第10話 荒々しいハンター達の日常茶飯事

 森から出たハンターチームの集合拠点には、自分達チームの拠点を守るメンバーが誰かしらいる。

 それは魔物から守るのは当然だが、同じ人間からも守る必要がある。

 でなければ、折角の獲物を奪われてしまうからだ。


 まだ昼直前の早い時間帯なのに。全身に汗をかいて女に肩を支えられている、軟弱者が帰って来たら。

 娯楽のない退屈な守番もりばん達は、嬉々として指を指して笑い出す。


「おいおい。まだ昼にはなってねえぞ?」

「ハハハハハッ!坊やは色んな意味で早かったんだろうよ!」

「そこのべっぴんさんよ。そんなガキは捨てて、俺達とよろしくヤラねえか?」

『ガハハハハハハハハ!!』


 フーライは集合拠点の入口近くで立ち止まると、キリカに冷たく耳打ちして離れされた。


「俺の為に、怒ってくれてありがとう。でもな?俺もお前を悪く言われて、全く我慢ならねえんだよ」


 そして疲れた体に鞭打って叫ぶ。


「弱い犬ほどよく叫ぶってなぁ!ご主人様に、森に連れてって貰えない番犬風情が煩えよ!」


「んだと、こらぁ!もっぺん言ってみろや」

「ぶっ殺すぞテメエ!!」


「ザコ犬キャンキャン負け犬人生物語の主人公って、言ったんだよ。人間様のマネしてねーで、さっさと這いつくばれよ」


「もう容赦しねえ!」

「ぶっ殺してやる!!」


 自分から相手を見下して侮辱しておいて、同じ事をされたら武器を抜いて襲いかかる。

 それのどこが、理性ある生き物の行動と言うのだろうか。

 彼等には強者を感じ取る感覚はあっても。

 強い能力を持ったばかりの相手を感じ取る感覚は、生憎と持ちわせてはいなかった。




 襲ってきたハンター達は全員重症になって、辺りに倒れている。

 前回はチーム全員が襲ってきたので、身ぐるみ剥いで殺人未遂の犯罪者とした。

 今回はそれをすると、相手チームの残りのメンバーから逆恨みされるので。

 その恨みの量を減らすべく、襲ってきたハンターを返り討ちにしただけで終わらせた。


「今倒れている奴等を治したら、高額請求出来んじゃねえか?」


 最後に一言だけ叫んで、集合拠点を北に進み。

 乗り合い馬車の停留所近くに腰を下ろした。


「フーライ殿。某の為に戦っていただき、感謝いたします」


 フーライは自分がまだ、能力頼りの弱者だと自覚している。

 自覚させられたばかりだった。

 だから何を言われても、疲れていた事もあり無視できた。

 だがキリカは、それを我が事の様に怒ってくれた。

 そんなキリカを戦士ではなく、性の発散相手としか見ない発言を聞いてキレた。


(コイツ等をブチのめして、キリカの見る目が正しいと証明してやる)


 その結果が先の喧嘩である。

 喧嘩と言うには些か、怪我が激しい者ばかり出たが。


「さっきも言ったけど、お互い様だ。オメーは信じられるヤツだ。これで最初から、俺を騙す為に近付いてきたってんなら。俺はもう誰も信じられなくなる。普通の戦士で言うなら、安心して背中を任せられるってやつだ」


「フフフ。でしたら某も、背中の守りは一切捨てましょうか」




 体力気力が回復したので。

 停留所から北北西に進み、魔法で地下トーチカを作り入る。

 少なくとも翌朝までの集合拠点は、魔物が溢れる森よりも危険だった。


 地上で捌いたウサギを炙り、塩をふりかけてかぶりつく。

 肉自体は淡白だが脂は美味い。

 ならばと野菜と一緒に鍋で煮て、塩味だけのスープにしてみる。

 店売りの物より落ちるが、街の外で食うにはマシな物ができた。

 2人は硬いパンをスープでふやかし。

 最後にスープを飲み込んで完食した。

 トーチカの下には更に空気層の階を用意してあるので、朝までなら地上に出した空気筒だけでも大丈夫だろう。


 床に毛皮の毛布を敷き、外套に包まってから眠る。

 荒々しい1日であったのにもかかわらず。

 2人の寝顔は、穏やかな表情をしていた。

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