スープにすくわれた

@zoe

スープにすくわれた


ああ

思えば短い人生だった

拝啓 お父さんお母さん

僕はおそらくは

最大のピンチを迎えております


とうとう僕は

結婚する事になり

将来のお嫁さんと

その両親と食事に行く


お義父さん(予定)が

お気に入りのお店は

僕も行った事がある店だった


そこは

バイキング形式の店で

豊富なサラダバー

スープバーがウリだった


結論からいえば

とりあえずスープを

僕が持ってくる事になったのだが

僕は左利きなのです


そう

あのスープバーで

つかわれているおたま


あれがどうにも苦手

だってさ

そもそも右手で使うように

できててさ

俺たちに生きる道はないのか

これから

あたらしい息子(僕)を

迎えようとするお義父さん(予定)に

無様な姿は見せられないじゃないか


そうだ

お義父さん(予定)、お義母さん(予定)

そしてお嫁さん(予定)が

僕が華麗にスープを注ぎ入れ

流麗な姿でテーブルにやってくるのを

待っているじゃろ


僕は

これで僕の人生設計が狂う

それだって仕方なし

勢いよく

スープバーのおたまに

手を伸ばした


すると

きらめくスープから

姿をあらわしたおたまは

いつものアレではなく

どっちの手でつかったっていい

そんな素敵なやつだった


「ええ、こんなやつあるの?」

技術の進化か、奇跡の技術か

いつのまにか、左利きは救われていたのか


「あ」

僕は思い当たる事があった





あれは

数日前

きょうの事を

頭でシミュレートしながらも

ぼんやりと歩いていた


すると

歩道を飼い主と散歩していた犬が

突如、飼い主の手を離れ

車道に走り出した

また

その反対側からは

好奇心旺盛な少年が

犬にむかって走り出す

そこに

トラックが


僕はトラックにむかって

車道に飛び出た

すると

犬はすばやく反対の歩道に駆け抜け

少年はそもそも

走り出したとたんころんで

僕だけがトラックの前に

おもいっきり跳ね飛ばされる




「いやあ、死んだな」

僕は雲ひとつない空を見た

近くの公園の垣根が

クッションになり

僕はどうにか命をつないだ


でも

あのぶつかる瞬間

強い光につつまれた感覚が

あったのだけど

気のせいだったか


僕は

犬の飼い主と

飛び出したこどもの親に

特になにもしてないんだけど

感謝されつつ、家に帰った


だが、どうにもおかしい

僕の調子がではない

確か

僕もよくつかうあのコンビニ

ロゴの色、赤だったっけ?

違う色じゃないか

なにか

ささいなことばかりなんだけど

以前とは違う


それをまわりに話しても

あのコンビニのロゴは

最初から、赤だったとか

僕の認識だけが違うみたい


まさか

僕は思う

あのトラックに跳ね飛ばされて

僕は以前とは違う世界に




僕は

スープに沈むおたまを

じっと見つめていた


なんか

ささいな変化ばかり

と思ってはいたけれど

これも変化のひとつか!


黄金色に輝くコンソメスープを

カップにすくい入れながら

僕はみんなの待つテーブルに急ぐ


拝啓

お父さん、お母さん

僕、しあわせになります



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