第12話 酒に目が眩んでいるうちは腕が確かな職人
その辺の宿にダブルしかなかったが、何もないまま朝を迎えた2人。
ハンターだと言うのに、ベッドが同じになるくらいでどうこう言うわけがない。
外では安全の為に、近くで寝るのは当たり前なのだから。
朝食後防具を買いに出る。
先日の粘着ストーカー後のドタバタから逃げるのに、乗り合い馬車に乗った為に買うのを忘れていたのだ。
初心者そのままの防具で怯えて逃げ帰ったと見える状態だったからこそ、集合拠点でハンター達に絡まれたのだが。
キリカは初対面の時の装備で、兜は外し顎紐を荷物袋に結んでいる。
その凛とした佇まいは、すれ違う者の視線を釘付けにして衝突事故を引き起こす。
今も周囲からは謝罪の声が止む事がない。
キリカ御用達の武具屋に到着する。
ドアノッカーを叩くと近くにあった筒から、渋い男の声が聞こえてくる。
どうやら伝声管の様だ。
「待ってろ、今開けてやる」
「お待ちしております」
キリカの返事に答える声はなく、待つと言うほど待たずにドアは開いた。
ドアから覗く姿はヒトなら10代前半程度の身長をした、筋骨隆々なヒゲ面のオッサン……ドワーフだった。
「ん?おう、黒髪の。まだメンテナンスには早いと思うが?何用だ」
「ダンケル殿に新しく出来た仲間の紹介と、彼の防具を見繕って頂きたいと思いまして」
ドワーフ……ダンケルの片眉が上がり、ニヒルな笑みを浮かべる。
「ほう、
「だっ、ダーリンではありません!仲間です!!」
「なんじゃ、つまらん。あの堅物が恋に落ちたのかと思ったんだがの」
カッカッカッと闊達に笑うダンケルと、赤面して全力否定するキリカ。
フーライはまだ紹介されていないので、何も話さずにダンケルを観察している。
「それで、この坊主が黒髪のの仲間と?」
「はい、こちらはフーライ殿です。フーライ殿、こちらはダンケル殿です。王都に来てからは武具で世話になっている方です」
「フーライです、よろしくお願いします。今までキリカの事をありがとうございます。これからは俺共々、お願いします」
「うむ、ワシはダンケル。ワシの目が酒に眩んでいるうちは、最高の部具を提供すると約束しよう」
「ハンターなので、ほうぼうに向かう事になると思います。その時にキツい酒を話しを聞けば土産に買ってきましょう」
「よしっ、気に入った。早速装備の話しをするぞ。さあ、入った入った!」
キリカが安堵のため息をつくなか、ダンケルに促されて中へと入る2人。
中に売店はなく、通路を経て直接工房と鍛冶場に続いていた。
「ワシは下らん者には、何も売るつもりはなくての。気に入った相手にだけワンオフで受注しておる。おヌシは黒髪のが気に入るくらいだ、人間性も確かなんだろうよ。だから一度試してみたが、面白いヤツではあるのう」
「どうも。田舎育ちで都会の常識知らずでして。キリカには初対面の時から迷惑かけっぱなしですよ」
「ここだ。雑談は終わりにして、武具の話しにしよう」
ダンケルが案内したのは鍛冶場でも工房でもなく、ダイニングに近い作りと家具の応接室だった。
進められた、クッションのない木製のイスに腰掛ける。
フーライの隣にキリカ、向かいにダンケルも着席した。
「まずはおヌシのバトルスタイルや、希望する防具の素材からかの」
フーライは自分が軽戦士系で防具は最低限にし、走り回り魔法で攻撃するトリッキーな魔道士だと告げる。
能力について何も話せないのであれば。目立つ攻撃方法になる予定の魔道士と言うのが、この場合は一番堅実だ。
「ダンケル殿。実は昨日、オーガを討伐しまして。その素材があるので、それで2人分の防具をお願いしたく」
「ふむ、オーガか。素材の状態はどうなんだ?切り傷だらけでは役に立たんぞ?」
フーライの自己紹介に追従する形で、キリカが素材が何か提示する。
オーガは非常に耐久性の高い魔物なので。討伐を終えると全身傷だらけで、使い物にならない場合が殆どなのだ。
ダンケルはそれを心配してキリカに忠告している。
不満の残る物は作らないと、暗に言っているのだ。
「口で説明するより実物を見てください。フーライ殿がかなり大きな収納持ちなので、オーガが丸々持ち帰れたのです」
「なんだとっ!こうしちゃおれん。おヌシ等、直ぐに工房へ来い!!」
キリカの話しを聞いたダンケルは立ち上がると、走りだし部屋を出て行った。
2人も慌ててダンケルの後を追った。
職人にヘソを曲げられては叶わないから、かなり急いだのだった。
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