魔神のランプに願いを
逆脚屋
魔神
ランプ、所謂発光装置又は、燃料を燃やす照明器具の総称である。遥か古代から世界各地で、様々な姿で使われ続けたが、文明が発達した現代に於いては、インテリア若しくは趣味でしか使われなくなったそれ。
アラビアンナイト、千夜一夜物語で有名な魔法のランプ、擦れば魔人が出てきて三つだけ、願い事を叶えてくれるとも言われるそれを、日々に鬱屈していた少女は手にしていた。
「魔人よ魔人、我が願いを叶え給え。……って、出る訳ないか」
いくら、〝こんな世界〟と言っても、そんなお伽話が、都合よく現実にある訳が無い。
古びたよくあるランプを放り捨てようと、持ち手に人差し指を引っ掛けた時、火口から靄の様な煙が漏れ出ている事に気付いた。
まさか、油か何かの燃料が残っていて、指を引っ掛けた際に引火でもしたかと構えたが、熱を感じない。
一体何なのか。少女がランプによく目をやる。灯心が出ている筈の口から、細い靄が伸びていた。
伸びる靄は少女が眺める中、うねる様に踊る様にして揺れて、段々と形を作っていく。
やがて、それは人によく似た姿となり、火口から伸びる靄は、まるで尾の様に少女を取り囲んだ。
「え、何? 何なの一体……!?」
狼狽える少女を他所に、靄は少女を取り囲み、言葉を発した。
『願いを言え』
「え?」
『願いは三つ、願いの回数を増やす、身に余る願いは自動で却下される』
「事務的! しかも、ネタ潰しまで……?!」
――こいつはヤベエぜ……!
少女は、頬を伝ってきた気がする汗を、手の甲で拭う。
『内容の制約は、死者蘇生、時間逆行、理核干渉は不可能。また、願いの規模は段階的であるという事』
「段階的?」
いまだに輪郭や姿が確定せず、靄だか煙だかはっきりしないものが、何やら聞き慣れない単語を発した。
死者蘇生、時間逆行、理核干渉、これが不可であるという事は、この世界の常識だ。
死者を蘇生させるという事は、既に確定した世界に発生した欠損を、無かった事にする事であり、甦った死者という矛盾を、世界に書き加え、確定していた世界を書き換えるという事になる。
時間逆行も同じだ。嘗てこうだったから、今はこうである。という、世界に刻み付けられた確定事項から、逸脱する行為であり、世界を崩壊させかねない。
そして、理核干渉は、〝この世界〟に生きる者なら、前記の二つを超える、絶対の禁忌だと知っている。
「……一応、聞くけど、干渉、出来るの?」
『可か不可かと問うならば、不可寄りの可ではある』
――マジかー……
こいつはヤベエ拾い物しちまった。さて、どうやって捨てよう。
ランプの魔神、
今回のランプの魔神は、物語にもあるように、ランプを擦る、呼び掛ける事で、三つの願いを叶えるという契約が結ばれる。
「因みに因みに、私が願えば、それは叶う?」
『現時点では不可だ』
契約が結ばれた、魔神や精霊と離れる事は、至極困難を極める。
魔神とは魔の神であり、精霊は世界から滲み出した自然の力の具現だ。人一人が、独力で抗える存在ではない。
ならば、今回は諦めて、さっさと願いを三つ叶えてもらって、さっさと消えてもらおう。
『そして最後に、叶える願いは心の底から、渇望したものだけだ』
「ファッ?!」
――ヤベエずら、聞いた事ねえずらよ、そのパターン。
金やら名声やら、それらしい事テキトー言って、さっさと終わらせる筈が、まさかの縛りが発生した。
心の底から渇望する願い、そんなものが三つもホイホイ出てくる人間が居たら、そいつはきっとトンでもねえ環境に生きてるよ。
まったく、渇望する願いなんて、普通に生きていたら、ポンッと出てくる訳ないじゃないか。
「巨乳になりたい……!」
『いきなりキタな……!?』
出たよ。渇望してたよ。いやぁ、人間望めば出るもんだ。
生まれてこの方、胸部に無かった物質的な重さと豊かさが、ノーエフェクトかつノータイムで発生した。
『マジか……、渇望してやがったよこの人間……』
「Foooooo! やったぜ! これで私もオッパイカースト上位だ……!」
『うわぁ……』
なにか引いてるけど、こんなもん言ったもん勝ちなんだよ。
はっはぁ! これがカースト上位の重さ。見ていろ、貴様らが侮った最下層民は、今や最上層民ぞ!
ほれほれ、早う敬わぬか。
『いや、契約がまだ完全ではないが、貴様、頭は大丈夫か?』
「ふはははははは! これならオッパイバラモンも夢ではない……! ……あ、何か言った?」
『何だよ、この人間。我、こんなの初めて』
やったぜ、魔神の初めて頂いたぜ!
こんなの、世界始まって以来、私が初めてではなかろうか。そこんとこどうよ、んン?
