生きているだけで丸儲け、なんてアホらしい

 生きているだけで丸儲けという言葉がある。明石家さんまがかつて掲げていた座右の銘だ。現在は「わくわく死にたい」という言葉に座右の銘を変更している。こちらの座右の銘は言葉選びが少し面白い。生きたいではなく死にたいなのもリアルでいい。

 ただ、「生きているだけで丸儲け」という言葉は僕の最も嫌いな言葉だ。


 この言葉にはさまざまな背景があるのだと思うし、命があることの素晴らしさには共感する。人間が死にゆく様を見たことのある人間なら命の尊さは十分すぎるほどに理解していると思う。僕もそうだと思っている。

 しかし、命があるだけで人生が素晴らしいとは僕は思わない。


 生きているだけで丸儲けという言葉を喜んで使う人が言いがちなことがある。「五体満足で飯が食えている当たり前にこそ、人間の幸せがあるのだ」と。与えられた物に感謝しながら日々を過ごすことが幸せだ。この世に生を受けたことは奇跡だ。死んだら何にもならない。生きていることが全ての幸せの根源だ。


 ……あほくさ。


 五体満足で飯が食える当たり前だけで、与えられたものをただ享受するだけでどうして満足できるのだろうか。僕は自分の趣味を思う存分に楽しみたいし、友人ともたくさん遊びたい。女性と遊ぶのも楽しい。犯罪以外のことならなるべく多く経験してから死にたい。今の僕は自分の趣味を思う存分に楽しめていないし経験もまだまだ足りない。全然叶えられていない。正直ものすごく飢えていると思う。多分、全てを叶えたとしてもまた次の願望・欲望が出てくることだろう。僕の欲は尽きることはない。何をどれだけしても満足することができないのだ。それならば生きているうちに自らの欲望を限界まで叶えなければ、死ぬときにたくさんの後悔を生むだろう。わくわく死ぬためには生きているうちにたくさんわくわくする必要がある。たくさん欲を抱く必要がある。欲を叶える必要がある。


 だから生きているだけで丸儲けとは思えない。


 また、違う観点からも「生きているだけで丸儲け」を否定したくなる。


 「生きているだけ」と言うが、「生きるだけのこと」にどれだけの人が苦悩しているのか……。残業が続くとしてもブラック企業だとわかっていても生活のために仕事を続ける人。嫌いな仕事を続ける人。金が無く食費を削っている人。熱が出ても病院に行けない人。人間関係のストレスで鬱になる人。恋愛に悩む人。自殺を考える人。みんな生きるだけで苦悩を抱えている。死にたいと思うほどの苦悩を抱えている。実際に死んでしまう人もいる。生きているだけで傷を抱えている。生きているだけで致命傷を抱えている。


 やはり、生きているだけで丸儲けだとは思えない。

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