いつもの光景
tada
いつもの光景。
私 木野 林檎と幼馴染であり私の大好きな人草野 苺。私たち二人が歩んだ道は、全てが宝物で、絶対になくしたくはない物。
だからこそ私たちは宝物を守ろうと護ろうと頑張った。頑張ったがゆえに私は、疲れきってしまったのだと思うお互いが、お互いに、お互いの関係に疲れきってしまった。
だから私は自ら自分の宝物を壊してしまった。
歩んだ道という名の宝物を──。
これは私たちが宝物を壊す少し前の話。
高校三年いつもの待ち合わせ場所(近所の橋の上)にいつもの時間通り(八時)に行くといつもの格好(ブレザーの制服)いつもの髪型(綺麗な黒髪のセミロング)いつものメガネ(黒縁メガネ)姿の苺が地面を軽く蹴りながら立っていた。
そんな苺に私は、早足で駆け寄り微笑んだ。
「おはよ〜苺〜」
これもいつもの光景私が苺に微笑み、その後真面目な苺が時間をチェックしてから微笑み返してくれるのが、いつもの光景。
昔はよく遅刻して苺に怒られたものだけれど、さすがに高校生になってからは、滅多には遅刻せずにすむようになってきた。
するとやはり苺は、スマホで時間を確認してから微笑んだ。
「おはよ。林檎今日も遅刻しなかったね。よかったよかった」
そう言いながら苺は、ずれていたメガネを元の位置に戻し右手を差し出してきた。そしてそのまま一言言った。
「行こ」
「うん!」
これもいつもの光景。私は出された手を左手で取りそのまま恋人繋ぎの形まで持っていくと、足を運び始める。
「ふふ、ずっとこうやって苺と手を繋いでいたいな〜」
「どうしたの突然?」
「ん? なんかね。突然思ったの」
本当に突然だった。自分でも驚いているくらいには突然だった。
けれど苺はそんな私にも、微笑んでくれる。
「そ。大丈夫だよきっと。さすがに手を繋ぎっぱなしってのは無理だけど、ずっと一緒にはいられるよ。だって私林檎のこと好きだし」
私はしょっちゅう言い合っているはずの苺の、その一言に何故だか顔が赤くなってしまう。
私は照れを隠せないまま言った。
「あ、あ、ありがとう。私もね好きだから。苺のこと大好きだから。」
すると苺も表情が赤くなっている。だんだんと赤くなり最後にはそっぽを向いてしまった。
この生き物が可愛すぎて困る。
こんなやりとりも私たちの中ではいつもの光景。
ちなみに私たちは今まで一度も喧嘩というものをしたことがない。
どれだけ悪口を言われようが、苺から言われるのならそれは、良いものでしかない。(そもそもお互いに悪口は言わない)例え物を盗まれようが、盗み主が苺ならばあげるので問題がない。(そもそもお互いに盗まない)そもそも趣味趣向が合わないってことがない。
その他諸々の理由で、私たちには喧嘩の種というものが存在しない。
これが私たちにとってはいつもの光景であり、普通のこと。
だからこそ興味が出てしまった。
もしこのいつもの光景を壊した時、苺はどういう反応をするのか──そんなくだらないことを考えてしまった。
翌日私は、いつもの時間よりも十分ほど早い七時五十分に橋の上に立っていた。
五分ほど過ぎると何やら驚いた様子で、近づいてくる苺の姿が見えた。
「なんで! 先に待ってるの?」
この時点でもう二つもいつもの光景じゃない光景を見れている私は、どこか優越感のようなものに浸っていた。
「いやーなんか起きちゃってさ」
そう言いながら私は、軽く地面を蹴りながらスマホで時間を確認する。
これで四つ。
そしてずれていた鞄を定位置まで戻して私は、右手を伸ばした。
これで七つ。
「行こ!」
「う、うん」
今回は恋人つなぎにはせずに、そのままの手繋ぎだった。
これで九つ。
この時点で私はこの遊びをやめるべきだった。
そして道中私は、一言も喋らなかった。
これで十。
その日の帰り道とうとう私は、自分の誤ちに気づくことになった。
「なんなの! 今日の林檎変だよ! なんで私より先に来てるの! なんで私がいつもやってることをあなたがやってるの! なんで私が手を差し出す側じゃないの! なんで私と喋ってくれないの!」
そう言い残すと苺は走り去っていった。
苺の目には涙が流れていた。大量の涙が流れ落ちていた。
私はこの時気づいた。自分が取り返しのつかないことをしてしまったと──。
けれど今日今から謝らなくても明日いつもの場所で、謝ればいいや。そう考えてしまった。これが私の人生での最大の失敗だった。
翌日橋に苺はこなかった。
私は言えていない。
「ごめんなさい」
この一言を──。
いつもの光景 tada @MOKU0529
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