第15話闘い終わって

野中は、全治1ヶ月と診断されたにもかかわらず

医者が止めるのも聞かずわずか2週間で勝手に退院してしまった。

「おい!野中本当にもう大丈夫か?」岩本が心配そうに野中に問いかけた。

「いや、もう入院はいいですよ。ほらこの通り何ともないですから。」そういいながら野中は腕をまわしたり自分の身体が大丈夫だとアピールした。

「そう言えばがんさん俺の手帳どこにあったんですか?」

入院中岩本が野中の手帳を届けてくれたのを不思議に思っていたのだ。

「ああ、蓮君が新宿署までお前を訪ねてきてな、それを届けてくれたんだ。お前が奴らを追いかけてる時蓮君にあったそうじゃないか。手帳を忘れるなんて届けてくれたから良かったけどな。俺の所で止めて上には報告してないから感謝しろよ。それと、蓮君にお礼言っとけよ。」

岩山は意地悪そうな顔をしながら笑った。


野中は早速蓮の家を訪ねた。出迎えてくれたのはアランだった。

「あ、野中さん退院したんですね?上がってください。」

そう言われて上り込んだ。蓮の家はマンションの最上階にあり玄関を開けると長い廊下が見えいくつか扉がついていた。廊下を進むとダイニングキッチンとリビングがあった。キッチンはアイランドになっていて周りにちょっとしたテーブルとイスがあった。アランはその椅子を野中にすすめそのすぐそばでお茶を入れ始めた。

「今日は蓮君に会いに来たんですけど彼は?」

アランがリビングにあるソファーを指差して

「あの通り昼寝してますよ。」

見ると蓮が気持ちよさそうにソファーの上で寝息を立てていた。アランに蓮が届けてくれた手帳の件を話しお礼に来た事を告げた。アランも聞いていたそうでそんな事は気にしなくてもいいからと言ってくれた。

そこで野中はアランに蓮の事を声を落として聞いた。

「アランさんは蓮君についてどれだけ知っているんですか?」野中は思い切って聞いてみた。

「そうですね。全てではないですけどただ、私も貴方と同じように蓮に助けられたんです。」

アランはソファーに眠る蓮を愛おしそうに見つめながらそう答えた。

「え?アランさんも?」野中は驚いたように聞いた。

「6年前私はシリアでテロリストに捕まっていたんです。毎日拷問されいつ死んでもおかしくはない状況でした。目が覚めると今日殺されるかも知れないという思いしか浮かばないくらい酷い有様でした。

そんな時蓮が現れ助け出してくれたんですよ。」

アランの告白に野中は驚いた。なぜなら6年前ならば蓮はまだ12歳ぐらいの少年の筈だ。その少年がテロリストからアランを救ったなど、とても信じられる内容ではなかったからだ。

それでも、この間の蓮の闘いぶりを思い出すと納得せざるを得ない事だった。

「それ以前についてはアランさんは知っているんですか?」

アランは首を振りつつ答える。

「いいえ。でも彼は私の命の恩人であり神なんです。」その答えは野中にとって衝撃的だった。

近年シリアではテロリストによる誘拐事件が多発して日本人が何人もその犠牲になっていて、その残虐さは時にSNSで流されている為野中も知っていた。

そんな中で育ったとしたらと考えると想像を絶することなのだと思う。

「彼は本当に地獄を知っているのかも知れませんね。」

アランが入れてくれた茶を飲みながら蓮を見て呟いた。

窓の外から清々しい風が部屋の中へ入っていた。










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