第8話気まずい

つむぎちゃん、ちょっと隠して!」

 英美里えみりは陳列棚を見ている紬と、その隣の客の間に顔を埋めた。客は迷惑そうにちらっと見るが、英美里はお構い無しだった。

 英美里が、ほっ、と息を吐き出すと、紬は不思議そうに「どうしたの?」と英美里に問う。

優乃ゆのちゃんと尚平しょうへいくん、いた。」

 紬の目が大きく開かれた。



 英美里は、先にお目当てのコーナーに向かった紬を追って歩いていた。ふと視界に見慣れた制服の男女の姿が入った。背格好、顔、声、間違いなく同じクラスの高階たかしな優乃ゆの片桐かたぎり尚平しょうへいだった。



「え!?間違いない?」

 紬は声をひそめて言う。英美里は真剣な目をする。

「間違えようがないよ。二人って、付き合ってるでしょ。」

 英美里の言葉に、紬は大きくうなずいた。

 優乃と尚平のカップルは、有名だった。中学時代から彼氏が途切れたことがないという噂で、いかにもモテそうな優乃と、どちらかというとおとなしく、恋愛とは縁のなさそうな尚平。この二人の組み合わせの上、入学から一週間そこらで付き合い始めたという話だ。それから一ヶ月たった今では、一年生どころか全校生徒に知れ渡っている。

「わざわざデートってこと?ここで?」

 紬と英美里は世間一般には『オタク』と呼ばれるタイプ。二人がいるのは、アニメやマンガ、ゲームのグッズを各種取り揃えている、某有名な店だった。

「優乃ちゃんはゲーム好きだけど、尚平くんはどうだったっけ?」

 紬の問いかけに、英美里は唸る。

 二つのパターンが考えられる。一つ目は、尚平が優乃と同じゲームにハマっているパターン。二つ目は、尚平が優乃と同じゲームをするほど惚れ込んでいるパターン。



 結論は、結局出ないままだった。

 というか、勘ぐったが、リア充のイチャイチャ事情なんて知りたくない。


「よく考えたらさぁ、優乃ちゃんと尚平くんは付き合ってるじゃん。私たち、非リアだよ?非リア二人がここにいるのをリア充カップルに見られるって、結構辛くない?」

「英美里ちゃん……、多分さ、あれは強めの幻覚だよ。」

 紬の言葉に、英美里はただただうなずいた。

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結崎高校 夏野彩葉 @natsuiro-story

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