かぜのさかなのうた
『かぜのさかなのうた』という曲がある。これは『ゼルダの伝説夢をみる島』というゲームのテーマ曲だ。夢をみる島が発売されたのは1993年6月。僕は1995年5月生まれだから僕が生まれる前のゲームだ。
僕は1998年発売の『ゼルダの伝説夢をみる島DX』でこのゲームに触れた。僕が人生で初めて触ったゲーム機がゲームボーイとゲームボーイカラーだったのだ。夢をみる島DXは僕が人生で何番目に触ったゲームだったのかは定かではない。ただ、恐らく五本の指でおさまる範囲だろう。ちなみに人生初のゲームはポケモン赤だ。
さて、若干脱線したが僕がここで語りたいのは『かぜのさかなのうた』と『ゼルダの伝説夢をみる島』なのだ。
本作がNintendo Switch用ソフトとしてリメイクされる。最近長めの紹介映像がネット上にアップロードされた。その映像の最初に『かぜのさかなのうた』が流れる。当時のピコピコとしたGB音源も素晴らしいが、それが現代のゲームBGMとして蘇ったことに僕は痛く感動して涙が出そうになった。
『かぜのさかなのうた』というのは、ゲーム内で主人公リンクが奏でる曲だ。主人公は島の各地にあるという「セイレーンの楽器」を集めて旅をする。新しい楽器を手に入れる度、所持している楽器だけで『かぜのさかなのうた』が奏でられる。楽器の種類は全部で次の通りだ。
・満月のバイオリン
・巻き貝のホルン
・海ユリのベル
・潮騒のハープ
・嵐のマリンバ
・珊瑚のトライアングル
・夕凪のオルガン
・遠雷のドラム
リメイク版の紹介映像冒頭で流れるのは「バイオリン」による演奏だ。GB音源では完全に再現することが難しい楽器の音色が、鮮やかかつ叙情豊かに再現されていることに僕は感慨深いものがあるなあと思ったのだ。
ただ、泣きそうになった理由はそれだけではない。夢をみる島というゲームに対する思い入れの強さと、『かぜのさかなのうた』の背景に存在する切ないストーリーがそうさせるのだ。
僕はこのゲームをプレイしていた当時、とにかくこのゲームが好きだった。夢をみる島の舞台となるコホリントが好きだった。コホリントには個性豊かな住民が大勢いる。今作のヒロイン的立ち位置になるマリンは可愛いし、事あるごとに表れて意味深な言葉を残すフクロウも頼れる兄貴感があって良かった。店の売り物を盗むことができるのも面白い。その瞬間すべての住民から「ドロボー」と呼ばれて罪悪感に苛まれた。辞めときゃよかった。次に店に入ると店主が謎のビームを打つ。リンクは死ぬ。店主の伝説に改題すべきだと本気で思った。
マリオに登場するワンワンを連れて歩くのも楽しかったし、他作品のキャラクターが大勢いるのも嬉しかった。
マリオからはワンワン、クリボー、パックンフラワーなどが参加。『星のカービィ』のカービィとゴルドーがいた。『カエルの為に鐘は鳴る』のリチャードもいる。クリボーとかカービィとかは敵キャラとして出てくるが、リチャードは敵にはならない。積極的に戦うキャラではないからそこも嬉しかった。
そして何よりも、コホリントは意外と広く、冒険していると非常にワクワクさせられた。ダンジョンを攻略する度に新しいアイテムが増える。ロック鳥の羽を取ればジャンプが可能になり、ペガサスの靴を手に入れればダッシュができる。それだけで行動範囲が広がって、それもまたワクワクした。探索済みの場所もアイテム入手後だと新しい発見がある。
住民たちの行動もよくわからなくて面白い。リンクの拠点の近くに延々とキャッチボールをし続ける奴らがいる。彼らは何なんだろうと思って観察していたことがある。もちろん時間経過の概念のないこのゲームにおいて彼らの行動が時間経過で変化することはない。当たり前だ。当たり前だけど、画面上をずっとボールが飛び続けているのが楽しかった。
魔法の粉をある人物にかけるとベイブレードよろしく回転し始めるのも面白い。かなり笑った。多少引き気味だったような気もするけど。
そういうわけで、なんだかこの世界に永遠に浸っていたいなあと思っていたのを覚えている。だから僕は慎重にこのゲームをプレイした。あまり終わらせたくなかった。子ども特有のゲーム内ごっこ遊びなんかをして楽しむこともあった。
ただ、どんなゲームにも終わりが来る。
終わりに関してはネタバレになるので語らないが、ゲームの終わりに流れるのが『かぜのさかなのうた』の完全版なのだ。リンクが全ての楽器を揃え、それを奏でる。その瞬間に物語は幕を閉じる。
当時の僕はそれが悲しかった。
純粋な気持ちでゲームを楽しみ尽くしたからこそ、終わりがより切なく感じられるようになる作りの作品なのだ。だからこそエンディングとして流れる『かぜのさかなのうた』も切ない思い出として強く印象付けられる。実際、この曲のメロディはゲームのストーリーを知らなくても切ない気持ちにさせられるものだ。
僕の中で『かぜのさかなのうた』は楽しい思い出だ。同時に「終わりの曲」でもある。楽しい思い出が終わってしまうということに対して、僕はなんだか泣きそうになるのかもしれない。
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