相田早夜、取材する!
思わぬ伏兵・タクの出現により、五部長分をいっぺんにクリア。
さて、あのあほ眼鏡の方は進んでいるんだろうか――
「誰があんたなんかに写真撮らせるか! とっとと出てけー!」
――全然ダメなようですね。
なんでよりによって女子だらけの調理部なんかにお邪魔しちゃったのかなー? 真剣に準備を進めているみなさんの邪魔をウザいほどしまくって、ついでにおこぼれ(試食)などにありつけたら――なんて下心が眼鏡の奥からにじみまくってるわ。
「部長の言う取材能力だか人脈だかが発揮される瞬間を、いつ拝ませていただけるんですかねー?」
「ううむ、どうもここの女子部員には俺の高尚かつ崇高な講話が理解の範疇を超越していたらしく……」
「熟語並べてる暇があったら、も少し対人スキル磨きましょうよ。女子部長はわたしが担当しますんで、部長はタク以外の男子部長をなんとか攻略してください」
「あ、
「なぜこんな企画を始めたのか、知りたくはないのか?」
「別にー。部長が変なこと言い出すなんてもう慣れっこだし」
まったく気にならない、わけではない。でも突如与えられた
たぶん、こんなことは世の中いくらでもあるんだ。いきなりわけもわからず過酷な状況に放り込まれ、もがき続けたあとでようやく根本の原因を知る、なんてことが。だったら部誌の製本まで完璧にこなしたあとで聞いてやろうかと。そんで、本当にしょーもない理由だったら眼鏡ごとバンジーさせてやろうかと。
こっそり推測はしてる。ひょっとしたら部長にはお目当てのどこかの部長がいて、その人に近づくために――とか。全女子部長を奪ったのは早計だったかな。
ふと廊下の窓の外に目を向けると、さっそく次の部長を捜して走り出した旭部長が、その辺に置かれた文化祭備品を蹴飛ばしてうずくまってるところだった。
少し離れた階段の方からは、まるで隠しきれてない複数の気配。「ちょ、バレる、もっとつめろ」「このアングルじゃスマホ撮影キツいわ」「スカートの中だけは絶対気をつけろよ」「それ映したらマジ死刑だから」……あとでまとめて通報決定。
調理室に入ると、「もー、一年可愛いーい!」「このまま調理部入っちゃいなよー!」と先輩方に頭をなでなでされ、パウンドケーキとかマカロンとかをいっぱいもらった。もちろんインタビューも撮影もばっちり。役得。
◇ ◇ ◇
校内の「女子部長」は十四人。
めぼしい部室や練習場所を片っ端から回る。部活生がいれば、片っ端から声をかける。
「お疲れ様です!」「突然すみません、部長の方はいらっしゃいますでしょうか!」「ただいま新聞部でこのような企画を実施しておりまして!」「こちらの部長先輩のファンの皆様が、ぜひにと!」「みなさまに快くご了解いただいております!」「来場される受験生の皆さまに、この部のよさを知っていただきたいと!」
ものは言いようである。
中には
七部長ほど回ったところで、背後から「相田ー」と声をかけられた。
「あ、
「まだ全然終わってないんだろ? 何か手伝うよ」
「え、いえいえいえいえ! センパイはタクのせいで副部長業がお忙しいかと!」
スマホとノートを持つ手を左右に振って断ると、「そうでもないんだよ」と、人のいい笑顔で返された。
「タクが部長やってる部、映研以外は全部ラノベ推しの方向で準備進めてるから。あいつはすげーいきいきと意見出しまくってるけど、俺はよくわかんないからこっち来た。……映研も、あの調子だと精力的に活動始めてるみたいだね」
「そこらの制作中の看板類にまぎれて
タクが部長をやってるオタク系の部活は、すべてタクの発案がないと動けないような情けない弱小部なんだろうか。そうつぶやくと、甲斐センパイは「うーん」と、是とも非ともいえない曖昧な返事のあとで言葉を続けた。
