第35話最終話 後編 血の縁

目の前には、和服を着た1人の美しい少女がタイヨウを優しく抱きしめていた。

ツクモが元の姿に戻っていた。


「少し落ち着いてタイヨウ……私もウロもあなたの犠牲を望んでなんかいないわ」


優しく慈しむ声が耳の直ぐ側に聞こえる。

その声を聞いた瞬間タイヨウの胸を占めていた暗い感情が抑えきれず涙となって溢れ出す。

タイヨウの背を支えるツクモの両腕に力が入る。


「ごめんなさい……突き放すように聞こえてしまったかしら。…………何も関係のない世界に流されて、それでもあなたは私たちに良くしてくれたと言うのに……今もこうしてあなたの力を借りなければ、満足に人の姿にもなれない……ごめんなさい。あなたを頼ることしかできなくて……」


ツクモは涙を流しタイヨウに静かに謝る。


タイヨウは大粒の涙を流しながら急に自分が恥ずかしくなった。

死ぬはずだった自分を助けてくれたウロ。

そして孤独な世界でようやく出会えたツクモ。

その存在がどれだけ心強かったことか……

彼女はボロボロの姿で、それでもこの山と人を守るために1人耐えていたのだ。

そんな2人に対して少しでも疑った自分が情けなく感じた。

ここに来る前の自分と何も変わっていないことが悔しかった。


「違うよ。ツクモもウロも感謝してる。俺はここにきて2人に会えて感謝してるんだ。

ごめん……なさい。俺が間違ってた」


ツクモの両肩をタイヨウは両手に持つ。

華奢で折れそうなほど細い体だった。

両者の間に少し距離が生まれる。

ツクモの顔をタイヨウは真正面から見つめる。


「……」


ツクモはタイヨウの急な行動に訳が分からず、顔を赤らめる。

一度伏せた目をゆっくりと戻し、タイヨウを見つめ返す。


「ツクモの顔をはじめてしっかりと見ることができた。……ありがとう。俺はこれからどんなに辛いことがあってもツクモの顔を忘れない。この可愛い顔を忘れないよ」


弾けるような笑顔が自然とタイヨウから溢れ出す。

その涙と鼻水に濡れた顔はお世辞にも綺麗とは言い難かったかもしれない。


「え……」


ただ呆然と驚くことしかツクモにはできない。

だた、唐突に可愛いと言われ顔中が真っ赤に染まる。

この少年の最大級の賛辞を面と向かって言われて嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちで溢れていた。

