僕と僕と君
亜済公
僕と僕と君
僕は、もしかすると僕ではないのかもしれなかった。僕は確かに僕なのだけれど、僕よりもずっと僕らしい僕が、僕の目の前にはいたのだった。
「君は僕かい?」
と、僕は尋ねる。
「僕は僕さ」
と、僕は答える。
それでは僕は何者なのか。僕に問いかけても答えはなく、僕はただ不安の中に、僕であることを見失う。
「例えば君が僕だったとして……」
僕は話し掛けた。相対する僕の視線から察するに、僕は僕のことを僕の偽物くらいにしか思っていないらしく、それがちょっと悲しかった。僕だって、僕がやってくる以前は立派に僕だったのだ。
「それじゃ、君と僕は、同一人物ということにはならないのかな」
ならないよ、と僕は答える。
「いい加減にしたまえ」
僕は手を差し出した。有無を言わさぬその迫力に負け、僕は一枚のプレートを手に平に乗せてやる。僕の手は白く、こじんまりとしていて、良い匂いがした。
「これで僕は、晴れて僕になったというわけだ」
僕は得意げな様子でそう宣言する。
「君は適当な何かになりたまえ。僕の役目は僕が果たそう」
僕は頷くしかなかった。
そうして僕は、僕の元から立ち去って、三日三晩歩き続け、電車に乗り、ヒッチハイクし、走って、その末にここへとたどり着いた。
僕は君になることにしたんだ。
僕と僕と君 亜済公 @hiro1205
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