2020年2月
忘れてしまった気持ち
古本屋の香り。古い本が所狭しと並ぶ様が財宝の山のように見えた。宝探しをしている感覚になる。これまで数々の持ち主の手を渡ってきた本たちからの、木のような線香のような香りが彼女がつけている香水よりも好きだった。
神戸三ノ宮センター街・サンプラザとセンタープラザ。怪しげな店が多数並ぶ、雑多な環境。筆舌に尽くしがたい独特な香りに、どこからか漂ってくるカレーの匂い。本屋もゲーセンもオタグッズも全てが揃うその場所の懐の広さ。そこに心浮かれる僕がいた。
新しいゲームを買う前日の胸の高鳴り。何かが変わるような気がした。実際は新しいゲームを買ったからと言って、生活が変わることは無いのだけれど。それでも、何かが変わるような期待感があった。
明日への希望。明日が来るのが恐ろしくもあり、楽しくもあった。0時になり、日をまたぐ瞬間に白昼夢を見ているようなふわふわとした感覚になる。明日になれば、何かが変わるような気がした。実際には、人生は1日で急変したりはしない。そんなドラマみたいなことはないと知りながら、それでもドキドキした。
僕が持っていたたくさんの気持ちは、日々の忙しさの中でどこかに消えてしまったように感じる。忘れてしまったのだと。戻ってくることはないのだと。それが大人になることだと。
だけど、実際はそれは大人になるということとは違っていた。大人にも、そういう気持ちは確かにある。明日になれば全てが変わってしまうような、今日が幻のような感覚は忘れてなんかいない。
ただ、心の隅に、記憶の端に、追いやられているだけだ。
たまには、そんな気持ちに目を向けてみたくなる。
目を向けてほしいと思う。
それがなければ、生きていくには辛い世界だから。
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