たまたまなのか萎むようにツクモは白猫へと姿を変える。


「ウロもありがとう。俺がどうしたいかわかったよ。ウロが……ツクモが俺にしてくれたことをそれに俺が応えれば良かっただけなんだ」


ウロを優しく肩から手に乗せ、それをツクモの頭に乗せる。


「ツクモ様とばっかりイチャイチャしてズルい!!」


とウロは抗議したが大人しくツクモの頭に乗ってくれた。

スッと立ち上がったタイヨウの心は晴れていた。


「それじゃ、行ってくる」


と一言2人に言い残し、歩いていく。

その姿をどこか不安げにツクモもウロも見守っていた。


タイヨウは山の主に怯えることなく近づいていく。

歩きながらおもむろにTシャツを脱ぐ。

タイヨウの後ろからそれに反応する様子が伝わってきたが、無視することにした。

山の主のおぞましく迫力のある横を通り過ぎる。

少し不安だったが、何もしてこなかった。


タイヨウが向かった先は濁った水の流れる湧き水だった。

そこで服を濡らし、一度汚れを洗い流す。

水は濁ってはいるものの服に色は付かない。

服を適度に絞り水気を残す。


そしてその服で山の主を優しく撫でる。

目に付いた飛び出した足からはじめた。


確証はなかったがタイヨウには2人を通じて学んだのだ。

慈しんで与えることを。

命を投げ出すことはそれに比べれば簡単なことなのだ。

それよりも相手の立場に立って考え、想像する。

そしてそっと寄り添ってあげればいい。


山の主が何を望んでいるのかは分からない。

それでもタイヨウには醜いと思えるその姿を、少しでも綺麗にしてあげることが優しさだと思った。

打算的かもしれない。

それでもそれが今自分にできることだった。


「よし。まずは一本綺麗になったぞ!」


土気色には変わりなかったが、それでも土などの汚れが取れて綺麗になった。

思えばこの足もミギテとなった人の一部なのだろう。

死を望み自ら命を断った。

そして行き着いた先がここなのだ。

救われないことだとタイヨウは思った。


ひょっとしたらこの山の主も好きで食べているのではないのかもしれないとふと思った。少しでも慰めになるのならと思って今もこうして取り込んでいるのかもしれない。

想像でしかない。

それでも涙が出てきた。


「お前も無理してたんだな……こんな体になってまで。山と人と動物と天候と……ボロボロだったんじゃないか?せめて見た目だけでも綺麗にしてやるからなぁ」


頬を伝う涙は途切れなかった。

権兵衛たち老人の話を聞いた時は山の主に対する怒りが込み上げてきた。

しかし、今はただただこの肥大した体がタイヨウには哀れにしか思えない。

相当無理を続けてきたのだろう。


「もし……綺麗になってお前と話すことができるなら、次は何をして欲しい?俺ができることなら協力するからさ……」


いつの間にかツクモがタイヨウの側に来ていた。

タイヨウ同様にその目には涙が溢れている。


「タイヨウ…ありがとうね」


「そんなこと言うな。俺こそありがとうだよ。……ミギテになった人たちを俺がちゃんと1人ずつ綺麗にしてやるからな」

不思議なことが起きた。

キラキラときらめく星粒が山の主の体から上空に向けて昇って行く。

山の主の巨大な体が一回り以上小さくなっている。


「これは…?」


「ミギテになった人たちが成仏していってる……タイヨウの気持ちが嬉しかったのね」


美しく舞っていく光の粉をツクモは遠い目をして見送る。

そこには複雑な想いがあるのだろう。


「待ってくれ!まだだ!!!まだ俺は全員を拭いてやれてないぞ!!」


もし仮に全てのミギテを拭くのであれば、その数は膨大なものになっていたことだろう。しかし、それでも今のタイヨウにそのことを苦に思う心はなかった。

それよりも拭けずに勝手に逝ってしまうことが悲しくて、悲しくて涙が溢れる。


「分かった!……もっと手を早く動かすから!!だからまだ逝かないでくれ!!せめてみんな綺麗になって逝ってくれよ!!勝手に満足しないでくれよ!!!」


「タイヨウ様……」


自分でもなぜこんな気持になっているのか分からなかった。

本来であれば成仏して喜ばしいはずなのに、心には無性に寂しさが込み上げてくる。


気が付けくとミギテたちの塊には自分よりも小さな少女が立っていた。

ツクモと同じ和服を着ている。

だが彼女は白い着物ではなく赤色の着物だった。

その着物は糸がほつれボロボロになっていた。

まだ幼さの残る顔立ちの少女は間違いなく現山の主だろう。

おかっぱ頭の彼女の顔はやつれていた。


ミギテはタイヨウが無心で拭いている内に、いつしか全てが上空に昇ってしまったことがそれでわかった。


「うあぁ~~~~~~~~~!!!!」


膝から崩れ落ちるとタイヨウは地面に頭を擦り付けて声を上げて泣いた。


(もっとしてあげられることが沢山あったんだ!もっと!もっと!!話を聞いてあげるだけでも嬉しかったはずだろう。何か言い残したいことがあったかもしれないのに!!)


