1995 叫び

 一人、部屋の隅で膝を抱えて丸くなる。膝を抱える両腕に耳をくっつけた。機械の起動音のような、不思議な音がする。耳を澄ますと鼓動も聞こえる。ハッキリと。生きている。実感はない。だけど確かに生きている音がする。そのまま眠ってしまった。


 夢を見た。


 濡れながらひたすらに船を漕ぐ。なかなか岸が見つからない。長い暗闇の海で船を漕ぎ続ける。僕はずっと孤独だった。夜通し船を漕ぎ続けて、1日・2日・3日と経ち、そのうちに時間の流れがわからなくなる。


 ようやく岸が見つかり、街に来た。


 しかし、誰も僕の声を拾わない。誰か僕の声を拾ってくれ。歌うように叫ぶけど、誰も僕の歌を聴いてはくれない。絶望しかけたとき、ある人が話しかけてきた。


「はじめまして、こんにちは」

「君は誰?」


 その人は笑って去っていく。何がそんなにおかしいのか。


 なんだか独りぼっちの寂しさにも慣れてくる。だけど、それは嘘だ。慣れるわけがない。笑われてから長い間声も出していない。自分の声も忘れそうになる。喉はずっと乾いているし、枯れている。


 息を吐いた瞬間、夢が覚める。


 新しい自分なんてどこにもいなくて、ただ同じ、耳をふさいで丸くなる自分がいた。誰かが呼んでいる気がするけど、何も聞こえない。誰も僕の名前を呼ぶはずがないのだから。生きている音すら聞こえない。何をどうしたって聞こえない。声も出せない。


 君に届く声も、言葉も、手足も持ちえず、僕はどうして生きていくのだろう。船を漕いでも街に出ることなんてない。船を漕ぎ続けても、あるのは広く暗く重苦しい海だけ。


 僕は海に飲み込まれ、声も出せなくなる。


 ――必要とされたい。

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