞれ、自分の頑張っている近況を伝え合います。


 昔の自分たちの失敗の思い出話をしては、苦笑するのでした。


 どんな道でも自分を信じて・喜びとワクワクを友にして、ってのが一番さね。


 そう言って二人は今日も、肩を並べて青空を見上げるのです。

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アリとキリギリス 賢者テラ @eyeofgod

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