十四日目


「これでようやくアザレアが私の妻に!」


「同行は受け入れましたが結婚は受け入れてません」


「な、なんとっ……!?ぬか喜びとはっ……!」


がくりと項垂れるレクシス。

私は彼につれられて魔王の住む城へとやって来ていた。

廃墟のような城を思い浮かべていたが、人間の王族の城より立派かもしれない。

その中の一室で私はレクシスと向き合いお茶を飲んでいた。


「思わせ振りな態度で私の気を引きたい乙女心というやつですか!?」


「違います」


「乙女心は複雑と聞きますからね。良いでしょう、アザレアが頷いてくれるその日まで根気強く口説くだけです!」


一人で盛り上がるレクシスを横目に昨日の事を思い出す。

レクシスはミリアが魔法を使ったと言っていた。

ミリアの反応を見てもそれは事実なのだろう。

あの後すぐに、レクシスの転移魔法とやらでこの城に移動したが彼女や王子達はどうなったのだろうか。

今となっては私に知る術はない。


紅茶を一口飲んで顔を上げるとレクシスと目が合った。

気味が悪いくらいにこにこと微笑んでいる。


「……なんですか」


「あぁ、すみません。愛しい人と何気ない時間を過ごせるのが嬉しくてつい」


どこまで本気なのか相変わらず分からないが、彼に救われたのは事実だ。

そっと紅茶のカップをおいて向き直る。


「……あなたのお陰で……少しは救われました」


素直にありがとうと言いたいのに口から出たのは可愛くない言葉。

しかしレクシスは笑顔のまま私に近付くと片膝をついて片手を自分の胸元に添えながら頭を下げた。


「お褒めに預かり光栄です」


その姿は昔読んだ絵本に出てくる騎士のようで不覚にも格好いいと思ってしまう。


「アザレアも私の手を取ってくれた事ですしこのまま結婚しちゃいましょうか?」


「しません」


「書類にサインだけもらえればこちらでもろもろの手続きはやっておきますから」


「まるで悪徳業者ですね」


「今ならこのお城もついてきます!ついでに私の部下もついてきます!」


「おまけの扱いやめませんか?控えてる部下の方が涙目ですけど」


「さぁ、婚姻の承諾書にサインを!」


「押し売りか!」






……私がこの魔王にほだされるのも、もしかしたら時間の問題かもしれない。





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