第3話 最後のブレス

 リハーサルが終わり、いよいよ本番である。水を少し含み、乾いた口を潤した。俺の最後の演奏は、昔に比べればよかったが満足がいくものでもない。少し後悔していたら、本番になっていた。


「それでは吹奏楽部の皆さんお願いします」


 全く準備するの様子がなく、体育館がざわつき始めた。司会は知らないので、彼女が次に進もうとしたその時――


「ちょっと待ったー!」


 会場が更にざわめいた。そりゃ、俺がこんなに目立つことをしているのだから当然である。この掛け声は、俺と先輩しか知らない。急遽、先輩が提案して採用したものだからだ。さて、これにしっかりと反応してくれるかはよくわからない。


「あ、吹奏楽部の皆さんです。どうぞ」


 おい、司会者。このタイミングでその司会はないだろ。今だけは司会を全う《まっと》しないでほしい。危うく落ちるところだったぞ。まぁ、そんなことを言っても仕方ない。最初で最後の本番である。後悔の無いように頑張るだけだ。


 しっかりと演奏を続けていき、いよいよ最後の曲になった。最後の演奏は、今までの曲とは比べ物にならない難しい曲である。それなのに、さらに難しくした問題がこれだ。


「ねぇ、ここでブレス取るのは難しくない?」


「そうですかね?」


「だって、明らかにテンポに対しての休符が短くない?」


「楽譜ではできることになっているので、そこは頑張ってもらうしか……」


 この問題のせいで、一度も揃わない。最後のブレスのタイミングが特に難しいらしく、元パーカスの俺でも違和感が感じられる。


 そんな中で本番になってしまったわけであるが、いい感じになってほしい。ここまでは順調だ。さぁ、あなたたちの幸運を見せてくれ。今まで言っていた「練習で出来なかったことは本番でもできない」という言葉は今だけこの世の中から消してほしい。


 さぁ、せーの⋯⋯!


 ――最後のブレスは、今までにないくらいひどいものだった。


 演奏した中で一番酷かった。俺が演奏していた時より⋯⋯。

 でも、今までにないくらい「本気」のものだった。やる気があっても出来ないものは出来ない。能力や技術がなければ、何もできないのだ。それを思い知らされた演奏である。

 

――そして、この演奏が俺の最後の演奏となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後のブレス 囲会多マッキー @makky20030217

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