ネットはリアルより自分をさらけ出しやすい
僕は、リアルよりネットのほうが本心に近いことを言うことが多い。
現実の僕は、嘘つきだ。
僕が嘘つきになった原因は、冤罪事件にある。
小学生の頃。僕は年下の子たちとよく遊んでいた。僕が最年長だった。手放しで自転車を乗り回したり、ザリガニ釣りをしたり、馬鹿みたいなことばかりしていた。とても小学生らしい。
ある日、暑すぎて溶けそうだったためコンビニに入った。お金は持っていないので買えるものは何もない。涼んだら外に出て、また馬鹿みたいなことをして遊んだ。
後日、また涼むためにコンビニに入った。ここで事件が起きた。僕以外の全員が10円ガムを万引きしようとしたのだ。僕は必死に止めたが、言葉は誰の耳にも届かず、強行された。僕は店員に友人を売ることができず、一目散に逃げる皆に付いて逃げた。だけど本心では「告げ口したほうが良いかもしれない」と思っていたため、店員さんの顔を無意識に見ていたらしい。ここで店員さんは気付いたのかもしれない。
さらに後日、学校から帰ると親が深刻な顔で言う。
「コンビニに行くよ」
店内に入り、僕らはバックヤードに通された。店長と店員さん、そして僕と母親の4人で監視カメラの映像を見る。
「目が合ったよね。君だよね」
「この前も来てたけど、あれは下見か何か?」
「暑かったから涼みに来ただけです」
「嘘だね」
「本当です。小学生が下見なんてわざわざしますか?」
「君が主犯?」
「違います。僕だけは盗っていません。主犯は〇〇です」
「また嘘ついたね。友達に被せるなんて最低だよ。次嘘ついたら警察呼んで学校にも知らせるから」
僕は、何一つとして嘘を言っていなかった。店長の目はとても鋭く、僕が主犯だと疑わずに僕を睨みつけている。母親が言う。「本当のことを言いなさい」と。本当のことを言っている。本当のこととはなんだ。大人たちが望むことを言えばいいのか。自分が不利になる嘘を吐いてまで、大人たちの決めつけを真実にしてしまわなければならないのだろうか。
警察は呼ばれたくない。学校にも言われたくない。
僕が悩んでいる間も、大人たちは勝手に説教を続ける。
「今回は10円ガムだったけどね。こういうのはエスカレートして、どんどん高価なものになるんだ」
僕以外の奴らには言ったのだろうか。
「どんどん君は泥棒になっていくよ」
僕は何も盗っていないのに。
「君は最年長だから」
ああ。最年長だから僕が主犯で、みんなに命令したんだと思ったんだ。馬鹿みたい。何の根拠もないじゃないか。もうどうでもいい。早く終わらせよう。面倒くさい。
「やりました」
僕が言うと、店長は満足したように笑い、母親が盗られた分の代金を支払うことで事なきを得た。
後日、僕は全員の家に謝りに行かされた。全員、何も言わなかった。僕だけは何も盗っていなかったこと、直前まで止めていたこと、犯行の後に自首するように言ったこと。全部黙っていた。それどころか、怯えたような顔で僕を見て、親の後ろに隠れている。彼らの親は僕をキツく叱った。もう関わらないように、と言われた。言われなくても、二度と関わるもんか。
ただ、この事件だけで嘘つきになったわけじゃない。
二年後くらいに、また冤罪事件に巻き込まれた。
僕が良く遊んでいた友達グループが、僕の居ないところで年上の男子に嫌がらせをしたのだ。今思えば被害者の子は発達障害だったんだと思う。小学生の彼らにはそんなことわかるわけなく、ただ「変わった奴」「変な奴」と認識していた。一人でタイヤ遊びをする彼。僕の友人たちはそのタイヤを蹴っ飛ばしたらしい。
ある日、生徒指導室に呼び出された。
全く覚えがないから「何かしたっけ?」と思いながら生徒指導室に行く。そこには、友達グループが集まっていた。先生が事件のあらましを説明している。「こいつらそんなことしたんか」と思っていると、先生が急に僕の方を向いてきた。
「被害者の子は、お前がその場にいたと言ってる」
「彼で間違いない?」
被害者の子が頷く。
まただ、と僕は思った。全員が申し訳なさそうにして僕を見ている。誰も何も言わない。僕がその場に居なかったことも、僕が蹴った人間ではないということも、何も言わない。だんまりだ。僕は抵抗しても無駄だということを知っていた。ため息を吐いて「すいませんでした」とだけ言う。
親に土下座する、という宿題を課された。
律儀に親に土下座をすると、「万引きのこともあるからなあ……」と厳しく叱る。
その後も親は僕が本当のことを言っても何も信じず、その直後に嘘を言うと信じるようになっていた。冤罪によって信用を失い、僕が嘘を吐いていると思っていたんだろう。真実を撤回して嘘を吐いているのに、親には嘘を撤回して真実を述べたように見えたのだ。
だから、僕はリアルでは結構嘘を吐く。自分が不利になる嘘も吐くし、場を盛り上げるための嘘も吐く。嘘で仕事をし、嘘で遊び、嘘に生きている。
しかし、ネットだと僕はほとんど嘘を吐かない。理由はわからないけど、リアルで嘘つきな反動なんだと思う。最近キャスで知り合った人にも本心をさらけ出しているし、数日の付き合いの中で結構な個人情報を伝えたような気がする。
なんなんだろうなあ、と夜な夜な考えてしまったため、このような記事を書いた。
あ、二度目の冤罪事件の際、友人は謝ってくれたため許した。仲が良かった女友達が、生徒指導室から出て帰ろうとしている僕にクラブ活動で作った飴をくれて心が和んだのもある。別に友人のことを恨んではいない。ただ、当時の友人たちとは中学時代の三度目の冤罪事件で完全に切れてしまった。
三度目の事件に関しては、まあここで語る必要はないだろう。語るとまた1000文字くらいはかかるし。
なんだか、昔から罪を被せられやすいんだなあと、笑えてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます