輪廻

 ある、暖かな春の日。

 都内に住む小学六年生、小林樹こばやしたつきは、病気の祖父の見舞いに行くために、単身電車を乗り継ぎ、その地方都市へと降り立ったのであった。

 樹は、しきりにスマートフォンの地図を確認しながら歩き続けている。祖父母の家であれば、何度か一人で訪ねた経験があり、道は把握している。けれども今祖父の入院している病院へ行くのは初めてであった。

 吹き寄せる風は暖かく、少年の体を羽毛のように優しく包み込む。街路に植えられた桜が、花びらを宙に舞わせており、その内の一片ひとひらが、樹の首の後ろに貼り付いた。

 道中、ふと、右方に朱塗りの鳥居が立っているのが目に入った。首をそちらに向けると、どうやらそこには神社のようであった。敷地は狭く、こじんまりとした雰囲気の所だ。

 その、鳥居の向こう側に、樹は人影を認めた。それはこちらに気づいたのか、ゆっくりを歩いてくる。

「あれは……」

 そこにいたのは、水色の髪をして、頬に菱形文様の赤い黥面いれずみをした、巫女服姿の子どもであった。見た所、年の頃は自分とそう変わらなさそうであるが、その顔貌が中性的であるが故に、少年であるか少女であるか、樹には判別がつかなかった。

 初めて出会う相手であるはずなのに、樹はこの子どもに対して既視感を覚えた。以前に、何処かで会ったことがあるような……

 その巫女服は、樹の目の前で足を止めると、一言、言った。

「もう逃がさない」

 

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非モテ男性と美少年神様 武州人也 @hagachi-hm

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