仲良し姉弟の結ばれ方

るた

仲良し姉弟の結ばれ方

ある街に、仲良しな姉弟がいた。二人は双子として産まれ、どんな時も二人一緒に乗り越えてきた。姉はいつも弟の事を気にかけ、弟はそんな姉が大好きだった。女手一つで育ててくれた母親が他界し、とうとう二人きりとなってしまった。二人の齢は十六。弟は姉と一生を遂げる事を望んでいた。しかし、母親が他界する直前に、弟の知らぬ間に、姉の結婚が決まってしまっていた。弟は姉を責めると、姉は全てを話した。それは、かつて女手一つで育ててくれた母の愚直な考えと、姉を狙う愚かな大人共によって引き起こされた姉にとって『不幸な婚約』であった。


―――――


街の中心に流れる川。水音が心地よく聞こえる水辺で二人座っているのは仲良しな双子の姉弟。しかし二人からは仲良しという気配は微塵も感じられない。弟は姉からの話を聞き、完全に塞ぎ込んでいた。流れる沈黙と弟のその姿に耐え切れず、姉が口を開いた。


「あのね…本当は前々から言っておこうと思っていたの。…でも、貴方に心配かけたくなくて…」


姉が恐る恐る弁明するも、弟は黙ったまま。余計だったかと察した姉は 「…ごめんね」と言った。弟はそれでも、黙ったままだった。


「…有名な学校に行きたいって言ってたでしょ。結婚相手がね、お金持ちのお医者さんのお家なのよ。だから、あなたの学費、工面するって言ってくれてるし…寮にも入れるのよ!だから美味しいご飯も今よりたくさん食べられると思うし…いい出会いもあると思う」


「…そんなのいらないよ」


「…」


弟は一言だけ呟いた。姉は口を噤む。弟は姉をちらりと見た。姉は俯き、悲しそうな表情をしていた。弟はその悲しそうな表情が自分のためにあるのだと考えるととても嬉しくなった。それでも姉は、他人のものになってしまうのか…。


「でもね、私、あなたには幸せになってもらいたいの。いい学校で勉強して、いい人と出会って、あなたもいつか、結婚して…」


姉がそう話すも、弟は聞く耳を持たない。


「姉さん…結婚、しなくてもいいと思う」


弟がはっきりとそう言うも、姉は申し訳なさそうに弟を諭した。


「…でもね、私達お金もないし…お母さんが遺してくれた最後の生きる道だと思うんだよね。あなたは、心配しなくていいから」


「だから!しなくても生きていけるよ!」


弟は立ち上がり声を荒らげた。姉は驚き、思わず体を震わせた。


「なんで姉さんも母さんも、僕に黙ってそんな約束したんだよ!僕だって姉さんと同い年で、もっと言えば僕の方が背は高いし、姉さんが…姉さんばっかりそんな辛い選択…しなくてもいいじゃないか…」


弟が悔しそうに顔を歪めると、姉は弟の顔を見上げながら、微笑んだ。


「姉さんは…。出来損ないだから。あなたは優秀な弟。姉さんは、あなたみたいな弟を持って、幸せ…。それだけで、幸せなの」


儚げな笑顔を浮かべる姉がとても愛おしい。弟はどうしても自分の気持ちを抑えることが出来そうになかった。姉を傷つける前に、弟はその場から離れた。姉はぽつんと、その場に座っていた。一人になった姉は、「私のことは、気にしないで」と呟いた。その声を聞いたのは、姉弟から見えぬように隠れて話を聞いていた赤い目の女だけだった。


――――――


弟は街をとぼとぼと歩いていた。この道も、かつては姉と手を繋いで歩いた道。小さい頃の話だが、姉との思い出はどれも楽しくて楽しくて…愛おしいものばかりである。街の何を見ても、姉との思い出だけが蘇る。


パン屋の前を通る。母親から渡されたおつかい代のお釣り。母親はそれを二人で使ってもいいと言われた。少ないお釣りで買ったのは、ひとつのロールパン。二人で半分に割ったが、片方が小さくなってしまった。姉は迷わず大きな方を弟に手渡した。「おいしそうだね!」と笑う姉が、弟は本当に大好きだった。ある時、パン屋が期間限定とやらでショートケーキを売っていて、姉は自身の小遣いで弟に買ってあげたことがある。姉は「いいのいいの。あなたが食べてるのを見てるだけでおなかいっぱい!」と一口も食べることは無かった。弟は、一緒に食べたかったのだが…。


