序編 崩壊される事が約束されたとある世界
小さな世界に存在するは五十六柱の存在
通常であればこの世界に与えられた本来の目的を成す為の存在であるが、この世界のこれら五十六柱の存在は、神ならざる神の存在によって、神の定めた理を歪められ存在していた。
彼ら五十六柱は気付けばそこに在った。唯々に自らから放出されていく摩訶不思議なものを垂れ流しながら、悠久の時の流れに身を任せて案納とそこに在り続けた。
膨大な摩訶不思議な躰を持ち、遠大な空間に広がるそれらは、膨大な情報量を持ちながらも、広がり過ぎたその身体の為に意識は非常に希薄になっている。
時と場合によっては端と端の思考が別物といって良いレベルで食い違う事すら侭あった。
彼らは在り続けた。なぜか知らないがそう在るべしと思い、只あり続けた。
気まぐれに者を生み出し楽しむこともあれば、気まぐれに物を生み出し干渉することもあった。
彼ら五十六柱は何でも出来ると思っていた、いつまでも存在し続けられると思っていた。だが、それは勘違いだった。
何時しか彼らは自身から垂れ流されている摩訶不思議に溺れるようになる。
他の
ちょっとした思考に直ぐ様反応してしまう摩訶不思議。
どうしようかと思考を巡らせるだけで発現してしまう結果。
幾度も繰り返される暇潰しが彼らに娯楽の消費という欲を齎してしまっていた。
彼らは最早考えないという事が出来なくなっていた。なんでも出来ると思っていた彼ら、それは思い込みだった。彼らは出来るが故に行わないという事が出来なかったのだ。
いつの間にか生まれてくる者、物。
周囲に溢れかえり収拾がつかなくなる。気付けば生み出したものに埋没する様に存在するそれらは埋もれ潰され擦り潰されようとしていた。
そして、小さな世界もまた内側から際限なく溢れてくる様々なものに軋みを上げ始めていた。
世界は緩やかに確実に崩壊へと向かっていた。
危機感を持つ五十六柱の存在。だが何もかも遅かった。考えることを止められなくなった存在は、際限なく摩訶不思議を撒き散らす、際限なく様々なものを生み出す。
どうすると思う。どうなると思う。
恐怖した。自身の損失を意識するようになる。
どうすれば回避できる?
何を行えば喪失を回避できる?
辿り着いた答えは圧縮だった。摩訶不思議を圧縮した。只管に圧縮した。
そして、生まれたのだ。
小さな世界の内側に新たな世界が。
外側の世界に新たに生まれた内側の世界。
五十六柱の存在はそこに縋りついた。これで損失を回避できると。
しかし、それは先延ばしに過ぎなかった。
圧縮、圧縮、世界の誕生。
圧縮、圧縮、世界の誕生。
外なる世界に次々と生まれる内なる世界。
積み重なる小さな世界、世界、世界・・・。
結論、変わらなかった。ただ摩訶不思議の飽和から、世界の飽和へと問題が・・・いや、言葉が、違う。磨り潰しに来る対象の容が代わっただけで、結果は変わらなかった。
だけどもう遅い。続けなければ。摩訶不思議に摩滅させられるだけ。
だけどもう遅い。続け続ければ。内なる世界に摩滅させられるだけ。
内なる世界を内容する外なる世界。全なる世界は遠大だが、広大だが無限ではないのだから。
どんなに圧縮しても、どんなに足掻いても、先延ばしに過ぎなかった。
では、この場所を拡張すればいい。出来なかった。なぜか不可能だった。まるで元から限界まで拡張しきっていたかの様な感覚を憶えるのみ。
ならばさらに外側へと向かえば良いではないか。
出来なかった。向かえなかった。外側を全に迎え、外なる世界とする事が出来なかった。五十六柱の存在が直面する初めての明確な不可能の数々。
彼らは何でも出来ると思っていた。そんな彼らは愕然とするのみ。
彼ら五十六柱の存在は何でも出来ると思っていただけ。
ふと気づく、己らは思いつく儘に我儘に唯生み出し、唯考え、思い、無為に消費し、無駄に浪費した。
間を、時を。
無限だと、無際限だと思っていた自らの生み出す摩訶不思議は、
無限だと、無際限だと思い込んでいた己らが住まうこの場所は、
ある結果へと帰結する、収束する。
何時か訪れる崩壊という二文字の結末に。
どうなるとも解らない、死という収束を。
それを意識しても続ける事しか出来なかった。
やめられなかった、やりつづけていた、少しでも長く足掻き苦しみ存在し続けようとした。
ここまで追い込まれていても彼ら五十六柱の存在は狂気に染まるでも、自暴自棄に囚われることも無かった。
何故ならば彼らは遠大広大。同一なのに違う思考。
端と端が違う事を思うのが日常。
無際限の摩訶 Uzin @Uzin
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