その五 退場ラッシュ 前編

 装甲遊撃軍総監:フランスに仕掛けるね。道路整備の用意もできてる。

 ヴェールヌイ :おけ。インドシナ楽しみにしてるわ。

 ミサ     :頑張れ-


 楓華が味方についてくれそうな響と美咲を誘って作ったグループでそう呼びかける。


 イギリスがアンジュー領の奪回を口実にフランスへの宣戦布告が可能な以上、新大陸にいる陸軍がヨーロッパに帰還するまでにフランスを倒さなければならない。


 一九三七年一月二十日。ドイツ対フランス宣戦布告。続いて仏領インドシナ目当ての日本が参戦した。


 イギリスは不参戦、フランス側は勿論のことドイツ側の軍備も準備万端とは言いがたい。


 かなりショボい一次大戦の復讐戦が始まった。



 開戦早々に独仏国境に張り付いていたドイツ軍が大規模な後退を開始、僅か十数日で南独全域がフランス軍の手に落ちた。

「ああ、これは……」

「え? そこまでやるの?」

「こっちも本調子じゃないから念には念を、ね?」

 一見ドイツが圧倒的不利な状況下だが、プレイヤーは誰一人として戦況を額面通りに受け取ってはいなかった。


 そして一九三七年二月十日、ドイツはベルギー及びルクセンブルクに宣戦布告。俗に言う道路整備に取りかかった。


 大慌てでフランスが発足した軍事同盟、新協商に参加するも時既に遅し、AIの挙動の穴を突かれ南独へおびき寄せられたフランス軍主力は急ぎ本国へ戻ろうと試みるも、ドイツ軍の総攻撃を受けまともに身動きを取ることが出来ない。完全に勝負は決したと言ってよかった。


 ベルギーを突破したドイツ軍の装甲師団は海岸防衛用の仏軍部隊を次々撃破。英仏海峡沿いの港湾都市を次々と占拠していった。

 そして一九三七年三月二日、パリ陥落と同時にフランスが降伏。先の大戦の泥沼ぶりが嘘のようだった。



「テレレレー、テレレレレレレー、テレレー」

「ひょっとしてパリ燃えのつもり?」

 某テレビ番組のテーマソングを残念な音感で歌う楓華。本来はパリが陥落した際の曲ではなく、パリが解放された際の曲なのだが、この際その点は問題ではない。

 『パリは〇えているか』なんて題の曲をここで奏でない訳にはいかないだろう。


「まーたパリが燃えてるのか」

「まあHOSシリーズにおける様式美だからね」

「いつものいつもの」

「ええ……」

 さも当たり前のように言ってのける響や勇に思わずドン引く美咲。

 普段はグループの良心と言える立ち位置にいる京香でさえ様式美と言い放つ。もっとも、京香がまともだというのはあくまで相対的な評価であって世間一般からすれば彼女も十分変人なのだが。


 他国の悲劇をネタにするくらいの気概がなければHOSプレイヤーは務まらない。

 なんせ大国同士が戦争すれば百万人くらい結構簡単に死ぬのだ。


 そして講和会議の結果、ベルギー全土とルクセンブルクとアルザス・ロレーヌがドイツに割譲され、残りはアンジュー領を除いてフランス王国として傀儡国に、インドシナはインスリンディアとして大東亜共栄圏の仲間入りをし、残る中東、アフリカ、新大陸などに散らばる植民地はドイツが手中に収めた。

 アンジュー領のみは元のフランスの手に残されたがこの国の行く先は火を見るより明らかだった。


 かくして、開始から一年と少しで七大国の内二ヵ国が退場し五大国になるという異例の事態となった。



 まあそれはともかく、第二次普仏戦争が終結し、世界にしばしの平和が……訪れなかった。


 一九三七年三月二十八日、スペインにおいて国粋派と共和派の内戦が発生。この世界線で戦火が絶えることはないようだ。


「あ、時報だ」

「だいぶ遅かったけどね。三七年に入ってからって結構レアじゃない?」

「なんだろう。なんかしんないけど癒やされる」


 しかし、スペイン内戦は、HOSプレイヤーからは「時報」の愛称で親しまれているほどの、パリ陥落以上の恒例行事で、HOS歴が長めの京香などは癒やしすら見いだしていた。


「甘いですね京香先輩! スペインを黙って見過ごすはずないじゃないですか!」

 だがまだまともな方の狂犬こと楓華がこれを黙って見過ごすことはなかった。


 直後表示されたのは、中央同盟国結成というポップアップが表示される。構成国は当然ドイツ帝国とオーストリア・ハンガリー帝国である。

 そして直後、オーストリア・ハンガリー帝国が内戦を繰り広げるスペインの共和派と国粋派双方に宣戦布告した。更にそれにドイツも参戦、美咲が楓華から教えられたスペイン内戦介入イベントを発動したのだ。


「そんな……最近のアプデで時間経過で四つ巴になるせいでカオスになりがちなスペイン内戦がより一層カオスに……」

「いや、でもこれアナキストとカルリスタが離反する前に終わるよ」

「オーハンで介入できたんだ……まさかハプスブルクスペインまで遡るとは……」


 スペイン内戦に登場する勢力は通常四つ。共和制を掲げる共和派、ファシズムを掲げる国粋派、そして無政府主義を掲げるアナキストに百年くらい前のカルリスタ戦争に敗れてからずっとスペイン王位を狙い続けるカルリスタである。

 この四勢力が四つ巴を繰り広げるカオスさが、スペインがHOSプレイヤー達から「イデオロギーのサラダボウル」「イデオロギーの闇鍋」「ユーゴのイデオロギー版」と称される由縁である。


 今回更に、二百年前にスペイン継承戦争に敗れフランスのブルボン家に王位を奪われたハプスブルク家が中央ヨーロッパから参戦したという訳だ。

 なお、史実においても国粋派を率いてスペイン内戦に勝利したフランコ将軍がハプスブルク家家長、オットー・フォン・ハプスブルクにスペイン王位につかないかと誘いをかけたことがあった。しかし彼がこれを謝絶した結果、スペインの王位にはブルボン家が座ることになったというわけだ。


 時期的にさすがにそろそろ内戦の勃発と踏んでいたのか、事前に待機していたと思われるドイツ軍が傀儡のフランス王国領からピレネー山脈を越えて一斉に侵攻を開始。

 北からの攻撃を全く想定していなかった上に内戦で大幅に弱体化していた両スペインは為す術なく敗退を繰り返し、開戦から一日も経たずに共和派の一大拠点だったバルセロナが陥落。更に三日後には国粋派臨時首都サラゴサが陥落更にその二日後には共和派と国粋派の間で激しい争奪戦が繰り広げられていたビルバオ港を同盟軍が奪取。更にその四日後には山岳地帯にやや苦戦しつつも共和派が抑えていた首都マドリードを同盟軍が陥落せしめた。


 二週間足らずでスペイン内戦は消化試合モードへと入っていた。その後は特筆することも起きず、四月二十二日に共和派が、二十六日に国粋派が降伏。

 スペインはハプスブルク朝スペイン帝国の名義でオーストリア・ハンガリーの傀儡国となった。


 地域大国の退場はルーマニア、チェコスロバキアに続く三ヵ国目であった。

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鋼の乙女達 ~少女戦略ゲー談話~ 竹槍 @takeyari

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