第16話一難去ってまた

新宿駅テロ未遂事件は謎を残したまま終わった。

逮捕された男達のうち軽傷の者達は日本の法律の元裁かれる事になったが、主犯と思われる男は国際指名手配中だった事もあり回復次第身柄の引き渡しが行われる予定となった。

主犯格の男は逮捕された当初錯乱したかの様だったが回復してくると思いの外しっかりと話せるようになった。そこで通訳を立て改めて取り調べを行った所、諸外国の諜報機関を震撼させる名前を口にしたのだった。その名はアブドゥール・ナイーフ。

かつて世界中で起こったテロに関わりシリア国内外で虐殺を繰り返していたと思われる男だった。そして誰も知るものはいないが蓮を殺人兵器へと育てた男だった。モハメッド・ハサンはアブドゥール・ナイーフが突然現れ自分を殺しにきたと話した。

6年前アブドゥールの事をアメリカに売ったのは自分でその事で復讐に来たのだと思うと語った。

世界各国の諜報機関はその名前を聞きつけ騒然となった。何故なら6年前アメリカ軍のシリア攻撃によって死亡したと思われていたのがシリアから遠く離れた日本でのテロ未遂事件で名前が浮上した為だった。それもテロを主導したのでは無く、結果的にテロを未遂にしたと目されたからだ。

各国はその真偽を確かめる為に日本に人を遣り調査にあたらせた。


新宿駅テロ未遂事件の後、野中は公安警察に執拗に事情聴取された挙句暫くは尾行までされてげんなりしていたが捜査本部が解体された後はやっと自由の身になった。ほとぼりが冷めていつものように忙しく些末な事件に関わっていた。この日も新宿駅近くの路上でひったくり事件があり目撃者がいないか足を棒にして路上生活者に話を聞く為歩き回っていた。そんな時前から蓮が友達と共に歩いてきたのだ。

「あ、野中さんお疲れ様です。いそがしそうですね。頑張って下さ〜い。」

「ああ、ありがとう。気をつけてな!」

友達と共に歩く蓮は普通の高校生だった。

気をとりなおしてまた路上生活者に事件を見ていないか確認して行った。


蓮は野中に声をかけた後、彼から少し離れた場所から野中を監視している者に気がついたが素知らぬ顔をしてその場から離れた。その後、駅で友達と別れた後もう一度引き返して野中を監視している男達を遠目に見た。最初は公安かとも思ったが其奴らは外国人だったから一先ず情報を集める為アランに連絡を入れた。

「アラン、野中さんに虫がついてるんだけど何か知ってる?」

アランは蓮に関わらないでくださいと前置きをした上で教えてくれた。

「それなら新宿駅の件で貴方がアブドゥール・ナイーフを匂わせたせいで各国の諜報機関が色めき立ったからですよ。現在確認できているだけでもCIAに

MI6、イスラエル、カナダ、オーストラリア、中国の機関が日本に調査員を派遣してます。世界中でおおごとになってますよ。」アランはちょっとだけ意地悪そうに教えてくれた。そしてくれぐれも関わるなと念を押し電話を切った。

「ん〜!予想外の反響だな。ま、あいつが生きてるかもと思われてた方が都合がいいからほっとくか!」そうは思ったものの野中に悪い気がする蓮だった。

翌日の放課後友人達を誘ってそれとなく野中を探しているとやはりまだ虫がついていたので、何も知らない友人を虫に絡ませた。高校生の出現に大いに戸惑った外国人はどこかに消えていった。

友人達とぶらついていたら岩山に会ったのでさっきの外人のことをそれとなく話した。

「岩山さん、さっき野中さん見ましたよ。一緒じゃ無いんですね。なんか俺の友人がさ野中さんの事見張ってる外人がいるって言ってその外人のとこまで行ったんですよ。そしたらその人逃げて行っちゃったみたいなんですけど野中さんなんかしたんですか?」惚けて岩山に聞いてみた。岩山は思い当たるふしがあるのかちょっとだけ考えるそぶりを見せると「そういう事をしちゃダメだよって友達にも言っといてよ。」と注意をして去って行った。

後から聞いた話によるとあの後、岩山が上層部に野中の件を話し各国へ抗議してもらったらしかった。

そのお陰か野中についていた虫はいなくなった。


「野中!ほら早く行くぞ。」岩山が野中に声をかけた。「がんさんあそこにもう一人聞きたい奴がいるんで先に行って下さい。」野中は一人、すぐ先にいる路上生活者の所へ行こうとしたら岩山も一緒についてきてくれた。

一通り話を聞き終わると二人して署に戻る為踵を返した。

もうすぐ冬になると思わせるような冷たい風の吹く夕方だった。






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銀の悪魔 @tamakichi3

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