第9話 三位一体の攻撃があるなら5体同時攻撃はゴミいっぱい?

 昨日と同じ南門から出て。

 今度は真っ直ぐ進み、先にある森に入る。

 真っ直ぐとは言っても、森が近ければ魔物が街を襲うので。

 乗り合い馬車でも到着するまでに夕方になる。

 この日は森から離れた場所で、他のハンターと固まって野営をする。

 見張りは自分達のチームで交代する。

 この時見張りを出さなければ、ハンター達の間に情報が流れ。

 次の野営では集団に入るのを拒否される。

 魔物が襲ってきたらチーム単独での防衛になるので、守りきれずに再起不能や死ぬ者も出たりする。

 余程のバカチームでもない限り、必ず見張りは出すものだ。


 翌日。

 万端に準備をしてから森へ。

 この森はフェルディナンド聖王国の魔物の大半が住む、巨大な森になっている。

 最奥にはドラゴンが居るとまで噂されているが、真相を知る者は居ない。


 この森は奥へ進むに連れ魔物が強くなる。

 最低限それだけ覚えておけば、初心者でも生き残れる。

 実力に見合ったエリアで戦う。

 それが出来るならば。


 そんな危険な森をキリカは、躊躇しないが慎重に進む。

 足元の草が結ばれていたり、強力な蜘蛛の巣が張ってあるからだ。

 それらを逐一自分だけ回避しつつ進む。

 後ろから着いていくフーライは、全ての障害を反射で破壊しながら進んでいく。


 キリカの森での歩き方を観察しながらだと、障害を全て回避するのは難しい。

 大半を反射で破壊しながらも、なんとか遅れずに着いていく。


(俺が遅いから、少しペースを落として歩いてるんだろうな)


 疲れが見え始め、フーライの歩みが遅れだす。

 背後を見もしないで、キリカもペースを落として歩く。


(今は完全に足手まといだな、だけど!)


 そしてキリカが完全に止まった。


「少し音を出し過ぎましたね。集団です、あと5秒」

「なっ!」


 昨日までは痛みのある体だったんだ。

 覚悟して受けたり、不意打ちを貰うのとはわけが違う。

 攻撃を受ける為に前に出る勇気は、まだフーライにはなかった。

 ガサガサと音を立てる草が、見えない事で魔物が接近する恐怖を増やす。

 それでもまだ、フーライの足は動かなかった。

 だから。





 右手でキリカの左手首を掴み、後ろに引いた。



 直後に現れた身長3メートル近い人型の魔物。

 オーガに木の幹を削って作られただろう棍棒で、5体同時に殴られた。

 意志の力を総動員して固まる右手を離し、秀麗の女侍を解き放った。


 フーライから放射状に吹き飛んだオーガは。

 5度の風切り音を最後に、その命を散らした。




 フーライは目に涙を浮かべ全身にびっしょり汗をかき。恐怖にガタガタ震えながらも、虚勢を張ってぎこちない笑みを浮かべた。


「へ、へっ。俺達なら、どーって事ない相手だったな」


 そんなフーライの姿を見て、キリカは己の誤解に気が付いた。

 彼は強い能力を手にしたから、増長していたのではない。

 能力を得てまだ3日目。

 どこにでも居る普通の少年なのだ。


 学はないと言いつつも、頭は回るから気付かなかった。

 ひょっとしたら、彼が隠していたのかもしれない。

 その証拠に恐怖に震え足は動かず。

 全身を使って意地を張っている。


 直前まで何も出来なかった。

 それでも一瞬だけ勇気を見せた。

 自分が前に出られないから、仲間を下げた。

 先日まで普通の少年だったのだ。

 オーガ5体の同時攻撃を前に、どれだけの恐怖だっただろうか。


 何かに頼りたかっただろう、縋りたかっただろう。

 なのに強張る右手を離し、後を託された。

 勇気を持てる人物に、自分は信頼で答えよう。

 この日キリカは本当の意味で、フーライを仲間と認めた。


 泣き分かれしたオーガの死体を収納したフーライを支え。

 キリカは森を後にした。

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