生きてる価値あるの。<挨拶回り>

 

 AM8:00。大和の部屋のインターホンが鳴る。昨日、飲み過ぎたこともあり

気分が悪いが、無視するわけにもいかず重い体を起こし、モニター越しで外を確認

する。そこには、渋谷が立っていた。入社式は、午後からのはずだ。なぜ、渋谷が自宅まで来る必要があるのか。


「渋谷さん。 なにしてるんですか」


――渋谷がここにいる理由

 

 AM4:00まで行きつけバーで親睦を深めた後、泥酔した大和がとても一人で家に帰れる状態じゃなかったため、渋谷がタクシーで家まで送ることになった。大和の家は、浦和駅周辺のマンションに住んでいる。


 大和の家に着くや否や、問題が発生する。それは、どうやって家に入るかだ。渋谷は社会立場上、許可なく大和くんのカバンを漁るわけにはいかないし、かといってそのまま家の前に放置っていうもの気が引ける。ここままだと、本当に家の前に放置せざるを得ないと感じ、スーツのポケットを急いで確認。すると、家の鍵っぽいのを発見する。これだ!と確信するや否や、鍵穴に差しドアを開け、部屋に入り大和をベットに置き、部屋を出る。


「大和くんの部屋の鍵、昨日持って帰ってきちゃったから、返すね。あと、勝手に部

 屋に入ってすまんね。」


「こちらこそ、すみません。ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」


「いいの、いいの。 お気になさらずに」


 大和は、午後から入社式を控えているが、式が始まるまで、事前に社内挨拶回りしないか。と渋谷から提案されると、快く了承する。


「いいですよ」


「準備しますので、20分程、時間ください」


「そんなに急ぐ必要ないから、ゆっくり準備してね」


 部屋に戻ると、すぐに浴場へ行きシャワーを浴び、頭と体を洗う。シャワー浴びた後、シェイカーにプロテインの粉末を入れ、朝食を取り、速攻でスーツに着替える。

 

 一方、大和が部屋から出てくるのを待っている渋谷は、ある人と電話をしていた。


「もしもし、渋谷だ。 例の件、会社についたら、よろしく頼むね」


 渋谷が電話を終えると同時に、大和が部屋から出てくる。


――お待たせしました


「じゃあ、行こうか」


――はい


 芸能プロダクション(ホワイトレインボーミュージック)は赤羽駅から、徒歩10分のところに立地しており、大和のマンションから会社まで行くには、浦和駅から赤羽駅で降りないといけない。ちなみに、浦和駅から赤羽駅までは、約8分かかる。

 

 大和のマンションから浦和駅へ向かう渋谷は、大和にアイドルをどう思っているかを問う。


「そういえば大和くんって、アイドルに興味がある?」


「各拠点で活動してる名古屋(栄)とか、東京(秋葉原)のアイドルグループは知っ

 てます」


「あー。 巷で話題になってるアイドルグループね」


「そうです、そうです。これは、私の意見ですけど最近、有力なメンバーが卒業しちゃってるんで、そろそろ限界だと思いますね」


「結構、厳しいこと言うね」


「自分が開発したアプリ(パフノー(person who knows))にも、”落ち目”とか”顔

 がみんな同じ”とかという意見が多いですよ。natul’s(ナチュールズ)を批評する

 意見は、全然ないですけど…… やっぱり、国民的アイドルとは、天と地の差があ

 りますね」


「実はね、君がマネジメントを希望しているアイドルグループnatul’s

(ナチュールズ)には、いろいろと問題があってね。手を焼いているんだよ」


「問題ってなんですか……」


「まあ、こればっかりは、自分の目で確かめたほうが良い」


 自身のアイドル論を展開している内に、会社に着く。

 

「渋谷さん。おはようございます」


 会社の受付窓口に行き、ある人を呼び出すよう受付嬢に依頼する。


「おはよう。マネージメント部の有馬、呼んで貰えるかな」


「わかりました。 少々待ちください」

 

 二人は、有馬が1階ロビーに到着するまでソファーに座り待つ。

 

 すると、遠くから女性が近づいてくる。

 

「有馬ちゃん。 こっち、こっち」


「渋谷さん。 おはようございます」


「有馬ちゃん。今日も綺麗だね」


「そんな、お世辞いいですから。私もそんなに暇じゃないんですから、早めに要件を

 伝えてください。」


「せっかちだな。 電話でも話したけど、今日からマネージメント部に所属しても

 らう秋月大和くんだ。手取り足取り、教育よろしく」


「有馬華怜です。よろしく」


「秋月大和です。よろしくお願いします」


「じゃあ、有馬ちゃん。 あと頼んだぞ」


「はーい」

 

 有馬に全てを任せ、自分の仕事に戻る渋谷。


「君が秋月くんだね、渋谷さんから全て聞いてるよ。この会社に変革をもたらす

 逸材を見つけたって」


「逸材って……恐れ多いです。」


「私も期待してるから、頑張ってね」


「じゃあ、社内の挨拶回りしましょうか」


「はい。 よろしくお願いします」


 芸能プロダクション(ホワイトレインボーミュージック)は、1階には受付ロビー、管理本部(人事G・総務・経理部)、2階には、マネージメント本部、3階には、技術部、4階には、営業企画部、このような運営部門から成り立つ。


「まずは、管理本部から挨拶していきますかね」


 本部長の一室へと向かう。


「本部長に挨拶しに行くから、失礼のないように」


 本部長の扉を2回ロックし、中から声が聞こえる。


――ドアノブを開け恐る恐る入室


「失礼します」


「何の用件かね」


「武田さん、入社式の前に申し訳ございません。 今日から、マネージメント部に

 一人新規で配属されますので、事前の挨拶回りよろしいでしょうか」


「手短にね」


「じゃあ、挨拶よろしく」


「本日からこちらでお世話になります秋月 大和と申します。 よろしくお願いいた

 します。」


 本部長の武田に自己紹介をした大和。

 

 ――皆、同じ反応をする


 大和の社内評価が非常に高い


 渋谷が、大和の面接を終えた後、すぐ武田に電話し、凄い逸材を見つけたと興奮気味で報告したこともあり、名前は知っていた。


「まあ、頑張ってね。 期待してるよ」


「はい。 でわ、失礼します」


 本部長の部屋から退室する。


「君すごいね。 本部長まで名前が知れ渡ってるなんて」


「全ては渋谷さんのおかげです」


「ほんと、渋谷さんに感謝しないとね」


 2階マネージメント本部、3階技術部、4階営業企画部の関連部署への挨拶回りを全て終えた大和。

 

 会社の壁に掛けている時計を確認すると、すでに昼のPM12:00を過ぎて

いた。


「挨拶回りって、ほんとだりぃ……」

 


 

  





 

 

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生きてる価値あるの。 @waraji

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