天使と悪魔

「どうもー、サハクイェル宅配ですー」


 到着したトラックから出てきた人物は景気よく声を上げる。背中についている翼がぴょこぴょこと上下するのが背中越しでも分かる。運転席から遅れて現れた人物にも翼が付いていることがすぐに見て分かる。


 ヒゲが挨拶をすると後ろからメガネが積まれた荷物を台車で運んでくる。その荷物を下ろしながらトラックから現れた二人組とヒゲの三人がかりでトラックの荷台へ積んでいく。その間にメガネは再び荷物が積まれた台車を運んでいく。それが何往復か繰り返されると四人はふぅと一息つく。その後、荷物がぎっしりと詰まれた荷台の扉は閉められた。


「今日は"異世界転生"を行う感じですか?」


 サハクイェル宅配の一人がヒゲとメガネに向かってそう投げかける。ヒゲは何も答えず苦笑いと共に肩をすくめる。メガネは素直にその言葉に対して頷きながら肯定の言葉を返す。それを受けてもう片方の宅配員がこんなことを口にする。


「最近多いですからね。お互い大変だ」


 二人の宅配員は一礼した後、トラックに乗り込む。エンジンの音が鳴るとそのまま開いたままのシャッターをくぐって何処かへと走り去っていった。


「お互い、ですか」


 メガネがぽつりと呟く。そのままボーッとしている様子を見たヒゲはバシッと背中を叩いて我に帰らせる。


「俺たちはあくまで中継点、次元を超えて世界を走る天使はもっと忙しいってことだ」


 そう言ってヒゲは次の荷物を用意するために倉庫の奥へ向かった。メガネもそれについていった。


 次の荷物がまとまった頃、トラックヤードへ再びトラックがやってくる。トラックから現れたのは黒い翼を持った二人組だ。サハクイェル運送ほどはつらつな様子はないがキビキビと動いてヒゲとメガネに挨拶をする。


「荷物の受け取りに参りました」


 つられて敬語で返事をする二人。少し呆気に取られながらも先ほどと同じように荷物の積み込みを行う。手際の良い二人の運送業者は素早く荷物を積み込み、チェックを行なってから荷台の扉を閉める。感謝の言葉と共に一礼をすると運送業者の二人は颯爽とトラックと共に姿を消した。


「こっちはこっちで忙しそうですね」


 嵐が過ぎ去ったのを見届けたように呆然としながらメガネはトラックを見送る。それを聞きながら同じくトラックを見届けて頭を掻くヒゲ。


「天使はサービス業に近い分、悪魔は本当に業者って感じだな。行先での魂の扱い方が違うからこんなもんだろう」


 先程と比べて深いため息をついた二人は倉庫に残った三つの檻を見つめる。その三つを手に持ちながらトラックヤードの隅に停められていた先の二台と比べて一回り小さいトラックに積み込む。


「じゃあ、俺たちも運びますか」


 そう言ってヒゲとメガネを乗せたトラックは光が漏れ出す外へ走り出した。シャッターがゆっくりと落ちていき、誰もいなくなったトラックヤードは静寂と闇に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界運送・トラックヤードにて stdact @stardust53

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