嫌天の子

こむすび

雨に降られ過ぎた男

「あっつ…」


熱気のこもった部屋で起きる。


昨日は遅くまで残業し、その後チェーンの居酒屋で同僚と飲んだ。


クライアントの愚痴を言いながら、飲み放題のビールを飲む。そして日が変わり、閉店になるぐらいに家に戻った。


雨に打たれながら。


傘を持っていたのだが、居酒屋に忘れてしまったようだ。そして、帰宅途中にゲリラ豪雨を浴びた。


冷えた体をバスタオルで拭き、そのまま眠ってしまったようだ。


今は6月。エアコンをつけなければ暑さで目がさめるのも仕方ないだろう。


傘を忘れなきゃ降らなかったのかもしれないな…なんて思いながらエアコンをつけ、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んだ。


もう一度寝ようかと思うが、汗でベタベタの身体ではもう一度は眠れそうにもない。


せっかくの休みだ。平日の会社から消化させられた有給消化の日。何かしたいわけでもないが、シャワーでも浴びて外に出よう。晴れているしな。今は。


ベランダに出てタバコを吸う。

朝の日課になりつつある。


隣のベランダにはてるてる坊主が吊るされている。

遠足でもあるのかな?晴れてくれるといいな。そんな風に思った。



……………



知ってた。


降水確率0%の地域に雨が降る。ゲリラ豪雨ではあると思うが、それにしてもひどい。


傘が役に立たず、仕方ないので近くの定食屋に駆け込んだ。


「九州北部では、20年ぶりの降水量で…」

「もう去年の降水量を超えて…」

「ダムが決壊水域に…」


テレビではそんなニュースをやっている。気分が滅入る話だ。


北海道からこっちに越してきたが、向こうてまは安定した気候になったらしい。


俺はいつもそうだ。嫌な天気に愛されている。

呪われていると言っても過言ではない。


大学生の頃、ツーリングに誘われては豪雨に襲われた。まともにツーリングできたことがあっただろうか。


「こんな体質が誰かの役に立てればいいな」


まあ無理だろうが。


俺はそんな事を考えながら、豚の生姜焼き定食に手をつけ始めた。


………………


「こんばんは!」


「ああ…こんばんは」


俺のアパートはそれなりに広い。モノは少ないのだが、どうせ会社の金で借りれるのだからと収入には不相応なアパートを借りたのだ。


隣はどうやら母子家庭なのか、女の子と母親しか見なかった。たまに大学生ぐらいの女性もいたかな?まあわからないが。


挨拶もハキハキと、身なりもきちんとしてる子だ。多分良い子なんだろうな。


彼女は鍵をかけて外に。俺は帰りに買った弁当を持ち自室に。


ただすれ違うだけの関係だった。


……………


「てるてる坊主って知ってる?」


「うん、知ってるよ!吊るすと晴れになるんだよね!」


「逆さに吊るすとどうなるか知ってる?」

「知ってるよ!雨になるんだよね!」


昨日は通常の吊るし方だった。遠足みたいだったから、それはわかる。でも…


「ねぇ…明日は何の日か知ってる?」

「うん、お姉ちゃんの結婚式だよね!」


外のてるてる坊主は逆さだった。




「大丈夫!明日は晴れるよ!」



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嫌天の子 こむすび @kmsb

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