「て言うか、契約が終わってない?」
『最後の説明がまだだからな』
「なんだよ、という事はこの願いは、説明不足でノーカウント?」
『願いを無かった事にするか?』
「何も言ってません!」
あぶねえ、この魔神、油断も隙もあったもんじゃない。
『……最後の説明だ。願いの規模は段階的である事』
「つまり、どういう事よ?」
『いきなりトンチキかましてきやがって、まあいい。貴様の様な哀れな脳でも、理解出来る様に説明してやる』
「こ、この野郎、人が下手に出てりゃいい気になりやがって……!」
『無視して言うぞ。1の渇望は叶えた。次は2の渇望を望め』
「はあ? 頭沸いてんの?」
『最下層民に戻るか?』
「マジすんませんっした!」
だけど、1の次は2って、つまりどういう事よ?
『1の渇望は個人、2の渇望は集団、そして最後の3の渇望は世界だ』
「は? ……いやいや待って、個人集団世界って、まさかそれって」
『個人、貴様の渇望は叶えた。次は集団、その全員が渇望する願いだ』
何だろうか、凄まじく嫌な予感がする。この魔法が存在する世界で、集団全員が渇望する願い。絶対に碌な願いにならない。
「その集団は、不特定多数であり、作為的な集団は可能?」
『つまり、貴様が選んだ集団という事か?』
「イエス」
『可だ。しかし、叶う願いの質は下がる』
「と言うと?」
『願いや、その集団の質にもよるが、そうだな。貴様ら人間が安易に望む、金銭に関する渇望なら、世界一の富豪が世界二の富豪になるとかか』
「質にもよると言う事は、それ以下に下がる事もある?」
『是だ。だが、富豪になるという事だけは変わらない』
「つまり、不純な願いであり、それを渇望する集団は、思い通りの願いを叶えられない」
『是だ。心の底から渇望していれば、自ずとその通りに叶う』
「くあー」
やられた。つまり、世界一の大富豪を私達が望んでも、金銭に関する問題や、渇望を抱いていなければ叶わないし、叶ってもランクダウン。
しかも、叶える願いは集団全員が渇望する事。つまり、個人が願いを叶えようとしても、その願いは叶わない。
『次に3の渇望だが、理解している様だな』
「世界全てが渇望する願い、不可能だよ。叶えられない。絶対にへそ曲がりの根性ねじ曲がった、コミュ障ドーテイが邪魔してくる」
『ものスゴい偏見を感じるな。だが、まあ今までの数万年間そうだった』
「というか、規模を段階的って事は、願いの大きさも段階的じゃん。集団で世界一の大富豪なら、次の世界は銀河一の大富豪?」
『まあ、その解釈で合ってはいるな。我が叶える渇望は、1は個人の渇望、2は集団の渇望、3は世界の渇望。……最後の3の渇望を叶える事が出来たなら、貴様は理核にすら干渉出来る』
「それが不可寄りの可ね」
理核とは、この世界の理だ。この世界はこういう世界だからこうだという、世界のルールブックが理核。
それに干渉するという事は、定義上にしか存在しない絶対神になるという事。
「今まで2の渇望まで叶えた人は?」
『一番最近では、大体三百年前に、この国を統一している』
「ワオ」
つまりは、ほにゃらら幕府。
『説明は終わりだ。さあ、契約を』
「ああ、はいはい。契約契約」
『……軽いな』
「なるようになるしかないし、無理に抵抗しても、明日にゃまた契約だしね」
『明日? なんの話……』
おっと、そうはいかない。
「はい、契約。『渇望の魔神〝ドゥアリータ〟、我〝沙原希望〟との従魔の契りを結ぶ』っと」
『あ、このクソ人間……! よりによって従魔契約を……!』
「やったぜ。そっちが〝契約〟を持ちかけてきたから、試しにやったら成立した!」
『考え無しにも程がある……!』
「え~、〝契約〟の詳細を言わなかったそっちが悪いし~」
『ええい、頭の悪い喋り方だな!』
言ったもん勝ちの結んだもん勝ちとは、過去の人達はいいこと言ったよね。
『……まあいい。貴様ら人間の時間なぞ、我からしてみれば瞬きの間だ』
「お、有りがちな強がり」
『本気でぶっ飛ばしてやろうか?』
ふはははははは! しかし従魔契約がある以上、君は私に従うしかないのだよ。
『はあ、真名〝ドゥアリータ〟は
「おん? 何か不審な響きがあった、な……? ……バラモン」
『は?』
「オッパイバラモン……」
私の巨乳を超える巨乳が、薄着褐色巨乳が現れた。
は? 薄着褐色巨乳で、下腹刺青付きの金髪とか、は?
え、私の性癖にクルんだけど?
「二番目の願いー……!」
『却下だ、主』
ファック、マジファッキンですよこいつは……!
魔神のランプに願いを 逆脚屋 @OBSTACLE
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