第6話 ー泉の女性ー

気がついたらエイシャの顔がすぐ側にあった。

「気が付きましたか、ローグ様」

「あ、うん。でもここは一体?」

と聞くと、

「ここは」上の方を指差して、「あそこから」

「先程の戦闘で地面が割れて下に落ちてしまったようです。下は小さな湖になっていたので助かりました」

周囲を見回すと、当たり一面水ばかり。確かにそうだな。

ローグはむくっと起き上がった。

「他の人達は?」

「あそこです」

指し示した先には少し大きな島があった。

半分程が丘の様に盛り上がっていて、もう半分程が平らになっていた。

そこにユリアンとアラビスがゴーレムと戦っていた。

アラビスが飛び上がって頭を切り裂くと、頭が紋様の様に光って身体が崩れ落ちた。

頭に魔方陣があったようだ。

ユリアンはもっと直接的だ。

巨大な鉄鎚でゴーレムを身体ごと粉砕していた。

しかし。

ゴーレムは次々と、地面から這い出してきていた。

これではラチがあかない。

あと、

「何であの人達も一緒に戦っているんだ?」

そう、先程までアラビスと剣を交えていた相手が今は一緒にゴーレム達と戦っている。

「今は休戦協定を結んでいる」

「!」

ローグは視線を声のした方に向けると、サイレン少年がいた。

「まあ、そんな怒った顔しないでよ。今は一緒にアレを倒さないとならないんだからさ」

その側では、

「おい、俺の片腕直らないのか。このままじゃ戦力ダウンだろ」

「一度魂を斬られたものは元には戻りません。私に付けることは出来ますが」

「ふん、仕方ない片腕でやるしかないって事か。おい、そっちのヒョロヒョロも気が付いたなら手伝えよ」

と、こっちを見て言う。

「ヒョロヒョロではありません。ローグ様です」

と、エイシャは何故か噛み付く。

「いいよいいよ。で、これは一体」

「ああ、正規の方法で来なかったから警備装置が働いたんじゃないかな。あの島限定だから、あそこに何かあるのは間違いないけれど」

「今はジェイルと君の仲間達が応戦しているけれど、そろそろ交代しなければ体力が持たないと思う。

そう言ってから、

「行けそうかい?」

と聞いてくる。

まあ、返事は決まっているが。

「ああ、勿論行けるさ」

と答えると、さ

「では行こう」

と泳いで仲間達がいる島へと向かった。


島へと到着した。

ユリアンやアラビスが戦っている平地へと登ると、早速ゴーレムが此方によって来る。

ローグは、紙をゴーレムの頭部へ放って頭部を破壊して倒す。

まずは一体。

周りではナリガという男が、まだぎこちないながらも片腕で湾剣を使い、ゴーレムを倒していた。

そしてサイレンが、

「皆んな、離れて!」

ローグ達が、島の片側に寄ると、


ズババババ


と電撃を広範囲に流してゴーレム達をまとめて倒す。

しかし。

「駄目か」

むくりむくりと、ゴーレム達が地面から後から後から這い出してくる。

「ラチがあかないな」

とナリガが呟く。

ローグもそう思った。

ただ、何かが引っかかっている。


「ユリアン、ゴーレムを二体程倒してくれないか。確かめたい事があるんだ」

「?、分かった二体だな」

ユリアンは鉄鎚でゴーレムを二体叩き潰す。

しかし新たにゴーレムが地面から這い出してくる。

「やっぱり!」

とローグが叫ぶ。

「どうした。なにか分かったのか」

「ゴーレムの数です。倒したそばから新しいゴーレムが湧きだしますが、動いているゴーレムの数は一定なんです」

「つまり?」

「ゴーレムは倒すのでなくて、動きを封じましょう。それでいけるはずです」

と、ローグが解説する。

「僕がやりましょう。皆さんは壊す・殺すが専門でしょうから」

ローグは懐から紙束を取り出すと、紙を次々にゴーレムの頭部の魔方陣に貼り付けて、倒すのでなく動きのみを封じてゆく。

全部のゴーレムを封じるのにさほど時間が掛からなかった。


「これで全部か」

ふうと、息をつくローグ。

「これで終わり?」

しかし。

平地の真ん中から大きな魔方陣が。

ズズズズッ

と、先程より大きなゴーレムが。

しかも。

「コレヨリ先ニハ行カセヌゾ」

喋った。

