第8話 彼は建物の角から覗いてそうですね

 早朝。

 洗顔の代わりに洗浄を使い、2人は気持ちよく目覚める。


「2回目にして既に、止められなくなってるんだが?もう洗浄なしの生活とか考えられん」

「同感です。時間のある時に、某にもご教授願います」


 フーライはいいぜと返事をして、荷物袋を持ち食堂へと向う。

 鍵を返し朝食を終えて、キリカを先頭にハンターギルドへと向う。

 話し合いの結果。

 実力者と見られる防具を買うまでは。街中では舐められない様に、キリカが先に立って進む事になった。


 それに後ろから歩く姿を見て、武術で真似れば修行になるとまで言われ実践している。

 キリカの動きを鑑定しながら、武術でマネて自分に当てはめていく。

 上下動がなく前後左右にも頭が揺れていない。

 これは難しそうだと、モノにするまで気長にマネて練習するかと決める。


 歩法の練習をしながらなので。キリカの後ろを歩きながらも、ギルドに入るのは少し遅れた。

 キリカに注目していた男達も。キリカを慌てて追いかけて転けそうになった、そう見えるフーライには目も向けていない。


 しかしそれも途中までだった。

 キリカが常時依頼を貼っている掲示板の前に立ち、その隣にフーライが立ち話しかけるまでだった。


「攻撃力の高い魔物とか」

「オイこら、そこのガキッ!」


「俺からしたら相性良さそうって思わないか?」

「シカトしてんじゃねえ!!」


 部外者なのでいちゃもん付けてきた24、5の男を無視していたら。

 いきなりイスを振り上げて脅しにかかる。

 フーライもキリカも、それでも気にせずに会話を続けていると。


「もういい、死ね!」


 全力で振り下ろしたイスが砕け散り。

 無傷のフーライと、吹き飛んで血を吐く男と姿があった。


「知り合いか?」

「某の粘着ストーカーです」

「あー、そういう……」

「テメエ、待ちやがれ!このままで済むと思ってんのか!?」


 フーライ達を追加で呼び止めたのは、粘着ストーカーのハンター仲間だろう男達だ。

 粘着ストーカーを床に寝かせて。半分振りかけたポーションの残りを、飲ませようとして頑張っている。

 その近くに立つ男の1人がフーライを指さして叫んでいる。


「下らない。フーライ殿、行きましょう」

「あいよ、キリカもご苦労さん。これからは俺があんな奴等から守ってやるから。しっかり盾として使ってくれや」


 自分が気を使わない様にと、言い方を考えてくれたフーライに。

 キリカは仲間のいい所を見つけられて喜んだ。


「シカトしてんじゃねえ!!」


 剣を抜けば犯罪者になると、判断するだけの理性は残っているようで。

 粘着ストーカーと同じくイスを掲げて向かってきた。

 先程仲間が、イスで殴って負傷したのを見ていてコレである。

 フーライはため息をつくと、キリカに声をかけた。


「背中使え、飛び越えろ」

「っ、承知」


 一瞬いいのかと考え、キリカは答えた。

 1歩だけ走ると、フーライの背中を蹴って足場とし。

 向かってくる男達を飛び越えた。


 男達が宙を舞う美少女に見惚れている隙に。

 フーライは敵対した男達全員の股間を全力で蹴り上げた。

 蹴った足にあるはずの反作用さえ反射して、男達へと叩き込まれた。


「コイツ等は不意打ちで俺をイスで殴り。更には全員で凶器を手に襲いかかってきた。もうコイツ等は盗賊だ。盗賊なら身ぐるみ剥いでも問題ないよな!」


「そーだそーだ!」

「いーぞ、やっちまえ!」


「アンタ等には騒がせ迷惑かけたからな。盗賊の身ぐるみと報酬全部、酒代としてくれてやるよ!!」


『うおぉぉぉぉぉぉっ!!』


 フーライはハンターの思考を誘導し、タダで人気を勝ち取った。

 それはもちろん、強者かもしれないと実力を示した後だったから効果があったのだが。


 このまま依頼を探せる空気でもなくなったので。

 フーライはキリカと共にギルドから出ていくのであった。

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