第5話 ーそれぞれの対決 その2ー

ローグは、攻めあぐねていた。

相手がタイミング良く攻撃と牽制を使い分けているからだ。

その隙を突いて行く事も難しい。

今は、エイシャが男と、切りあっている。

援護しようにも少年、サイレンが此方を伺っている。

よし。

ローグは懐の紙束から紙を取り出して、ナリガという男と、サイレンに向けて放つ。

同時に、複数の紙を出し、それをエイシャに飛ばす。

紙はエイシャの鎌へ。その紙が覆った鎌は刃先部分が赤く鈍く光りだした。

「何を」

というナリガの声を聞き流し、エイシャは鎌を振り下ろす。

ナリガの湾剣とまた打ち合うが、鎌と剣が触れ合った瞬間、鎌は僅かながら湾剣に食い込む。

「ちっ、刃物の強化術か。厄介だな」

と、しかし意にも返さず剣を打ち合うナリガ。

段々と打ち合う度に剣がボロボロになってゆく。

しかし、ナリガが「ふんっ!」と、力を込めると、湾剣は、傷が塞がるように元どおりになった。

「さあ、お前さん達の術はこのように無駄だったな。次はどうするね」

ローグはその呟きを無視して周囲に紙を撒く。

エイシャは再度ナリガと鎌を打ち合う。

ナリガは舞う紙にも注意しながら、エイシャの刃を受ける。

その背後のサイレンも此方を注視しながら自身の近くに来た紙を迎撃する。

更に、自身の立ち位置を微妙に変えながらローグに立て続けに電撃を放つ。

ローグはたまらず移動すると、それを待ち受けていた様にサイレンは追い討ちをかける。

それを複数の紙で防ぐと、エイシャと打ち合っていたはずのナリガが、切り込んできた。

「うわっと」

咄嗟に避ける。運良く髪の毛を少し切られただけで済んだ。エイシャは、慌ててローグとナリガの間に立つ。

「すいません、ローグ様」

と、エイシャが言うと、

「今はいい」と、ローグは短く返す。視線は敵二人に注がれていた。


さて、次はどうする。

ローグは、紙を飛ばしエイシャに体力強化の術をかけると、もう一枚術を今度は鎌に施す。

鎌が青白く光った。

「なんだかヤバそうだな」

とナリガ。

エイシャは「はぁっ!」と掛け声をかけて鎌を振り下ろす。

ナリガは剣で受けようと構えたが、鎌は剣をすり抜けてナリガの身体へ。

ナリガは咄嗟に避けて距離を取る。

ナリガは自分の身体を見るが、傷は無い。

切られたと思ったけれどな。

しかし、切られたとおぼしき右腕に力が入らない。湾剣も落としたままだ。

どういう事だ。

「何をした。やっぱりその鎌か?」

ナリガが聞くと、

「魂を切りました。右腕の」

と、淡々とエイシャが答える。

「死んで頂きます」

「やらせるかよ!」

ナリガが左手で湾剣を拾い、サイレンの援護を貰って再度鎌に注意しながらエイシャに切りかかる。

エイシャも、再度ナリガに刃を向けた。

その時ー。


少し前、

ユリアンは太男と戦っていた。

鉄鎚を破壊した破裂の魔術は謎だが、サッサと片付けるのみっ。

髪の中から自分の身長程もある槍を取り出すと、太男に突きを繰り出した。

太男はまだ片手を地面につけていた。

もう片方の手を此方に向けて、

「ふんっ」

と、赤茶色の何かを飛ばしてきた。

嫌な予感がして槍先で防ごうとしたら、ジュっと音がして其処の部分が溶けてしまった。

慌てて飛び引く。

「・・・溶岩の魔術か」

呟いても相手の返事は無し。

代わりに先程よりも広範囲に溶岩の群れを放ってきた。

ユリアンは冷凍術で応戦するが、何ぶん範囲が広い。気を付けないと後ろで戦っているであろうアラビスに当たってしまう可能性もある。

「よし」

ユリアンは太男に一直線に迫る。両手を髪の中に差し込んで。

「ふん、何をするかは分からんが勝つのは私だ」

太男は言うと溶岩のつぶてをユリアンに向けて放った。

「ふーんっ!」

その時ユリアンは、人間の十倍ぐらいはある巨大な木馬を、髪の中から取り出し、溶岩と太男に向かって振り落とした。

ズドンっと大きな音が響いた。

そして状況を確認する。

溶岩で一部が燃え溶けたが、冷凍術で鎮火させた。

太男は、巨大な木馬の下敷きになって動かない。

しかし油断はならない。

留めを刺さないと。

アラビスと打ち合っている男は、此方に来ようとしてたが、アラビスがそれを阻む。

太男は木馬からフラフラと抜け出していた。

しかし、満身創痍であまり動けそうに見えない。

ユリアンは留めを刺そうと、髪の中から剣を抜いて太男に向かった。

太男はそれを見ると、憤怒の顔で両手を地面につける。

「ふんっ!」

と叫ぶと、

グラグラグラッ

「な、何っ」

手をついた所から地面が爆発した。

地面が太男を中心に崩れてゆく。

その範囲はどんどん広がってゆき、ユリアンやアラビス達は勿論、ローグやエイシャ達の方にも崩落が進んで行った。


そうして皆はその中に呑まれてしまった。

ーー>続く

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