大ゴーレムは、両手を上に広げてそのまま手を下ろした。


ズドンッ


ローグ達は地面に倒れた。

起き上がれないっ。

まるで空気が僕を押し潰している様に動けなかった。

目線だけ辺りを見回しても、他の人も同じ様に押し潰されていた。

起き上がっている人は誰もいない。

大ゴーレムは、ゆっくりと進むと、ユリアンを掴む。

そのままグリグリと握り潰そうとしている。

ユリアンは悲鳴をあげてなんとかして逃れようともがくが無理だった。

ビキビキと嫌な音がする。

ユリアンーー。


と、その時。

「離しなさい」

と凛とした声が。


やっと来たか。

見ると、艶やかな衣装を着た少女が大ゴーレムに向かって歩いていく所だった。

周りで地に伏せられた僕達など見もせずに真っ直ぐに。伏せられること無く。

そこだけが世界が切り取られた様にまばゆかった。

とうとう大ゴーレムの前まで少女が来た。

大ゴーレムは、

「ココハ通サヌゾ、小サキ者ヨ」

と、言ったが、少女は、

「主の顔を忘れたか。まあ今は違う身体を借りているのだがな」

と言うと打って変わって

「コノ魂ハ!アラセ様?貴方ハアラセ様ナノデスカ?」

「そうだ。この体の主とも話したが、もう守りぬく時では無い様だ。ここを通してくれるか、アリゾートよ」

「テスガ、ココハ」

「時代が変わったのだろうな。ここを守れば逆に狙われる。開けておく方がいいのさ」

「分カリマシタ。デハソノ様ニ」

身体が急に軽くなった。

一息つく。

「ああ、こちらの者達は、そのままで」

と、サイレン達はズドンと、あた這い蹲る。

「では行くぞ」

「行ッテラッシャイマセ」

大ゴーレムが手をかざすと、丘の中腹辺りに穴が開いた。

少女を先頭にしてローグ達は進んで行った。


穴からの下り階段を降りると小さな泉があった。

その中に女性が沈んでいた。

「ふふっ私はこの様な顔をしていたのか」

少女がそう言うと、愛おしそうに顔を撫でる。

「この泉はどうなるのだろうな」

少女が呟く。ローグは、

「あの、この泉は人を生き返らす事が出来るのですか?」

「そんな出来る筈が無いだろ。ここは私の遺体安置所なのだから」

「えっ」と、驚く暇なく、

「そろそろ時間切れか。私はゆく、あとは任せたぞ。アリゾート、あ、いやあのゴーレムはお前達の命令も聞く様にしておく。ではな。」

少女は一瞬輝くとふっと倒れた。

が、直ぐにむくっと立ち上がり辺りを見回し、

「で、ここが目的の泉かい?」

と言ったのだった。


後日。

ローグ達はギルドハウスに集まった。

ベルナンドの報告を聞く為だ。

「で、手紙の依頼主は分かったのか?」

とアラビスが聞くと、

「まぁね。泉から帰った次の日に使者がやって来たからね」と区切り、

「理由は死んでしまった娘を生き返らせたいって言うありきたりなものだったよ。駄目だったけれど、報酬は貰えたのは幸いだった」

「ベルナンドが「神降し」でその娘を憑依させればいいんじゃない?」

「ははは、出来ればごめん被る。必要な時以外はなるべくやらないと決めているんだ」

そう。泉の女性に憑依していたのは少女ではなく少年ベルナンドだった。

今回はローグ達が戦っている間に、泉に居るであろう者の霊を憑依させる事で攻略を楽にしようという狙いがあったのだ。

霊がいる根拠は、死に返り、つまり「生き返らせる」という事のみだったけれど。

結果的にはうまくいって良かった、のか?

「ユリアン、体は大丈夫?」

「ああ、良い回復導師がいてな。もう大丈夫だ戦闘も元の様に出来るそうだ」

「それは良かった」

「アラビスなんかは泣いて喜んでたぞ」

「お、おい、それは言うなっていったじゃ・・・」

アラビスはこちらを見るとみるみる顔が赤くなって、

ザッ、バタン。

「逃げたな」

ローグ達はひとしきり笑うと、「とりあえず」成功の乾杯をしたのだった。

ーー>続く

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渡りの魔術士 紅鶴蒼桜 @MariRube

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