第2話 転生幼女は語れない
気付くとそこは、どうも放置されていたらしい宗教施設だった。
鐘、ステンドグラス、様々な飾りを見るに、文化的には西洋が近い気がする。
そして、傍の木机の上に、布にくるまれた3kgくらいありそうな塊が置いてあった。
いや、まさかね。と思いつつ、
「……もしかして、ちづさんですか?」
「あーぅ」
赤子の声がした。近づく。
布を解ていく。心が急いて手が震えたが、無事に中身を剥き出すことができた。
「あー、あー」
違った。
金髪の赤子だった。
そもそも、ちづさん、千鶴さんは成人した女性である。
身体はもっと大きいし、体重も20倍はあるはずだ。
「アぁー!」
驚いてしまった。赤子が急に、先ほどとは違う鋭さを感じる声をあげたからだ。
「あーぉ、お?」
なんというか、非常に赤子らしくない赤子だ。生後何か月なのかわからないが、どうにも自己主張が強い。
というか、そもそも母親はどこだ?
「うー」
まさか、捨て子ではあるまいな。周りに誰もいないとなれば、放置して出ていくわけにもいかないじゃないか。
「というか、そもそも、ちづさんの許に送ってくれるという話だったのでは?」
「あーぅ」
また赤子が鳴いた。泣かないのによく鳴く子だ。
「うーぅ」
……ふむ、こう状況が状況であると、色々と考えてしまう。
いやね、でもね、まさかね。信じたくはない。確認はするけど。
「もしかして、ちづさんですか?」
「あぅ」
「あなたはちづさんではない」
「うーぅ」
「追原千鶴さん?」
「あぅ」
「まじですか?」
「あぅ」
「というか、僕の言葉がわかるんですね」
「あー、あぅ」
「四回鳴いてもらっていいですか?」
「あぅ、あぅ、あぅ、あー」
これは確定だな。
なんてこった。
「……イメチェンしました?」
「うーぅ、あー」
「言葉はわかるのに話せないんですね」
「あーう」
手足を上に伸ばしてバタバタしている。動作はまんま赤子である。
話せない、うまく動けないのは脳の機能が完成していないから? でも、それなら言葉を聞き取れるのはおかしいような……。
「あー、あー」
ふむ、なるほど、もしかして、僕の考えてること、伝わってたりします?
「あぅ。……あー?」
「いやね、ここに来る前、神様に思考が聞かれてしまうことがありまして」
「うー」
うん、とりあえず思考が漏れていると。
他の人には聞こえないといいなぁ。
「あぅ」
「逆に、ちづさんの考えが聞こえたりはしないんでしょうか?」
「あー?」
「ちづさんも分からない?」
「あぅ」
「まぁいいです。イエスとノーくらいはわかりそうですし」
「あーぅ」
「お腹空いてたりしませんか?」
「うーぅ」
「では、ちょっと待っていてください。このあたり見て回ってきます」
「あ……あぅ」
「……すぐ戻りますよ」
頭から短く伸びた髪をなでてあげると。ちづさんは嬉しそうに笑った。髪色も顔立ちも変わっているが、その笑顔を見ると、知っている彼女のものに近いような気がする。
ざっと見て、すぐに戻ろう。
亡くなった妻の転生特典に異世界転移したけど親娘ってことでいいですか? TETA @TETA
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