花屋の前を通る。姉は花を見るのが好きで、お気に入りの花は女の子らしく薔薇の花。幼き頃の姉は口癖のように、「この花みたいに綺麗な人になるの!そうしたら、王子様も迎えに来てくれる!」とはしゃいでいた。弟は大人になったら、姉に薔薇の花束でもプレゼントしてあげようかと画策していた。それでも、弟にとっては姉はとっくに薔薇の花以上に美しい。


本屋の前を通る。弟は本を読むのが好きで、よく姉と訪れていた。そして弟の気が済むまで、姉は弟を待っていてくれた。時には「これ難しそう…すごいね!さすが私の弟だ」と褒めてくれたり、「私もその本気になってたんだ!」と嬉しそうに話しかけてくれていた。弟はそんな姉と本屋に立ち寄るのが好きなのだ。


病院の前を通る。母親が熱で倒れた日…。母親が亡くなる三ヶ月前。姉は夜中に扉を叩き、その家に住む医者を起こした。医者は「うるさい」と姉を一喝し、殴りかかろうとした。弟はそれを止めたが、その後もどうしても姉が『殴られそうになった事実こと』が許せず、知らない女から預けられた赤いナイフで医者を殺してしまった。おかげで母親は隣町の医者に診てもらうことになってしまった。弟がしたことはばれてはいなかったのだが、ナイフを預けてきた女にその事を話すと、「怖い怖い」と笑われたが、弟にとっては、姉が大切なのだから、ただ姉を守っただけなのだ。何が可笑しい…。


空き家を通る。母親が熱で倒れてから、二人は親戚の家へ預けられた。親戚は酷く意地悪な人で、特に姉を虐げていた。「どうしてこんなに醜いの」―親戚はそう笑い、姉の身体に火傷を負わせようとした。弟は親戚から姉を守るために、また赤いナイフで親戚を殺してしまった。親戚はもとより周囲の人間から嫌われていたため、居なくなったことを気にも留められず、住人の居なくなった家は空き家となった。ナイフを預けてきた女が「やり過ぎないで」と忠告してきたが、そんなことは知らない。弟は姉を守りたいだけなのだ。


路地裏の前を通る。ここで弟は、赤い目の女と出会った。その女こそ、弟に赤いナイフを預けた女だった。赤い目の女は弟の想いを見抜いているかのように、「姉を守りたいのならば」と弟にそれを手渡した。ルビーのように赤く輝くナイフは、弟にとって薔薇の花のように美しい姉を連想させた。一生を賭けてでも姉を守りたい弟は、喜んでナイフを受け取った。そして姉を守るために傷つけようとした医者を殺し、姉を虐げた親戚を殺したのだ。弟はなんの後悔もしていない。それで姉が、笑っていてくれるなら。…しかし、姉の純粋な笑顔は、母が病に侵される前以降見ていない。それもその筈。弟を守るために、毎日のように気苦労していたことだろう…。弟はそれに少し不満もあった。自分はそこまで、もう幼くはないというのに…。


家の前に辿り着いた。母は優しい人であったが、どこか自分勝手な所があった。 姉が結婚する相手の父親は、母の病状を診ていた医者である。そして、母は自身の保身のため、そして優秀な弟の未来のために娘を売ったのだ。


母のかかった病気は巷で流行っている病。医者は母に必ず完治させると約束した。その代わり、姉を自身の息子に嫁がせて欲しいという条件をつけた。弟の事も、学費だって何だっていくらでも出してやろう。母親はその口車に乗せられ、承諾してしまった。そして弟には嫁ぐ直前まで知られないようにしていたのだろうが、部屋に置いてあった友人に送る用の結婚式の招待状を弟が見つけてしまい、それを問い詰めると姉は自白した。母は騙されていただけ…。母のかかった病はかかってしまえば最期の、不治の病。母はただ、娘を小汚い医者の息子にただで譲っただけに終わったのだ。


弟はどうすれば姉を救えるのだろうと考えた。姉も本当はこの結婚に前向きでは無いはずだ。この結婚を無かったことにするにはどうすればいい?旦那となる医者の息子を殺せばよいのか、医者を殺せば良いのか…。


扉の前で思い詰めていると、ぽんと肩を叩かれた。振り向くと赤い目の女が弟の顔を覗き込んでいた。


「姉は誰かのものになる。悲しい事ね」


女が呆れたように言うと、弟は半狂乱になって「…そんなことさせない…絶対にさせない!どうすれば…どうすればあの人を守れる!?」と女の肩を掴んで揺らした。女は冷静に「どうしようもない」と答えた。


