第16話 懐いてくれている女の子の後輩から弾むような声色でセンパイと呼ばれたい人生でした


 エルとのドキドキ初デートを終えてから翌日。

 俺はヌッチャリーグッチョリーの現状を正しく理解するため、夕方まで時間を潰して店に訪れる事にした。


 ちなみにただボケーッと時間を潰していたわけではない。

 キャスト増員のために給料体勢を見直す必要があると判断し、朝方起こしに来てくれたエルに色々聞いておいたのだ。



 キャストは主に元貧民街住人と奴隷で現状構成されており、給料に関しては固定給のみだそうだ。

 給料のシステムからして日本のキャバクラと大きく違う。


 日本のキャバクラの給料システムは、時給の固定給に加えて指名やドリンク売上のバックで給料が上がっていく。

 店ごとに異なるので一概には言えないが、基本は固定給とインセンティブという形だ。

 よくNo1キャバ嬢で数億稼いだなどと言われているのは、このインセンティブによるものが大きい。



 加えてエルから奴隷の扱いに関しても話が聞けた。

 奴隷には犯罪奴隷と借金奴隷がいて、戦争奴隷はもう長らく戦争自体がないので存在しないらしい。

 奴隷の人権保障の法律の制定に伴い、奴隷商が公務員扱いになり個人が既に購入済みの奴隷以外は国の所有になっているそうだ。

 風俗街で働いている奴隷は主に、国の所有の借金奴隷で給料から返済分を天引きされているとの事だった。



 エルから話を聞けてよかった。

 やはり、給料体制の見直しは必要だろう。

 インセンティブの制度が出来れば、キャスト増員とモチベーションの向上にもつながる。


 エルとの話を終えて、早速王城へ向かい王様に給料体制見直しを打診してみたが、あえなく却下された。

 理由は現状の利益でその制度は導入できないし、キャストの増員も難しいと言いうものだった。

 ぐぅの根も出なかった。


 ファッション誌での集客は見込みはあるが、速攻性がない。

 やはりまずは、小規模でも収益を出して認めさせるしか無いと判断し、冒頭のヌッチャリーグッチャリーへの視察に至るのだった。



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「こんにちわー」


 満を持して、ヌッチャリーグッチョリーにやってきた俺は、オープン前の何処かさみしげな雰囲気の漂う店の入口で声をかける。


「はいはーい……あら? タケルちゃんじゃない。どうしたの? エルちゃんならお使い頼んだから今はいないわよ」


 俺の呼びかけに応じて、店長が従業員室から出てきた。


「あ、いえ。今日はエルに用事というわけではなくてですね……」

「そうなの? まぁ良いわ。そんな所に立ってないでこっちいらっしゃいな」


 店長が手招きをして従業員室に入るように促す。

 まぁ王様と話したことを伝える必要があるし、少し話も長くなりそうだったので、俺は店長の誘いに乗ることにした。


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 ・


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「なるほどね~。色々考えてくれてたのねん? ありがとう」


 俺は店長に、キャストの増員の為に王様に給与システムの変更の打診をしたが断られた事、そして利益出すために営業中の視察がしたい事を店長に説明した。


「そういうことなら是非見ていって頂戴。って言ってもあんまりお客さん来ないんだけどね」

「ありがとうございます」



 俺と店長が話してい時に突然、背後からノックもなしにドアがガチャっと開く音が聞こえた。

 エルが帰ってきたのかと、俺が振り向くとそこには高校生くらいの年齢の見たこと無い女の子が立っていた。


「おはよーございまーす……あれ? 店長そのパッとしない人は誰ですか?」


 パッとしないって俺のことか?

 馬鹿な? 俺は過去に傷がありそうなニヒルでクールなナイスガイに見られることはあっても、パッとしないなんて言われたことなんて……いや、あったわ。

 無料案内所の先輩に連れられてガールズバーの娘達と合コンした時に言われたわ。


 その時は中々名前覚えてもらえなくて苦労したなぁ……最終的に『オテアライと漢字で書いてミタライです』って名乗って『え~じゃあトイレくんじゃんキャハハ』なんて言われちゃって、タハハ。

 いや~あの時はモテたモテた……自分で言って悲しくなってきたな、当然お持ち帰りなんて出来なかった。


 過去の辛い記憶が蘇ったせいで盛大に話がそれてしまったな、よし! 話を戻そう。

 で、誰こいつ? 

