悪役令嬢のいない時間

彼女と出会ったのはまだアザレアが五つの頃。

人間の国に魔力を持った存在がいることを知り、偵察のために人間の生活圏に自ら忍び込んだ。

調べてわかったのは力を得たのはミリアと言う名の幼い少女だということ。

時々ぶつぶつと独り言を呟いていることを除けば普通の少女だ。

今は警戒する必要がないと結論付け、念のために使い魔を使って時々様子を見ることにした。


その帰りに私は彼女、アザレアに出会ったのだ。

少しつり上がった瞳、風に靡く美しい髪、幼さを残しながらも大人のように振る舞う姿。

すぐに惹かれた。


それから私は毎日彼女の元に出向いた。

人間に変装して何度も何度も。

部下には幼女趣味を疑われたが私が惹かれたのは彼女が幼いからではない。

彼女が彼女であるがゆえだ。

一瞬で強く惹かれたのは何百年も生きて彼女が初めてだった。


彼女の元を訪れる度、その姿を目に焼き付け城に帰ると魔法を駆使してその日見た服装、髪型、表情を正確に姿絵に写す。

そんなことを繰り返しているうちに私の寝室は彼女の姿絵だらけになった。

天井まで埋め尽くしたいと言ったら部下に泣いて止められたが、それだけでは物足りない。


いつか彼女に食べさせたいと菓子作りを初めたり、添い寝用として彼女そっくりのぬいぐるみも作った。

十数年たつ頃にはアザレアの姿絵とぬいぐるみで寝室がほぼ埋まってしまった。


いつものように彼女を見守りに行った私はふと異様な空気に気がつく。

彼女の回りには濃い魔力が漂っていた。

すっかり忘れていたが魔力持ちの少女が動き出したらしい。

アザレアに害が及ぶなら殺してしまおうと考え、ふとあることに気が付く。


もしや好機なのではないだろうか?

この機会を利用して私は彼女を手に入れる。

人の心は簡単には手に入らないと聞くのでまずはこの城に招き入れよう。

それから少しずつ私の方を見てもらえるように努力してみよう。



そしてついに彼女が追い詰められる日がやって来た。

やっと会える!

やっと話せる!

やっと……想いを伝えられる!



愛しい人、あなたをじっくりと時間をかけて確実に手にいれよう。


緩んでしまう口許を隠しながら私は転移魔法を起動させた。

愛する彼女が囚われた牢獄を目指して――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王は悪役令嬢の一方通行守護者、またの名をストーカー 枝豆@敦騎 @edamamemane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