確かにそうだ。結婚するという事実は今更覆すことなど出来ないだろう。


しかし、女は言葉を続けた。


「まぁ、本当なら、どうしようもないわよ。本当ならね…」


女は弟の手を掴み、抱き寄せた。驚き、嫌悪を抱いた弟は「離せっ」と女から離れた。すると弟の手にはいつの間にか、ひとつの小さな小瓶が握り締められていた。中身はシトリンの宝石のように光っている。


「これは?」


弟が唖然としつつ問いかけるも、女は淡々と、「どんなものにでもなるわ」と答えた。弟が理解出来ずにいるのを気にも留めず、「想いは伝えるのよ」とだけ言うと、街の人混みの中に消えていった。


弟はもう一度小瓶を見た。まるでこの小瓶は、自身の狂った感情を肯定してくれるようだった。どうしてそう思ってしまうのか、全くわからないのだが…。


―――――


夜になり、姉は風邪を引いて帰ってきた。ずっと水辺にいたせいで、寒くなってしまったらしい。弟は暖かい飲み物を用意する中で、飲み物の中に小瓶の薬を混ぜ込んだ。宝石のように光っていた薬も、飲み物に溶け込めば薬が入っていることなどまったくわからない。しかし、その代わりにとても甘い匂いがするこの薬は、弟の気も狂いそうだった。思わず一口飲んでしまう。


―甘い。


甘い香りを漂わせる飲み物を姉に手渡した。姉も「いい匂いね」と言いながら疑問も持たずに全て飲んでくれた。姉はいつも弟の作ったものならなんでも食べてくれた。今回は、薬が混ざっているとも知らずに…。


弟も正直何の薬なのかわからなかった。しかし、暫くしてから姉の姿を見て、何の薬なのか理解出来てしまった。姉はベッドの上で顔を真っ赤にし、息を荒らげていた。


「どうしたの」


弟はもしやこれは病にかかる薬なのではと心配になり、咄嗟に姉の傍についた。しかし、次の姉の一言でそれは杞憂となった。姉の顔は火照っていた。


「…なんだか、くるしい、くるしいよ」


姉は涙を浮かべた表情で弟を見た。弟も少しながら薬を服していた。その姉の表情かおを見て、どうしても、何をしてでも姉が欲しくなった。


「…姉さん」


「ん…なぁに?」


「姉さん、僕じゃだめ?」


弟がベッドの上に乗った。そして、姉の上に覆い被った。姉はなんの事か理解できない様子で首を傾げた。


「どういう、いみ」


姉は心配そうに弟を見る。心配しているのはこっちだ。弟は何かが切れたように姉の服を掴み、服を脱がせた。「ちょっと、まって」と微力ながら抵抗する姉の手を自身の片手で掴み、抑え込んだ。服を脱がせたあとも、姉は抵抗しようと手をばたつかせた。弟はそれを今度は両手で繋ぎ、指を絡めた。弟は姉を見下ろした。


「姉さん、今じゃ僕の方が力がつよいんだ」


「うん、しってる、あなたはすごい子だから」


「違うよ。僕は、姉さんのために強くなったんだ」


弟は姉の身体を見た。女性らしい姉の身体はやはり美しい。それは幼い頃から変わっていないことであるが…。この身体を他の男に見せるのか。弟は悔しくて仕方なかった。姉を美しい部分を見るのは、僕だけでいいのに。姉さんは、僕のものなのに…!


「姉さん。姉さん姉さん…っ」


絡んだ指を離し、弟は姉を抱きしめた。姉は未だに理解ができず、されるがまま抱きしめ返した。弟は姉が抱きしめ返してくれたことが嬉しかった。そして、自分の中の欲求が抑えきれなくなった。