 初対面の相手に中々言うじゃないか、年下にナメられるのは癪だしいっちょかましてやるか。


「んもう! パッとしないなんて言っちゃ駄目よ! この人はタケルちゃん。ほら支配人さんが言ってた賢者様よ」

「どーも、俺が賢者です。崇め奉りなさい」


 普段なら賢者なんてと謙遜するところだが、このおしゃまなクソ生意気ガールにマウントを取るために、俺はこの世界に来て初めて賢者を受け入れた。


「ええー!? その人があの賢者様なんですか!? ……そんなお若いのに賢者なんてすごいですぅ。素敵ですぅ」


 この女! さっきと全然声色違うじゃねーか!

 それにしても中々の猫なで声だ。

 よく見たら顔立ちも整っているし、亜麻色の肩にかかるくらいの髪もよく似合っている。

 さっきまでは半開きでダルそうにしていた目も、今はくりっとした目になっていて、印象としては美人よりも可愛いと言ったところだろう。


 それにしてもあざとい。

 これでさっきのパッとしない発言が帳消しになると思っているのだろうか?

 いくら可愛いからって、俺は先の失言を忘れたりしないぞ、何故なら今の俺ってば賢者だし。

 それに親父も『さ行』で褒める女には気をつけろって言ってたしな。


「ん~? さっきはパッとしないとか言ってなかったけ?」

「あれはー……”ーフェクトなご尊顔にクラない訳が”略してパッとしないですよ」


 ほほう?

 苦しい言い訳だが、咄嗟の割には中々面白い事を言うじゃないか。

 ちょっと印象が良くなったぞ。



「タケルちゃん。この娘はメリムちゃんよ。ウチのNO1なの」

「はじめましてっ! メリムって言います。17歳でぇす!」


 なに!? この娘がメリム?

 あのエルに腕組を伝授したあのメリムさん!?

 その節はどうも! あの時は大変お世話になりました!!


 高評価だったメリムさんと目の前の低評価の小娘が同一人物と判明した事で、評価を足して2で割って俺の中でのメリムの評価はちょいマイナスくらいで落ち着いた。

 よし、対メリムの対応を『塩』から『うすしお』に変更だ。


「俺は御手洗健20歳だ」

「年上なんですね~じゃあ……センパイって呼びますね?」


 中高と帰宅部だった俺は当然のように年下の女の子と親しく機会がなく、こんな弾む様な声色でセンパイなんて呼ばれるのに憧れていた。

 後からこの店に来た俺がなぜ先輩なのか不明だが、これを指摘してセンパイ呼びが無くなるのは惜しい。

 ここは何も言わずに先輩であることを受け入れよう。

 この娘は後輩、この娘は後輩、この娘は後輩……あれ? なんか可愛く感じてきたぞ?



「ほほっ、ういやつじゃ、頭をナデナデしてやろう。どぉれ、もっと近うよれ」

「あ、そういうのはいいです」

「急に素に戻んなよ! なんか恥ずかしくなってくるだろうが!」


 チクショー! いいもんね! 俺にはエルがいるし? こんな小娘にドキドキなんかしてねーし?

 メリムのことを小娘小娘と言っているがエルの方がメリムより年下なんだよなぁ……まぁそれは置いておこう。



「戻りましたー。あれ? タケル様? どうしたんですか?」

「エルゥ! いい所に来た!」


 噂をすればなんとやら、エルのことを考えたタイミングでエルが帰ってきた。

 エルにメリムからの拒絶で傷ついている俺の心を、エルに癒やしてもらおう。

 これでハリネズミのようにササクレだっていた俺の心が、アルマジロのように丸みを帯びていくはずだ。


「エル! メリムの心無い言動に傷ついた俺を癒やすために匂いを嗅がせてくれ」

「「気持ち悪いです」」


 ヒューッ! エルとメリムという二人の美少女からの辛辣なお言葉だ、たまんねぇぜ。

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異世界の風俗街をプロデュース! ~異世界に無料案内所ごと飛ばされたから風俗街で頑張ります~ ぬこダイン @nukodain01

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