パンツ(ズボン)に、さよならを。

 僕が所持しているパンツ(ズボン)が、全て破れた。


 数日前、ジーパンが破れてしまった。その日は眼鏡のフレームが微妙に歪んだうえにスマホの画面も割れたという、絵に描いたような厄日だ。金がないからジーパンを買い直すことはできないし、スマホを修理や交換に出すこともできない。眼鏡は購入店が遠いからこれまた修理できなかった。もうこれ以上の不幸はしばらく起こらないだろうと、安心してしまった。


 しかし、今日、愛用していた黒いチノパン(縦ストライプ)が破れた。僕は二着しかパンツを持っていなかったため、これで全て破れたことになる。当て布? そんなものは無い。針と糸すらないのにあるわけない。


 僕はこれから何を履けばいい? 仕事中に何を履けばいい? あと数日で入金日だけど各種支払いをしに行くのに何を履けばいいんだ? 教えてくれよ。Please tell me! Ashitakara naniwo hakebaii?


 途方に暮れた。体が崩れ去りひざをつく。思い返せば僕の人生はこういうことの繰り返しだ。本来修復可能なモノゴトを、そのときの状況が全てダメにしてしまう。放置すればするほどに、修復したいという気力も修復する方法も失われていく。終いには「まあボロボロだったし?」「毛がモケモケになってたし?」とモノゴトを捨てる言い訳をする。


 しかし、全ては自らの行動が招いた結果だ。貧乏暮らしをしていると炭水化物を多く摂るようになり、以前より太った。太ももまわりが太くなった。破れた箇所は全て「股」だ。二着ともに擦り切れるようにして生地が薄くなり、破れている。痩せなければいけないが、貧乏暮らしはまだまだ続く。10月も食費は1万円以下だ。食生活は虚無に近くなるだろう。


 これからも何かを犠牲にしてしまうかもしれない。


 パンツにさよならを。新たな犠牲によろしくを。


 そして押し入れの奥に乱暴に収納していた「以前はぶかぶかすぎるために履けなかったジーパン」に、こんにちはを。


 履くものはあった。


 あったんだ。


 パンツはあったんだ……!! これでパンイチにならなくて済む! 通報されなくて済む! 未来は守られたんだ。


 だけど、以前は「ブカい」と吐き捨てたジーパンは、現在はウエストだけ少しキツくなっている。


 ああ。もう。人生だなあ。

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