もう2度と手を差し伸べることができない、そう思うと胸が張り裂けそうになった。


「……顔を上げて下さい」


突如聞き馴染みのない声がタイヨウの頭上から響いた。

まだ幼さの残る声だった。


「私には分かります。彼らは喜んでいました。望外の幸せを得ることができたと……そんな気持ちを彼らが持つことがあるなんて……私にはできないことでした」


「うぅ……あんたもそんなこと言うもんじゃない。そんなこと……あんたはあんたなりに頑張ったんだから!!」


タイヨウは顔だけ上げると、幼女に力強く言う。


「そう言ってもらえるなんて…………」


その言葉を聞いて少女は静かに涙を流す。

彼女もまたツクモがいなくなってから長いこと苦しんでいたのだろう。

それこそミギテを取り込み体は少女の3倍近くまで膨らんでいたのだから。

ミギテを取り込み糧にし、何とか山の秩序を維持することで精一杯だったことだろう。

少女はタイヨウの側にいるツクモに向き直る。


「ツクモ様ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」


綺麗な動作でツクモに頭を下げる。

頬から雫が溢れた。

望んでいなかったにしろツクモを追い出してしまったことに、罪悪感があったのだろう。

「どうか謝らないで。私にあなたの苦しみが分からない訳ないのだから。よく耐えてくれました。さぞ辛かったでしょう」


苦しげにそして優しくツクモは少女に語りかける。


「ありがとう……ございます」


着物の袂で顔を隠すようにして少女は溢れる涙を拭う。


「私以上に今のあなたは疲弊しているはずよ。少しお休みなさい」


「……はい。そういたします。なんだかこの姿に戻れてからずっと眠たかったんです」


山の主である少女は心底安心したようにツクモの勧めに応じる。


「タイヨウ様この度は誠にありがとうございました」


くるりと振り返ると少女はタイヨウに深く頭を下げる。

そして祠へと歩を進めるとすぅと消えていった。

そこで彼女は体を休めるのだろう。



しばらくするとチチチチチと鳥の鳴き声が聞こえてきた。

その音を皮切りに周囲には虫の鳴き声も響きく。

まるで濃い霧が綺麗に捌けていくようであった。

滞留して淀んだ空気も爽やかな一陣の風に流されていく。


「これで良くなっていくはずよ」


目の高さにいるツクモが力強く言う。

風に煽られて毛がなびいている。


「だからタイヨウも涙を拭いて……どうか俯かないで」


「タイヨウ様」


ツクモもウロもこちらを向き悲しげに呟く。


「ああ、そうだな。いつまでも悲しい顔してるのは違うよなぁ。逝った人たちも悲しくなっちゃうよな。こういう時は笑ってやらないとダメだよなぁ」


まだ心のわだかまりは全然解消されていない。

それでもニカッと歯を見せて無理矢理頬を持ち上げる。

今のタイヨウにできることはそれだけだった。


「「…………」」


ツクモもウロもタイヨウのその痛々しい顔に何も言えない。


「……タイヨウ様その顔は不細工です」


ウロが何とか苦しげにひねり出して反応する。


「しょうがねぇだろぉ。元から大した顔じゃないん……だか…ら」


そう言うともうタイヨウは我慢することができなかった。

再び止めどなく流れる涙は無理に持ち上げた口から入り、しょっぱかった。

しばらくの間タイヨウは顔を両手で覆って泣くことしかできなかった。


ひとしきりタイヨウが泣き終わるのを待って、ツクモは話を切り出す。

タイヨウは胡座をかいて放心したように、ボーっとしている。


「気持ちは落ち着いたかしら。あなたの気持ちしっかりと天に召された彼らに……」


「それ以上はもう言うな!分かったから!!……俺はまた泣くぞ」


ピシャリと手で制しツクモの言葉を遮る。

再びウルッと来てしまいそうでタイヨウが慌てたためだ。


「ふふ、そうね。野暮なことは言わないわ。それにしても両手で顔を覆うあなたは可愛かったわよ」


「はい!タイヨウ様女の子みたいでした!!」


表情を明るくしてツクモとウロが茶化す。

ツクモなりに湿っぽい空気を何とかしようと思ったのだろう。


「別にいいだろ。泣き顔なんて見られたくないんだから。……それにしてもツクモは祠で休まなくていいのか?」


顔が赤くなるのを自覚しつつ、話題を変えることにタイヨウは一生懸命になる。


「ここら一帯の山の主はあの娘よ。私はもう山の主ではないから、あの祠に入るわけにはいかないわ」


「それじゃあ、お前はどうするんだ!?元気になれるのか!?」


てっきりツクモが再び山の主になるものと思っていたタイヨウは度肝を抜かれる。


「ええ、心配しなくても大丈夫よ。ここら一帯の流れが良くなって今も力が戻ってくるのが分かるわ」


「そうなのか。それならお前は初めから、この山々から出て行くことで元気にはなれたんだな」


「タイヨウにはさもこの山と運命を共にしているようなことを言ってしまったわね。嘘を付いていてごめんなさい。……それでも私は……」


「待った!!俺の聞き方が悪かったな!それ以上は野暮だぞ。お前がこの山の平穏を心底望んでいたのはもう分かってる。それに山の主と向き合うことは俺にも必要なことだったと今は思ってる」


