此処
孤独と静寂を求めていたはずだった。
遮断することのできるすべての騒音を遮断し、余計な思考を追い出し、ひとり、世界に向かおうと私は思っていた。
それがどうして、あんなにまで懊悩を膨らませることになってしまったのだろう。
理由はたくさんある。
とても要約することなどできないそれらの理由をあえて要約すると、
「私の脆さ」
という一言に尽きる。
その脆さを、病気のせいにしたり、環境のせいにしたり、他人のせいにしたりする。
そんな自分に心底から嫌気がさして、「つよくなろう」と決意する。
そして、気づけばまた、ほら、他人のせいにしている。
私は「障害者」だから仕方ない。
そういう甘えが自分にないと言い切れるか?
私のせいじゃない、あいつが悪いんだ。
それでいいのか?
本当にそれでいいのか?
いいわけない。
もう言い訳はしない。
もう、言い訳はしたくない。
私の、罪にまみれた過去。
悔いや、恥辱や、おそれ、そういったものすべてをひとつの墓標のもとに葬ろうというこころみは、『盗蜜』という作品として、まがりなりにも言葉としてのかたちを与えることができた。
それを書籍という形にしてのこそうと思っていたけれど、いまの私には、それはもう不要なものになっていた。「予定」通りに書籍にすることもできるだろう。でも、そうすることに意味はないと思っている。
それらは過去だから。
もう弔いは済んだのだろう。
私はそれらを置いて、次の道へ歩をすすめようと思った。
しかしその一歩がおそろしく、なさけなくて、私は狂って逃げまわった。
そして多くの人にまた迷惑をかけ、恥をさらした。
ばかみたいだ、ほんとうにばかみたいだ。
いや、ばかなのだ、私は。
なんべん死のうと思ったって、死ぬことはできなかった。
生きながらえて、なにになるだろうと思いながら、生きてきた。
ぜんぶ嘘だし、ぜんぶ影だし、ぜんぶぜんぶ、どうでもいいと思っていた。
働くことも、話すことも、暮らしていくことも、なにもかもが厭わしかった。
死ねない自分を怒鳴りたて、怒鳴られた自分は不貞腐れて。
そうやってずっと、私はひとつところをぐるぐると、うつむいてめぐっていただけだった。
いま、私はようやく、孤独と静寂をおもいだした。
血を吐くような切なさでおいもとめて、そのために生きて、
やっとつかんで、つかのま、すぐに手からこぼれ落ちてしまった、
落としてしまった、私だけの、この宝を。
私はもう、此処からどこにもいかない。
そうして何に誓うのだろう。
師に?
友に?
いずれも正しく、いずれも誤りだろう。
私はここで、何に誓いを立てているのだろう。
わからない。
けれど、わからないままにこの感情をここに書く。
あまりにもありがたい孤独と静寂に、涙が落ちる。
生きて、書いていくから、見ていて。
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