「みんなそれぞれ作品づくりはがんばってるんだけど、そこに文化祭らしいテーマを掲げてひとつのまとまりを作るとなると、ちょっと難しいのかもしれないね。自分の作品にこだわりが強ければよけいに。タクみたいに、細かいこと気にせず強引に引っ張るくらいのリーダーが、彼らにはたまたま必要だったのかもしれないよ」
「そっか……あんなんでも、ちょっとは役に立ってるのかもですね」
「そうそう。だから、新聞部の部誌のうち五ページがラノベまみれになっても、怒らないでやってね」
どうしようもない幼なじみだけど、このセンパイはいやいや引きずられてるわけじゃなく、ちゃんと評価してくれている。そう思うと、ちょっとだけ自分まで認められたみたいに嬉しかった。
「ところで印刷や製本のスケジュールって大丈夫なの? 今からじゃ印刷所は間に合わないだろうし、学校の印刷機は直前だと激混みになると思うけど」
「あ、細かいこと心配してくださってありがとうございます。部長の家に、デジタルフルカラー複合機の最上位機種と、最新の高機能中綴じ製本機がそろってますので、ご心配なく」
「……旭って何者?」
◇ ◇ ◇
甲斐センパイは、男子部長の方を少し手伝うと申し出てくれた。
「あそこの柔道部とか、相田みたいな女の子がひとりで入るの大変でしょ。俺がちょっと行ってみるよ」
「あ、助かります! これが訊きたいことのリストで、これが録音用のレコーダー。写真はスマホで撮らせてもらったあと必ず本人に見せて確認を、それから原稿はこっちで起こすって伝えてください」
「了解ー」
センパイはにこやかな顔で柔道場に向かい、入り口に足を踏み入れた――が、次の瞬間、その顔が急速冷凍のごとく青く引きつった。
「ほ、星川……!」
「お前、甲斐か! 相変わらず軽薄な髪の色しやがって! ちょっと道着に着替えてこっち来い! 授業でやってんだから組手くらいできるよな? 俺が直々に性根を鍛えてやるよ!」
「いやあーーけっこうですーー!」
なんたる不運。センパイは柔道部顧問兼、生活指導の星川先生に遭遇してしまった。
鍛え抜かれた豪腕にがっちりと押さえ込まれたセンパイは、「すまん相田! 俺はここまでだ……!」というむなしい言葉を最後に、道場の奥へ引きずられるように姿を消してゆくのだった……。
「……さて、女子部長の続きにとりかかろうかな……」
◇ ◇ ◇
「あなたたち、帰宅部の部長にはインタビューしないの?」
「帰宅部……部長?」
女子バスケの部長先輩に話を聞いているうちに、彼女からそんな言葉が投げられた。
その奇怪な単語、何度か聞いたことがある。確か、どこの部にも所属しないのにとんでもなく足が速い先輩がいると。
「運動部の間じゃ有名だよ。どこの運動部員でも追いつけないほど足が速いのに、どこの部活にも入らず、誰とも遊ばず、終業後わき目もふらずに帰宅する、謎多き二年男子。別に遠方に住んでるわけでもないのに。で、みんなから『神速の帰宅部部長』なんて呼ばれてるわけ」
「なぜそこまで急いで帰宅するんでしょう。ご存知ですか?」
「バイトが忙しいって言ってたらしいけど、どこでどんなバイトやってるかは教えてくれないんだって。だから『謎多き』なの。あの人のインタビューを載せてくれたら、読みたがる人たくさんいると思うよー」
面白い。新聞部員の血が騒ぐ。なんでそんな人をリストに加えなかったの、旭先輩。
部誌に一ページ追加してでも、その謎を解き明かす価値はありそうだ。もしページがうまく収まらないようだったら、タクんとこを適当に縮めちゃえばいいんだし。
JK新聞部員・相田早夜の戦いはまだまだ続く!
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