第2話 最後のリハーサル

 最終リハーサルをするために会場である第2体育館にティンパニを運んでいた時のことだ。佐藤君が、何も説明されなかったためにチューニングボルトの部分を持ってしまったのである。それを見た廣田先輩が怒鳴ってしまったために、場の雰囲気が悪くなってしまった。


「お前、散々言ったよな? ここだけは持つなって」


「え……? すみません。中学校のティンパニはここを持って運ぶので、つい……」


 このティンパニは今ではあまり見かけない音程調節をハンドルで行うものである。そのため、フットペダルが常識となった今では化石のようなものだ。しかも、一番厄介なのはチューニングボルトを守るカバーが付いていないこと。つまり、こいつだけは足を持たないといけないのである。


「……最初からチューニング、やり直すか。お前、運んだあとにやっておけ」


「は、はい」


 まさか、先輩がやり直すのではなく佐藤君にやらせるとは思わなかった。本気で合わせるのなら、一度緩めてから同じ張り具合になるように締めていかないといけない。俺でも先輩のようにはできないだろう。しかも、リハーサルが始まるまではあと30分しかない。俺がやるならば、最低でも2時間は必要だ。


「全部緩めないでも、いいと思うよ?」


「指揮者は黙って椅子を置く場所の指示をしてろ」


 この先輩は何を考えているのだろう。これでもしも間に合わなかったら、廣田先輩の責任にもなるはずだ。そこまでして彼にやらせる意味なんてあるのだろうか? 彼も、少しは文句の1つや2つ言ってもいいと思う。


「ごめんね。多分、廣田先輩ティンパニのこと話してなかったでしょ?」


「いえ、大丈夫です」


 管楽器の準備が終わり、リハーサル予定時刻になった。やはり、ティンパニは終わらなかったようであるが、これ以上遅らせるとリハーサルがで終わらない可能性がある。彼らには申し訳ないが、このままリハーサルをしようと思う。


「では、管楽器は最初の状態に移動お願いします!」


「おい、パーカスも俺とこいつ以外はリハーサル入れてくれ」


「わかりました」


 さて、俺のときにはできなかったフラッシュモブというものをしてみようじゃないか。俺はどこに隠れたら面白いのだろう。隠れ場所を探し、結局体育館のロフトのような部分に立つことにした。


「……意外と高いな」


「指揮者! もう少しステージ側の方に行ってもらえるか?」


「わかりました」


 俺にスポットライトがギリギリ当たったのを確認して、あとは基本的な動作と司会進行だけであった。廣田先輩の方は何とか終わったようである。彼らは移動が大変なので楽器の裏で隠れてもらうことにした。


「せっかくだから、なんか1曲演奏したらどうだ?」


「廣田先輩、どうせ俺がドラム叩けって言い出すんでしょ?」


「ご名答」


「ったく……知的に見えるような言葉使っても知的に見えないのに」


 俺がドラムスローンに座るのは良いが、何を演奏すれば良いのだろうか。いきなり演奏するにしても、俺が演奏できるのは数曲だろう。……もし、体力を温存するのなら。


「じゃあ、あの曲を頼む」


「あの曲って?」


「お前が1年だった時にラーメンおごった時のやつだよ」


 あの曲か。わざわざ昔の思い出で話してくるとは思っていなかった。普通に曲名で言えば良いのに。廣田先輩はサックスを吹くようなので、俺は「行きますよ!」と掛け声をかける。バスクラがこちらを見てうなずく。あの時と全く同じだ。さて、始めの4小節が終わればテンポは160だが、本番のことは考えずに全力で行こう。


 俺は、ドラムスティックを叩いた。初めはテンポ80くらいである。


 コン、コン、コン、コン――

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