貧乏飯のおもいで①「おかず無しごはんイロイロ」

 誰もが一度は貧乏飯を経験したことがある、と思いたい。少量のおかずで白米をたくさん食べるように味付けを濃くする、豆腐をごはんに乗せて食べる、バターしょうゆご飯。

 貧乏飯に欠かせないのが「米」だ。米が無ければいよいよ切羽詰まってくる。何を食えばいいかわからなくなる。だけど、米さえあれば少なくとも餓死することはない、米さえあれば助かる。


 貧乏飯の究極系は、「おかず無しごはん」だと思う。そういえば、「こち亀」で両さんが調味料ご飯をうまそうに食う話があったなあ。僕にはそんな「おかずなしご飯」のレパートリーがたくさんある。


 たとえば、先述の調味料ご飯。ご飯にケチャップをかけて炒める赤ご飯、ご飯にわさびを乗せて醤油をかけるわさび丼、ご飯にマヨネーズと醤油をかけるマヨご飯、焼肉のタレをかける焼き肉の締め風ご飯など……。


 特にお気に入りなのがわさび丼だ。擦り下ろした生わさびと鰹節があれば立派な御馳走だが、これがチューブわさびになると急に貧乏飯然としてくる。チューブも案外うまい。刺激が足りなくなりがちな貧乏飯において、わさびの刺激は重宝するんだ。


 調味料ご飯以外にも、おかず無しごはんがある。


 ご飯にスライスチーズを乗せ、チーズの原型が無くなるまで電子レンジで温め、醤油をかけ、ぐちゃぐちゃに混ぜ、食う。何故かスライスチーズが大量に冷蔵庫に入っていた時期によく食べていた。お茶碗一杯分で丼ごはんくらいの満足感が得られる。乳製品も取れる。


 このチーズご飯を食べていたときは、とにかくストレスが溜まっていた。当時付き合っていた彼女にたくさん金を使い、感謝されることなく、見栄を張って日常生活はボロボロ。そんなときにチーズご飯の濃厚な旨さに救われ、彼女に別れを告げる勇気をもらった。


 他にもイロイロ食べたなあ…。冷や汁という食べ物があると知ったときには、ご飯を氷水に漬けただけのものをサラサラと食べていた。茶漬けよりも湯漬けが好きな僕にとって、これは結構うまく感じる。


 ご飯をフライパンで薄くカリカリに焼き、塩をかけると、旨いオヤキになる。ご飯だけだと食感が偏ってしまうため、たまにこういう「焼き物」を作ると貧乏暮らしにも華が出る。


 春には道端に生えている野草をオヤキの具にしてもいい。米と調味料しかないときにも、旨いものを食おうと思えば食えるのだ。


 しかし、おかず無しごはんを美味しく食べるにはコツがある。決して正気にならないことだ。狂ったように「うまいうまい!」と叫び、自分を騙し、ひたすらに貪り食うことで、おかず無しごはんがうまくなる。正気になってしまえば、急に味気なくなる。「ただの米じゃねえか!」とか「具なしチャーハンじゃねえか!」とか、間違っても言ってはいけない。


 栄養度外視の狂気に身を任せることでしか味わうことのできない究極の貧乏飯、それが「おかず無しごはん」だ。

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