第11話 話し好きなオバちゃんの話しに巻き込まれると助け出してくれる相手が天使に見えるかもしれない

 夜が明けて地上に出ると、まずはトーチカを埋める。

 次にウサギ肉を捌いて焼いて朝食にする。

 変に尖った味がない分、常日頃から食べる肉としては最適な部類だろう。


 燃え残った枝に砂をかけ、火の始末を終えると。

 2人は乗り合い馬車の停留所に腰掛け、馬車の出発を待った。


 この乗り合い馬車は、半分程はハンターギルドの善意で成り立っている。

 毎朝街から1本、と集合拠点から1本出ている。

 御者は引退したハンターが努め、更に1人御者台に座る。

 彼等は御者と交代要員、そして2人共馬車の護衛としてギルドから雇われている。


 馬も2頭仕立てで。軽くて頑丈な木材を使った、質の良い馬車が引かれている。

 また馬車の乗り賃も頭割りではなく、1人でも多人数でも変わらない定額方式になっている。


 引退したハンターの救済と、現役ハンターの移動の支援。

 全員には不可能だが、引退した後の仕事も可能性はあり。

 新人の頃はベテランだった御者の話しを聞ける。


 現役ハンターは移動が楽になり、疲れを残さず森での魔物狩りに出られるし。

 帰りも、疲れた体で歩く必要性がなくなった。


 このハンターに対する馬車での支援を開始してから、既に10年以上が経過している。

 そしてその効果は、初年度から確実に結果を出し。

 2年目からのギルドの利益は、馬車の支援をする前までの平均の2倍を超えた。

 魔物の素材が安定して入ってくる。

 この年のギルドの会計は、終始ご機嫌だったと言われている。


 そして欲を出して馬車の本数を増やしてみたが失敗。

 確かに利益は出たが、経費や維持費の関係から継続を断念。

 その後はハンター達の意見も取り入れ、7年目からは今の形で落ち着いている。


 値段は大銅貨5枚。

 安い食事とおおよそ同じ値段だ。


 ハンター達が森に入る時間に合わせて、乗り合い馬車も出発する。

 今回は珍しく。フーライとキリカの2人だけしか、馬車に乗る者は居なかった。




 途中何度かの休憩をはさみ、夕方近くになって街へと帰ってきた。

 フォルディナンド聖王国、王都フォルディナンド。

 住人からは街としか呼ばれない、悲しみの名を背負った街である。


 曰く。

 フォルディナンドって呼ぶのは長いからな、外にいる時は王都って呼んでるぜ?

 わざわざ王都って言わなくても、自分が住んでるんだから街でいいじゃないのさ?




 フーライとキリカは街へ入ると、先日泊まった宿に空きがあるかの確認に向かった。


「あの部屋かい?朝掃除に入ったらやたらキレイになってるじゃないか。昨日泊まった客が気に入っちゃってね。既に連泊料金を払っちゃってるよ?」


「あっ、いえ。同じ部屋でなくてもいいので、ツインルームは空いてますかと聞いているのですが」


 先日と違い受付に立っていたオバちゃん従業員は、その押しの強いしゃべりでキリカを圧倒。話しが進まないまま、しゃべりだけが続いている。

 フーライは諦め宿から出て、キリカに声をかける。


「キリカ、行くぞ。この宿は俺達を泊める気がないらしい」

「あっ、はい。今参ります」

「あっこら、ちょっとお待ちよ!」

「テメエまた、何やってんだ!気の短いハンター相手に、長話しして客逃してんじゃねえよ!!」


 あのオバちゃん従業員は、何度同じミスを繰り返しても学習しないらしい。

 おそらく家族経営で、宿屋の主人がワンマンで頑張っているのだろう。


 フーライはキリカの案内で宿の多い通りに向かい、片っ端から空き部屋がないか聞いて回るのだった。

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