【昔話】人魚とカモメ

くーよん

三題噺【人魚・さげみずら・翼】

 むかしむかし、まだ人と動物が言葉を交わしていたころのおはなし。



 ある所に、一人の人魚がおりました。

 人魚はいつも海辺で、さみしそうに泣いておりました。

 そんな様子を見ていたカモメが一羽、人魚に話しかけます。


「君はいつも泣いているね、何がそんなに悲しいんだい?」


「カモメさん、私は自分が人間でも魚でもないことが悲しいのです。

 魚たちには、お前は人間だと言われます。

 人間たちには、お前は魚だと言われます」


「ははあ、だから君はいつも一人なのだね」


 カモメがそう言うと、人魚はもっと大きな声で泣いてしまいました。

 そんな人魚を見て、カモメは自分の羽を広げて言います。


「なんだいそんな事、魚も人間もだめなら、僕と仲良くなれば良い」


「でもカモメさん、あなたは水の中では生きられないでしょう?」


「やってみなければ分からないじゃないか、それっ」


 そう言って、カモメは海に飛び込みました。

 しかし、ふかふかなカモメの羽はたっぷり空気を含んでおりましたから、

 すぐに浮かんできてしまいます。


「カモメさん、無理をしてはいけないわ」


 人魚はそう言って、海に潜ってしまいました。



 その次の日も、人魚は一人で泣いておりました。

 そこにまた、カモメが飛んできました。

 カモメはくちばしに大きな岩をくわえておりました。


「君はまた泣いているね、見ておいで。それっ」


 カモメはそのまま、また海に飛び込みます。

 今度はちゃんと沈めましたが、浮かぶことが出来ずに

 すぐに息が苦しくなってしまいます。

 水の中でもがいているカモメを、人魚は慌てて助けました。


「カモメさん、無理をしてはいけないわ」


 人魚はそう言って、海に潜ってしまいました。



 その次の日も、人魚は一人で泣いておりました。

 そこにまた、カモメが飛んできました。

 カモメは大きな木桶を頭にかぶっておりました。

 足には二つ、つかめるだけ大きな石を掴んでおりました。


「君はまた泣いているね。見ておいで。それっ」


 カモメはそのまま、また海に飛び込みます。

 今度こそ、ちゃんと沈めましたし、息が苦しくなることはありませんでした。

 しかし、カモメは桶の中しか見えませんし、身動きも取れません。

 カモメが困り果てた頃、人魚がカモメを助けてくれました。


「カモメさん、無理をしてはいけないわ」


 人魚はそう言って、海に潜ってしまいました。



 その次の日も、人魚は一人で泣いておりました。

 そこにまた、カモメが飛んできました。

 しかし、今日はカモメは何も持っていませんでした。

 泣いている人魚の隣に座り、もじもじとします。


「君はまた泣いているね。君の言った通り、僕は海では生きられないようだよ。

 頑張ったのだけれど、僕は海に潜れない」


 羽を畳んで首を引っ込めて、カモメは申し訳なさそうにそう言いました。

 そんな様子を見て、人魚は首を傾げます。


「カモメさん、なんであなたは私に話しかけてくれるの?」


 そう言うと、カモメはもっと首を引っ込めて言いました。


「僕もひとりぼっちなんだ。皆みたいに海を渡れないで、浅瀬ばっかり飛んでるのさ。

 ねえ君、見た目が皆と一緒でも、独りぼっちの僕みたいなのもいるんだよ」


 そう言って、カモメは泣き出してしまいました。

 そんなカモメを見て、人魚は何かしてあげようと思いましたけれど、

 カモメのように何かをしてあげることが出来ませんでした。


 だから、人魚はまた泣きだしてしまいました。

 人魚とカモメは一緒に、たくさん泣きました。


 涙が枯れた後に、カモメは人魚にたずねました。


「人魚さん、君はなんで泣いたんだい?」


「うれしくて泣きました」


「僕が泣いたのがうれしかったのかい」


 首を傾げたカモメに人魚は首を振ってこたえます。


「いいえ、私はカモメさんのように何かをしてあげられなかった。

 でも、だから、カモメさんがどれだけ悩んで、

 私と一緒に居ようとしてくれたかが判ったんです」


 人魚はそう言って、自分の長い髪を、頭の左右で垂らすように結わいました。

 カモメはその形を見て嬉しそうに声を上げます。


「やあ、人魚さんの髪は、僕の羽と同じ形だね

 それに、その方が顔が良く見えてきれいだね」


 嬉しそうなカモメを見て、人魚は涙をぬぐいました。


「カモメさん、良かったら明日も遊びに来て下さい。

 海を越えず、一緒に海辺で仲良く暮らしましょう」


「やあ、笑った笑った。人魚さんが笑ったぞ」


 人魚とカモメは、それからも仲良く暮らしました。

 この頃から、カモメは浅瀬に住むようになりました。



 カモメと人魚が友達となった話は人々にも広まりました。

 そして、友情の証となった髪型と羽の事をそれぞれ、


「美面:みづら(みずら)」「津浅:つあさ(つばさ)」

 と呼ぶようになったのでした。


 めでたしめでたし。

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