再びツクモの言うことをタイヨウは手で制した。

そして心底満足したように説明する。


「なんかタイヨウ様が大きく見えます」


ツクモの頭の上にいるウロがポツリとこぼす。


「ええ、私もタイヨウが山の主に向かって歩いていく背中が大きく見えたの。今も出会った頃より少し大きく感じるわ」


ツクモとツクモの頭の上のウロがジーっとタイヨウを見るめる。


「おい!!人のことをジロジロみるな!上半身裸なんだぞ!?」


弾かれたように裸なことを思い出したタイヨウは、慌てて両手で体を隠す。


「その仕草はやっぱり女の子です」


ウロがそう言ったことで3人に笑いが訪れた。

そしてその声が途切れると不意に静寂が訪れる。


「さてと……そうしたら俺はこれから元に戻ることになるのかな?」


さも何でもないことのようにタイヨウが話を切り出す。


「「……………」」


ツクモとウロが息を飲む声が聞こえる。

2人ともずっと言いだせなかったのだろうとタイヨウは予想していた。


「ええ、そうね。力もある程度戻ってきたし、いつでも戻ることができるわ」


「ツクモ様」


ツクモもウロもまるで親に詰め寄られて悪戯を白状する、そんな子供のような顔と声音だった。


「元山の主の私がこれじゃダメね……本来なら私から言い出さないといけない筈なのに。もう少しあなたとウロと楽しい一時を感じていたいなんて思ってしまうのだもの……」


「ツクモ……」


彼女の正直な言葉にタイヨウも何も言えなくなる。


「ツクモ様それは私も同じ気持ちです!!私なんてまだタイヨウ様に全然恩を返しきれてないのですから!!!」


ウロが一生懸命ツクモを擁護する。


「そんなことはないよ。ウロ。お前が俺の所に来てくれたからこうして俺たちは出会うことができたんだから」


「私の気はそれでは収まらないのです!!」


キーキーと否定し顔を左右にウロは振る。

その姿は欲しい物をねだり駄々をこねる子供のようだった。


「ウロ、そろそろタイヨウを解放してあげましょう。タイヨウはこことは違う世界に生きているのだから」


まるで自分に言い聞かせるように呟くツクモ。

一生懸命に自分の気持ちを抑え込んで見える。


「タイヨウ様もツクモ様も寂しくないのですか!!タイヨウ様どうなんですか?」


タイヨウとツクモの顔を見比べて悲痛に訴える。


「寂しいに決まってるだろ……でも元の世界でやり残したことがあるんだ。そうだ!?ツクモたちはこれからどう生きていくんだ?平和に生きていけるのか?」


勢いよくツクモの方を向き慌てて質問する。


「私たちのこと心配してくれるのね。ふふ大丈夫よ。もともとはこれでも神様みたいなもんなんだから。……それに良いこと思いついたことだし」


タイヨウに心配されることがうれしかったようで、笑ってこたえる。

そして何かをツクモは閃いたようだった。


「そうか。それなら安心したけど、良いことって何だ?」


「タイヨウには内緒よ」


ツクモは明るい表情でそう言うとゴニョゴニョと頭の上のウロに言う。

ウロは大人しくそれを聞き終えると、ぴょんぴょんと急に飛び跳ねだした。


「ツクモ様それは名案です。ウロはどこまでも付いていきます」


どうやらよほど嬉しいことなのだろう。


「なんかよく分かんないけど。ウロも納得してくれたことだし、そろそろ元の世界に行けるか?」


「ええ。問題ないわ」


心残りがないと言えば嘘になる。

かけがえのない仲間にこうして巡り会えたのだ。

寂しくない訳がない。

それでも……それでもタイヨウは歯を食いしばり、どこまでも肉に食い込んでいくような自制心で寂しさに堪える。

元の世界の現実で再び頑張ることが、天に召されたミギテにしてやれる自分なりの報いに思えたからだ。


光がフワッと広がりツクモが人の姿になる。

相変わらず眼を見張るほど美しい姿だ。

そして彼女の隣には時空が歪んで見える。