「姉さん、したい、したいよ」


弟が縋るも、姉は苦しそうな声で「だめ」と拒否する。


「だめだよ、わたし、もうすぐけっこ…んっ…」


弟は姉の口を塞ぐ。今度は舌が絡み合う。「んっ…ふうっ…」と甘い吐息を漏らす姉に、弟はますます姉を欲してしまう。唇を離し、姉の顔を見ると、姉は涙を流していた。


「わたし…いいねえさん、かなあ?」


姉は蕩けた声で弟に問いかけた。弟は「…だいすきな、ねえさんだよ」と答えた。姉は、弟の背中に手を回した。


「わたしも、したい」


姉の返事を聞き、弟はその場で飛び跳ねてしまいそうな程嬉しかった。これで、姉は僕から離れることは無いかもしれないと思ってしまう程に…。


―――――


姉の嬌声と、弟の愛の言葉が交じる狂気の空間。弟はただ姉を愛し、姉は弟の愛に答える。とても狂おしい、二人だけの世界。


「姉さん、すき、すきっ」


必死に姉を求める弟。弟に犯され喘ぐ姉。姉の首には無数の痕がつき、胸にも弟の噛み跡が残っていた。姉は時々「ごめん、ごめんね」と言った。その一言がさらに弟を激しくさせた。ねえ、どうして謝るの。謝るくらいなら…。


「なんで僕だけの、姉さんじゃないの」


こんなに、こんなに姉さんを愛しているのに。


「ごめんね、ごめんね」


弟は、私を大事に思ってくれているのだ。姉はそれを理解していた。そして、今の行為が私のためなのだということも理解していた。その理解は、間違った方向にだが…。


弟は姉を愛していても、姉は愛されているとは思っていない。姉弟として、頼ってくれなかったことへの腹いせだろう。姉はそう理解してしまっていた。


姉も弟の事は愛していた。誇らしい、『弟』として。


「わたしもねっ…んっ…すきっ…すきなの…あうっ…」


「ならっ…なんでっ…?なんでしらないやつとなんか…」


姉は悲しそうに、また息を荒らげながら、「わたしはっ…じゃまものだから…あなたに…みんなきたいしてるの…」と答えた。ああ、また『弟贔屓』か。小さい頃から母からも周りからもそう言われて育った姉は、悲しい程に自尊心が低い。弟自身にとって、誰よりも価値があり、誰よりも美しいのは姉、ただ一人だと言うのに。弟の動きは、さらに激しくなっていく。


「んぁ…っ…激し…ねぇ…やさしくしてよ」


姉が弟に頼むも、弟は「むり、むりだよ、ぼくだって、もう」と息絶え絶えになりながら拒否した。姉の全部が、欲しい。弟の頭の中はそれでいっぱいだった。美しい、僕の薔薇の花。すき、すきだよ、姉さん…。


歪んだ姉弟の交わりは、本当に本当に…狂っていた。互いにそれは分かっていた。それでも弟は姉を欲し、姉も弟を受け入れた。それは薬など関係ない。


家の外に居た赤い目の女は、姉弟の許されぬ行為から漏れる声を聞き、「あの薬、ただの風邪薬なのに」と笑った。そして「楽しみだわ。結婚式」と呟くと、女は闇夜に消えてしまった。


夜が明ける前、弟は姉を抱き寄せて、「愛してる、僕は姉さんを、愛してるんだ」と囁いた。しかし姉は、その言葉を耳に入れることはなかった。涙を流す姉の目には、後悔の念が映っていた…。


―――――


弟が目を覚ますと、そこに姉の姿はなかった。代わりにあったのは置手紙。「ごめんなさい」震えた字で書かれた手紙は、弟の中で『何か』を生み出した。弟はナイフに手を伸ばした。置手紙の裏には結婚式の日程。結婚式は、明日だった。


弟は家を出て、何かをを探すかのように走り出した。明日は姉の結婚式。弟として、素晴らしいものにしなければ!


―――――


当日。ヴァージンロードを一人で歩く姉。本来なら弟が共に歩くはずだったが、弟は式場にはいない。あの日、先に目が覚めた姉は自身のした事があまりにも可笑しいことに気づいてしまった。そして、弟にそんなことをさせてしまったことを酷く後悔した。もう私は、あの子にとって必要ない。あの子は新しい道を進むべきだ。そもそも、私など誰からも必要とされていない。唯一必要としてくれるのは、今から嫁ぐ旦那一人だけなのだ…。


長く感じる道の先には、あまり話したことも無い新郎が自身を待っていた。約束しておきながら母を見殺しにした、医者の息子は自身以上に歪んだ笑みを浮かべている。そう姉は感じた。しかしこんな人でも、私の事を必要としてくれているのだと考えると、安心した。


