44石 ウルオメア様の暇つぶし
44石 ウルオメア様の暇つぶし
公式生放送の前夜配信が決定して告知してから時間が経ち、あっという間に前夜配信当日になる。
今日までに特に問題は起こらなかった。
エルミナは何時ものように配信部屋で作業をしているし、レイラは家事を。
余は暇つぶしにレイラとパーティーサバイブを少し練習したり、ツブヤイターを覗いていいねをする。
ツブヤイターといえば、クオリティーの高い最初のファンアートを描いてくれた東京ダイヤから余のツブートに返信があった。
内容は『ありがとうございます』という簡素なもの。
クールな奴なのかと思ったのだが、アカウントのツブートを覗いてみると『え?』や『嘘っ!? なにこれ!?』などと返信までにめちゃくちゃ驚き焦っているツブートがされていたので、別にクールな訳ではないようだ。
まぁ余がRTしてフォローしたことで、ファンアートのRT数が10万を超えた上に東京ダイヤのフォロワー数が爆増したので驚かない方がおかしい。
そういえば、これの影響なのか、ここ数日の間に多くの余のファンアートがツブヤイターに投下された。
ファンアートはすべてイラストで、クオリティーの高いものや可愛らしいものまで様々だ。
ただ、今のところファンアートのRTとお礼の返信はするが東京ダイヤのようにフォローする気はない。
フォローは最初にファンアートを描いてくれた東京ダイヤへのお礼や記念もあるからな。
まぁなにか気になるようなファンアートでもあればフォローするかもしれないが。
「それにしても暇だ」
なんか何時も暇だ暇だと言っているような気がするが、実際に暇なのだからしょうがない。
パーティーサバイブとツブヤイターしかやることないし。
あ、MFBGをプレイするという手もあるな。
「とりあえず配信部屋にいくか」
朝食を食べてからリビングでぐでーっとしていた余はソファーから身体を起こして配信部屋に移動する。
「あ、ウーちゃん。どうしたのぉ?」
配信部屋に入ると、すぐにエルミナが声を掛けてくる。
「いや、暇でな」
「あはは。またパーティーサバイブでもやるぅ?」
「うーむ。パーティーサバイブは昨日もやったからな……それにレイラは今洗濯中だろう? ひとりでやってもしょうがない」
「確かにそうだねぇ……」
エルミナはそう言ってからなにかを考えるような仕草をして、すぐに笑顔を浮かべる。
「じゃあ、ちょっとだけ面白いものを見せてあげるよぉ」
「ちょっとだけ面白いもの?」
「もしかしたら暇を潰せるかもしれないよぉ」
「……面白いと言い切らないのが気になるが、まぁいい。それで、なんなのだ?」
「とりあえず、パソコンの前に座ってモニターを見てみてぇ」
余は言われた通りに何時もの配信で使っている小さい方のパソコンの前に座り、モニターを見る。
「配信ページか」
モニターに映っていたのは今夜配信する予定の配信ページだった。
これのどこが面白いのだろうと配信ページをよく見て気が付く。
「待機人数1500人だと?」
なんと配信ページの待機人数が1500人を超えていた。
「驚いたでしょぉ?」
「ああ」
確かに驚いた。
「しかし、配信までまだ10時間以上あるぞ。コイツらはなんで集まっているのだ?」
「それはチャット欄を見れば分かると思うよぉ」
「チャット欄?」
不思議に思いながらチャット欄を見ると、待機者同士がコメントで盛り上がっていた。
「そういうことか」
そこで理解した。
「この多くの待機者は前回の配信前のようにチャットを楽しんでいる訳か」
「そういうことぉ。ウーちゃんと同じように暇している人たちが集まってるんだぁ。ウーちゃんのことが好きな者同士気が合うんだろうねぇ」
「なるほど」
余と同じように暇しているというのは少しあれだがな。
そこで余はコメントをよく見てみる。
『あー俺もウルオメア様にフォローされてー』『ワイもや』『東京ダイヤって誰だよ……』『知らんがな』『なんで東京ダイヤって奴はウルオメア様にフォローされたの?』『最速でウルオメア様のファンアートを上げたからだよ』『へー』『東京ダイヤも上手くやったよな』『そうだなぁ。ファンアートタグが無い中で周りがどうするか悩んでいる間に配信タグ使って上げたからな』『配信タグでよかったなら俺すぐにファンアート上げてたわ』『俺も悩んでないで、とっととファンアート上げればよかった……』『まさかウルオメア様がフォローしてくれるとは思わなかったしなぁ』
どうやら今は東京ダイヤと余のフォローに関する話題らしい。
『今じゃウルオメア様にフォローされたい連中が次々とファンアート上げてるよな』『フォローされたいのは分かるけど、ラクガキみたいなのを上げるなよ。東京ダイヤレベルとは言わないけど』『俺は別に良いと思うぞ。気持ちがこもってれば』『ファンアートってのはフォローされたいから上げるものじゃないだろ』『安心しろ。そういう奴は一部の連中だけだ。今は配信タグでファンアート上げて正解だって分かったから、みんなこぞって描いてあったファンアートを上げてるんだよ』『なるほどねぇ』『ほとんどの連中はウルオメア様にRTとお礼返信されるだけで満足してるぞ』『そうなのか』
うーむ。
配信タグでファンアートを上げて良いのか、リスナーの間で迷っていたらしい。
今からファンアート用のタグを作るか?
