結んで開いて
新宿にある雑居ビルの屋上。
周りは高層ビル群に囲まれ、日照権は既に消滅。唯一、陽の当たる場所の休憩スペースにはボロっちいベンチがひとつ。そこに腰かける梨愛は珍しく、空を見上げていた。吹き抜けるビル風にそよぐ髪。髪はフォルに黒く染めてもらった。
「やはりここでしたか原木さん」
「なんですか御手洗さん、始業時間はまだですよ」
「いえ。ご報告がふたつありまして」
「へえ~。ひとつはなんですか」
「はい。ゲオルクがニズヘッグに融合解消を突きつけられたようです」
「どーでもいいです。梨愛にはかんけーありませーん」
「そうおっしゃると思いました。ですから、もうひとつあるのです」
「期待してないですぅ」
「まあまあ興味を持って下さい。今度は原木さんにとって有益な情報ですから」
「ほんとですかぁ?もしつまんなかったら今日のお昼ごはん、御手洗さんが奢ってくださいね?」
「お昼ですねわかりました。今度、我が社に新人が入ってくるのはご存じですね」
「知ってますよ〜。更衣室でケイコがイケメンイケメンって騒いでましたから」
「そうでしたか。ではその新人教育を原木さん、あなたにお願いするとします」
「えええええ!?だ、だって梨愛、そんなに仕事しないし、そんなに仕事覚えてないし」
「全部そうしろとは言ってません。大丈夫です、私がしっかりサポートしますので」
「ほんとですか?絶対ですよね、絶対ですよ!?あああ御手洗さんがそう言うから梨愛、今から緊張してきちゃった。ねえ御手洗さん、洗面台で使う洗剤はトイレで使うのと一緒でしたっけ?クロスは赤と青と何色でしたっけ、ああもう梨愛なんも覚えてないよう。御手洗さん、梨愛、ちょっと準備があるので道具確認してきます!」
初夏が近づく朝の新宿、都心の喧騒を緑の風が和らげる。
慌てて戻っていく梨愛を御手洗は穏やかな表情で見送っていた。そして一言。
「働いてください原木さん」
働いてください原木さん! 運昇 @breakingball
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