新郎の元まであと数歩。隣に立とうとした、その時。鋭い痛みが自身を貫いたのを感じた。


白いドレスは赤に、鮮やかな色とりどりの花束は床へ。そして姉が痛みに耐えながら振り向くと、そこには自身の大切な弟。弟の片手には二輪の薔薇の花、そしてもう片手に、赤いナイフ。元々赤く輝いていたナイフは、姉の血で赤黒くなってしまった。


姉はその場に倒れ込み、弟はその上に覆い被さった。まるで、あの夜のように…。


慌てた医者の息子が、弟を蹴り飛ばそうとした。しかし、幾度蹴られても、弟は姉から離れようとしなかった。弟が、自分のせいで『他人』から蹴られている…。姉は「ごめんね」と苦しそうな声で呟いた。「私のせいで、ごめんね」…弟はその一言がどうしても、どうしても嫌で、もう一度姉を突き刺した。次に刺したのは心臓部。「うぐっ」と声を上げてもがき苦しむ姉。それでも姉は『弟』を見ている。姉が自身に向ける目は、所詮『姉弟』…。悔しくて悔しくて仕方がなかった。僕は姉さんが…姉さんを…。


一人の女として、愛してしまったというのに!


弟は姉の胸からナイフを引き抜き、またもう一度突き刺した。次は、自分の胸に。


「姉さん!ずっとずっと、愛してるよ!」


狂ったように叫んだ弟の目は涙が溢れていた。狂った姉弟を見た人々は慌てふためき、姉弟を引き離そうとした。しかし、医者の息子だけは二人の目を見て怖気づき、式場から逃げていってしまった。弟から見た姉の目は確かに『弟』を見る目。しかし、傍から見ればどちらも『愛しの恋人』を見ているような『瞳』に見える。


狂気溢れる空間で、一人冷静に佇む赤い目の女は、にこりと微笑みながら指を鳴らした。すると、突如式場に無数の薔薇が降ってきた。参列者は突然のことに慌てふためき、奇妙な事の連続を気味悪く感じ、式場から逃げ出していく。それでも、赤い目の女だけは穏やかな表情を浮かべて式に参列し続ける。女が立っているヴァージンロード。その先に居るのは、無数の薔薇の花に囲まれた仲良しな双子の姉弟。


「ふたりだけで、しあわせになろうよ」


弟は姉の頭を撫でる。姉は苦しそうにしながらも、「わたしなんかで、いいの?」と問いかけた。弟は、「姉さんだけ、姉さんだけを、愛してるんだ」と言って、姉を抱きしめた。


「ねえ…すき…すきだよ…」


そして姉は初めて、自身の想いを伝えた。姉も、狂気に取り憑かれたかのように。


「ああ…狂っているわ…私の弟は、狂ってる…。それでもあなたを…愛してる…あなたは、愛しの『弟』よ!」


それからも、姉弟は息絶えるその時まで、愛を確かめ合った。好き、大好き、愛してる…。そして互いの血が混ざり合い、赤から黒へ変わりきった頃、二人は一緒に眠りについた。抱きしめ合い、幸せそうに微笑みながら…。


赤い目の女は幸せそうに眠る二人を見て、静かに二人に、式場に背を向けた。そしてもう一度指を鳴らすと、無数の薔薇の花は美しい花吹雪となり、式場を舞った。二輪の薔薇の花言葉は、『この世界は二人だけ』。そして無数の薔薇の花…。あの夜が明けてから、弟が沢山の花屋を回って買い集めた、二輪の薔薇を含めた999本の薔薇の花言葉は…『何度生まれ変わってもあなたを愛する』。狂気を纏った姉弟に相応しい花言葉だ。


しかし姉は結局、『弟』か『一人の男』か、どちらとして彼を愛しているのだろう。多分、前者なのだろうとは思うが…。となれば、弟が報われないが。しかし愛とは、そう上手くは出来ていないもの。互いが通じ合っている『愛』程、手に入れ難いものは無い。しかし刺された後に彼に向けた眼差しは、様々な想いが含まれていたようにも思う。


こんな声が聞こえてきそうだ。「私を必要としてくれてありがとう」…彼女は自身を『物』として扱っていそうだ。


姉を姉弟という関係以上に愛してしまった弟。出来損ないの姉弟を持ったと悟られぬよう、自信を犠牲にしてでも弟に真っ当な人生を生きさせたかった姉。


情熱の愛を示すかの如く赤く輝るナイフは、二人の間で互いの血に塗れている。―ある意味、結ばれたのではないか。女は少しそれを羨ましいと思った。


「結婚、おめでとう」


女は皮肉を呟いた。



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