いや、配信タグでファンアートを上げるという結論に落ち着いたようだし、今は良いか。
ファンアートが多過ぎて余が追えなくなったらファンアート用のタグを作ろう。
「ちょっと面白いでしょぉ?」
そこでエルミナがそう声を掛けてくる。
「うむ。だが、なぜ今日に限ってこんなに待機者が集まって盛り上がっているのだ?」
「それはやっぱり公式生放送前夜ってこともあるし、ウーちゃんが前回、配信前のチャットを見ていることが分かった上にチャットに参加までしたことが影響しているんだろうねぇ」
「そうか」
つまりエルミナの言う暇つぶしというのは、このチャットへの参加という訳か。
「ね? 暇潰せそうじゃない?」
「確かにな」
再びチャット欄に目を向ける。
『ウルオメア様見てないかな』『というか降臨しないかなぁ』『流石にまだ見てないと思うぞ。まあ俺も期待してるけど』『ここに居る連中はみんな同じだろ。ウルオメア様が降臨してくれる僅かな可能性にかけて待ってる』『暇つぶしてるだけだけどねー』『そうとも言う』『暇人乙w』『お前もだろ』『前回のことがあったからなぁ』『ワイは前回出遅れたわ』『私は偶然だけど居合わせた』『裏山』
本当に見ているかどうかも分からない余を待っているらしい。
「ほら、みんなウーちゃんが来るのを期待してるよぉ」
「そのようだな。なら、その期待に応えるとしよう」
「うん。前と同じようにそのキーボードは何時でも使えるよぉ」
「うむ」
余はモニターの前のキーボードに手を添えて文字を打っていく。
『ファゴアット帝国:呼んだか?』
そうコメントを打った瞬間、あれだけ多く流れていたコメントの流れが止まった。
そして再び動き出す。
『え?』『え??』『え……』『これマジ?』『嘘……』
どうやら期待してはいたが本当に来るとは思ってなかったようだな。
『ファゴアット帝国:どうした? 余を呼んでいたと思ったのだが』
再びそう余がコメントすると、コメントが今まで以上の速度で流れ始める。
『ウルオメア様キタあああああああああ!!』『降臨だ! 女神さまの降臨だああああああああ!』『ヤッホオオオオオオオオオオ!!』『いええええええええええい!』
まさにコメントの狂喜乱舞。
『待機してて良かった!』『本当に降臨してくれるとは!』『ファゴアット帝国:そんなに喜んでもらえると余も気分が良いぞ』『こんなんで良いならいくらでも喜びますとも!』『そうだよ』
すごい喜び様だ。
『ウルオメア様あああフォローしてくれええええええ!』『ワイも!』『ファゴアット帝国:悪いが、余が気に入った奴だけフォローする』『知ってた』『ですよねー』『無理言った奴、反省しろ!』『そうやそうや!』『お前も便乗してただろ』『手の平クルクル』『手の平ドリル』
待機者たちが楽しそうでなによりだ。
『しっかし今回に限っては流石にアイツも居ないようだな』
そこでそんなコメントが目に入る。
『アイツ?』『誰?』『誰ってそりゃひとりしか居ないだろ』
そこでアイツが誰を示しているのか余も理解した。
『決まっているだろ。さけるイカだよ』
「やはりか」
『そういえば、こういう時は必ず居るのに今回居ないな』『珍しい』
確かに。
こういう時、文香の奴は必ず現れるのだがな。
まぁ流石に今の時間は仕事中ということだろう。
『さけるイカ、居ないのか』『ざまぁww』『初めてさけるイカに勝った気がするわ』『おい、あんまりアイツの名前は出すなよ……』『え、なんで?』『だってなんか沸いてきそうだろ』
「余も同感だ」
文香の嗅覚は異常だからな。
『流石にないだろw』『警戒しすぎ』『まあ来ないだろうな』『さけるイカ:呼んだ?』『ありえないだろw』『ビビりすぎw』『……ん?』『うん?』『あれ?』『今……』
「はぁ……」
『さけるイカ:ウルオメア様、遅れてごめんなさい!』『ぎゃああああああああああ!!』『うわあああああああ!』『出たあああああああああああ!』『ひええええええええ』
当然のように文香がチャットに登場した。
「まるで化け物が出てきた時のようなリアクションだな」
『やっぱりなぁ……』『マジか……』『マジでイカの行動力なんなの?』
もう余は慣れた。
『ファゴアット帝国:やはり来たな』『さけるイカ:ウルオメア様の居るところならどこにでも行きますよ!』『やべぇよやべぇよ……』『今頃気付いたのか』『昔からさけるイカはヤバイ奴だって分かってただろ』『せっかくイカにドヤれると思ったのに』
文香相手にドヤるのは難しいと思うぞ。
というか文香の奴、プールの時もそうだが仕事はいいのか?
謎だな。
『ファゴアット帝国:まぁ時間はあるし、仲良くやろうな』『はーい』『はい』『さけるイカ:わかりました!』『はいママ』『了解ママ』『おぎゃりそう』
「誰がママだ」
そうして余は待機者たちと暇をつぶすのだった。
ソシャゲキャラになった彼女の日常 リブラプカ @Purizuma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ソシャゲキャラになった彼女の日常の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます