第4話女王様の相手は朝から始まる
ピンポーン。
「…んあ?」
そんな音が鳴り響いたのは、目覚ましの針が5時に差し掛かったばかりの時だった。
夏も近づき、日が出るのも早くなったとはいえ、外はまだ薄暗かった。
俺自身はいつも朝6時に起きるため、この時間はいつも寝ていた。
つまり1時間早く訪問者によってたたき起こされた。通常であればイラつくものだが、それよりも俺はこんな時間に誰が訪ねてきたのだろうという好奇心の方が勝っていた。
のそのそと布団から上がり、眠たい目を擦りながらパジャマ姿のまま玄関に向かった。
「ごきげんよう、とおる。いい朝ね。」
玄関を開けると、そこには藤色の長髪を携えた美しい少女が立っており、開口一番にそう言った。
こんなに朝が早いと言うのに、彼女は眠たげな様子を見せず、優雅な微笑みを見せながら元気な様子を露呈していた。
「…こんな時間になんだ?つくよみ。」
そう、彼女は学園の女王様と呼ばれている少女であった。
「あら、私は朝に訪ねると言っていなかったかしら?」
「言ってないし言ってたとしてもこの時間はおかしいだろ。頭大丈夫か、あんた。」
彼女のおかしな発言で眠気が飛んでしまった。こんな朝っぱらだというのになんでそんな元気なんだこいつは。
「…まぁ学校行くまでそこにいるのもなんだし、上がるか?朝食は食べてきたのか。」
「朝食はまだよ。じゃあお言葉に甘えて上がらせていただくわ。」
そうして彼女をまた家に招き入れた。
ついでだしこいつの朝食も作ってやろう。
少女をリビングで待機させ、俺は朝食の準備に取り掛かった。
今日はごはん、味噌汁、焼き魚にスクランブルエッグ。あとひじきの煮物も余ってたしそれも出すか。
味噌汁は面倒な時はインスタントで済ませたりもするが、せっかく今日は早起きしたし1から作るか。ついでに弁当と一緒に魔法瓶にでも入れておこう。
そう思って俺は弁当作りと同時進行で朝食を作り始めた。
念のため弁当を持ってきたか聞いたが、それも持ってきてないそうで。ついでにつくよみの分も作ることにした。
弁当は夕飯の残りと冷凍食品に加えて、いくつか今手作りした物を入れて完成だ。
全部手作りしてもいいが、ちょうど今日スーパーに行こうと思っていたところだったためあまり食材が無かった。
こうして俺は朝食を食卓に並べ、つくよみの分の弁当箱と魔法瓶を手渡した。箱はたまたま昔親が使ってたのがあったため、それを使った。
「!お、おいしいわ、この味噌汁・・・程よくダシがきいてて、朝にピッタリの味よ。」
「そうか、良かった。親となつよし以外に食べさせたことなかったから不安だったが、なによりだ。」
そう安心するように優しく微笑む俺。そういえば昨日は色々あったせいでずっと眉間にしわを寄せていた気がするが、笑うのは久々なきがするぞ。
一瞬俺が笑った瞬間つくよみがピクリと固まったような気がするが気のせいだろう。
そうして俺たちは朝のニュースを眺めながら黙々と朝食を食べていた。
『芸能界ではこういったことが見受けられるわけですが、専門家の榎本さんはどう思われますか?』
『え^~、つまりぃ~…Sっていう事はぁ、Mって事なんじゃないかなぁ?』
『?なるほどー。それでは次のコーナー____』
そんなこんなで朝食は終わり、洗い物や談笑をしているうちに登校時間となった。
ちなみに洗い物はつくよみがやってくれた。女王様やら奴隷やら言われてるが、こいつ本当にそうなのか?
正直片鱗は見えるが、それでも女王様と呼ぶには少し違う気がするが。
こうして俺とつくよみは一緒に学校に向かうことになった。
俺は噂されるかもしれないし別々で登校しようと言ったが、全く聞き入れてもらえなかった。
結局俺たちは横に並んでたわいもない話をしながら登校していた。
そうしてしばらく歩くとちらほら同じ学校の生徒が散見された。
しかし、なんというか…めちゃくちゃ見られてる。
知らない人ですらつくよみに見とれて振り返ったりしていたが、学校の生徒はそんな比ではなかった。
ガン見されている…しかも視界にうつる生徒だけでも全員こちらをみている。
しかも俺たちを見ながらヒソヒソ話したり、時折「キャー!」なんて声も聞こえてきた。
そうか、忘れてたがこいつ超有名人だったな…完全に俺の中ではやばい人という印象しかなかった。
そうやって注目されながら歩いていると、向こうのほうから1人の男子生徒が一目散にこちらに向かってくるのが見えた。運動部員だろうか、結構体つきがガッチリしていた。
「おはようございます!貴咲様!今日も麗しい!梅雨のジメジメした時期にも関わらず、このような空が晴れ渡り心地の良い光を浴びているなか、貴方様にこうしてお会いできることは誠に…光栄で…あり……。」
突然俺たちの前に来たかと思えば、急に腰を曲げて90度の姿勢で挨拶してきて、よくわからないことをペラペラと話し始め、しまいには俺の姿を確認するなりどんどんと尻すぼみになっていった。
「おい」
かと思えば今度は俺に話を振ってきて、鋭い視線を俺に向けた。
「貴様、さては新入りだな?知らないようだが、貴咲様に対して、前を歩いたり横に並ぶようなことは無礼であり、許されない行為だ。従順なしもべとして、貴咲様の後ろに控えているのが礼儀だ。
そもそも貴様、貴咲様に面と向かって話すなどがっはぁ!!!」
なにかよくわからないことを一人でに説明し始めたかと思えば、突然その男が吹き飛ばされていた。
そう、それは隣にいるつくよみがその男を蹴り飛ばしたためである。
「この豚が。勝手になにをしているのかしら。これは私が彼に頼んでわざわざ一緒に登校してもらっているのよ。あなたはそんな私の邪魔をしようというのかしら?不愉快極まりないわ。汚らわしい豚ね。消えて。」
突然隣の彼女の纏う雰囲気や声色が変わり、俺はギョッとしていた。
突然男を蹴り飛ばしたかと思えば、ごみを見るような眼でその男を見下して罵り始めた。
「も、申し訳ございませんでした!!この卑しい豚の愚行でございました!どうぞワタクシめの頭に足を置いてください!」
そういって勢いよく土下座し、あたまをコチラに差し出していた。
しかもなぜかハァハァと聞こえ、よく見ると男は頬を赤くして興奮しているように見えた。やばいよこの人。
「いやよ、この人以外になんて触れたくもないわ。」
「ぐっはぁ!」
つくよみがそう罵ると男は声を上げて、強く恍惚の表情を浮かべていた。
俺以外は嫌って、俺は一切頭を踏ませるつもりはないぞ?しかも蹴るときに触れてたし。
そんなことをしていると、次々と男子生徒がコチラに現れていき、気が付いた時には多くの男子生徒がこちらに集まってきていた。
「「「「「「「「「おはようございます!!女王様!!!」」」」」」」」」
そして集まった男子生徒はみなこうべを垂れて、つくよみに挨拶していた。
「あっちいって。今私はこの人と登校しているの。邪魔するようなら消すわよ。豚どもが。」
「「「「「「「「「ありがとうございます!!女王様!!!」」」」」」」」」
なにがありがとうございますか分からないが、つくよみがそういうと男子一同非常に嬉しそうな顔になり、礼をいって一目散に立ち去って行った。
「ふう、お騒がせしたわね。」
「い、いや別に…」
かくいう俺はその光景にあっけにとられていた。
そうか、これが女王様たるゆえんか。すごい迫力だった。
おそらく俺も当事者だったらビビっているだろう。
正直この人実は普通の人なんじゃないかと疑い始めていたが、今ので確信した。こいつは只者じゃないと。
というより、もともとこの学校はなぜかドMな男子が多く、よく女子にパシられて嬉しそうにしている光景を目撃する。
あと俺の友人のゆきつぐも例外ではなく、彼女がドSなためいつもシバき倒されている。まぁ嬉しそうだしなによりなんだが。
かくいう俺は男女平等主義者で、もし女子にシバかれようものなら問答無用で男女平等パンチを繰り出すことができる。
でも、クラスメイトの女子はほかの男子にはすごく当たりが強いのだが、何故か俺にだけめちゃくちゃ優しく接してくれるため、そんな機会は無かったのだが。
というよりも…
なんでこの人は俺にだけは割と普通の態度なのだろうか。他の男子にはあんなだったのに。
学園の女王様的な人が俺を惚れさせようとしてくる @nuru
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