どうやらこれが元の世界への入口なのだろう。


「それじゃ、慌ただしいようだけど俺は行くことにするよ。いつまでもいると本当にお前たちと離れなくなっちゃうから」


ジワリと涙が目尻から出そうになるのをタイヨウは必死に堪える。

今日この一日だけでどれだけ泣いたのか、もう思い出せない。

次の一歩で入り口という所までタイヨウは進み、分かれの挨拶をする。


「ツクモ、ウロ本当にありがとう。俺にまた立ち上がるチャンスをくれたこと一生忘れない」


真っ直ぐに2人を見つめ怖いくらい目に力を入れて口にした。


「あなたには本当に感謝しているわ。こちらこそありがとう」


「タイヨウ様ありがとうございました」


ツクモは深々と頭を下げる。

ウロは2本の足をブンブンとかかげて振っている。


「……ねぇ、タイヨウ1つだけ質問してもいいかしら?」


はじめて聞くツクモの少しおどけた口調での問いかけ。


「また………私たちと会いたいかしら?」


言葉の後半は緊張を隠せないようだった。


「ああ。もちろんだ!!ひょっとして元の世界で会えるのか?」


喜びで笑みが広がるタイヨウ。


「その言葉が聞けて良かったわ」


「タイヨウ様の言質がもらえましたね」


ウロはまたも飛び跳ねている。

心底ホッとしたようにツクモは笑みを見せる。

そして一筋の涙を流す。


「ふふふ、私はあなたの血をいただいちゃったから……その縁(えにし)を辿って会いにいくわ。必ず」


それはタイヨウがはじめて見るツクモの溢れる笑顔だった。

その咲き誇る笑みにタイヨウの息を呑み一時我を忘れた。


「……最後に俺からも質問してもいいか?」


「……ええ、いいわよ」


虚を突かれたようにツクモが頷く。


「ずっと気になってたんだ。この山々は何て呼ばれているんだ?


「ふふふ、雅鏡山(がきょうやま)と呼ばれているわ。覚えておいてね」


「そうか。忘れないよ」


そう言うとタイヨウは時空に呑まれていった。


エピローグ



……タイヨウの意識が再び戻った時、見慣れない病室のベッドで目を覚ました。

自宅トイレの入り口で気を失った状態で倒れているのを、偶然母が発見した。

行方不明になってから2日経っていた。


タイヨウの両親は警察に行方不明届けを出しており、結構な騒ぎになっていた。

警察は自宅トイレから発見されたとで、タイヨウの自作自演を疑っていたそうだ。

しかし発見当初、タイヨウは上半身が裸、全身に細かい擦り傷、右足の一部には深い裂傷、そして軽い栄養失調が見られたため事件性のあるものとして判断された。

タイヨウの両親も息子の痩せ細った姿に、病院に運ばれた後も錯乱状態だったらしい。


タイヨウは目を覚ますと警察から事情聴取を幾度もされたが、その度に全く覚えていないの一点張りで、結局立ちした進展もなく打ち切られることとなった。

入院は2日で済んだ。


そしてタイヨウは再び高校に通学する日が来た。

極度の緊張したがそれでも行くことができた。

クラスメイトたちの反応はタイヨウが危惧するようなことはなかった。

少なからず事件のことを知っており、気を遣ってくれた。


それよりも行方をくらませる前と後で、タイヨウの性格が別人のように変わったことで、クラスメイトたちを驚かせた。

そしてホームルームが始まり担任が姿を見せた。

そこには見慣れない1人の少女の姿があった。


「今日から皆と一緒に勉強する転校生だ」

担任の先生が少女に自己紹介を促す。


「はじめまして……私の名前は雅鏡つくもと言います」


タイヨウはしばらくの間少女から目が離せなかった。


おわり

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猫と蟻からはじまる冒険譚 @NORUNO

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