第3話なぜか女王様が俺を奴隷にしようと必死なんだが



「かはは!それは災難だったじゃねぇか!」


なつよしに先ほどの出来事を話すと、下品な笑いを浮かべ俺を労ってくれた。

正直死ぬほどびっくりした。彼女とは初対面のはずなんだけどなぁ。気が付かないうちにもしかしたら目をつけられたのかもしれない。

あと、さっきの出来事が原因だと思うのだが、教室のクラスメイト達がなぜかやたら俺のことをチラチラ見てくるし、しかも見たことない生徒たちが俺のクラスの前に集まってきて、俺のことを観察していた。廊下のほうから、「ほら、あいつがさっきの・・・」という声が聞こえてきた。

なんだかまた胃がキリキリしてきた。


「しっかし女王様自らお前を下僕にしたがるとはねぇ…お前何したんだよ。」


「知らねぇ、こっちが聞きたいくらいだ。」


本当に俺には心当たりが無かった。どっかで会った覚えもないし、この学校でなにか目立ったことをした覚えもない。

もしかしたらたまたま俺が目に入って適当に声を掛けてきただけかもしれない。うん、きっとそうだ。そういうことにしよう。

気まぐれで偶々俺に提案してきただけで、今後はもう関わることがないことを祈るしかなかった。




「あら、待っていたわよ。」


そしてその希望が潰えたのは、放課後のことだった。

その日はいろんな人から目立っていたこと以外は特に何もなく、自宅に帰るために校門を抜けようとしていた時のことだった。

正直校門を抜ける前から彼女の姿が目に入っており、俺以外の人を待っているんだと願いながらそそくさと校門を抜けようとしたら声を掛けられてしまった。


「なにか御用でしょうか?」


とりあえず平静を装いながらそう返した。


「前にも言ったように、私の奴隷になりなさい。」


なぜか下僕から奴隷に成り下がってしまった。予想はしていたが、やはりこのように言ってきた。

顔には微笑を浮かべ、その大きな目を細めてこちらを試すかのようにそう発言した。


「すいません、もし何か知らないところでご迷惑をお掛けしたのなら謝ります。」


「いえ、そういうことではないのよ?ただ単純にあなたを奴隷にしたいだけよ。」


ますます意味が分からなかった。なんで俺なんだろうという疑問ばかりが募っていた。


「なぜ僕なんですか?別に奴隷という名目で名前だけ貸すなら構いませんが。」


「まぁ簡単にいうと、貴方のことが気に入ったからよ。奴隷の件に関しては名目だけではダメ、一日中しっかり私の傍に控えている必要があるわ。」


本当に謎だ。俺に気に入る要素があるのだろうか。俺はどこにでもいる少し勉強のできる一般生徒だ。どこかで会った覚えがない以上、俺の肩書で気に入る要素があったのだと思うが、平凡である俺に気に入る要素はないだろう。


「すいません、俺にも用事があるので、よろしければ他を当たっていただけませんか。」


「いやよ。私はあなたに使えてほしいもの。」


取りつく島もなかった。一体この人は何を考えているのか。


「すいません、女王様かなんだか知りませんが、俺はそういったことには興味がないので。失礼します。」


それだけ言って俺は彼女から遠ざかるようにそのまま帰路についた。


「ふふ、冷たいわね。私はあなたがうなずくまであきらめる気はないわよ?」


…なぜかナチュラルに俺についてくる彼女。

たまたま帰路が同じなだけなのだろうか。俺はその可能性を信じるしかなかった。


そうして彼女の誘いをのらりくらりと躱しているうちに自宅についてしまった。


「あ、自分の家はここなので。お気をつけてお帰りください。」


「あら、何言ってるのかしら?まだ外は明るいわよ。」


なんでこの人俺の家に上がる気マンマンなのか。

でも、これは好都合かもしれない。ついでになんで俺を奴隷にしたがるのか聞いて、なんとか諦めてもらうようにこの際だから説得しよう。


「じゃあ、自分の家きますか?」


「あらあら、貴方もなかなかに大胆ね?まぁでもお邪魔しようかしら。」


あんた絶対俺が誘うまで帰る気無かっただろ。というツッコミを飲み込んで、彼女を家にあげた。


ちなみに今俺はマンションの1室に住んでいる。

2LDKで、1人暮らしする分には何も困ることは無かった。

親は少しだけ裕福で、毎月結構な額の仕送りをもらっているため、バイトをする必要もない。


そうして俺たちは自分が住んでいる部屋の前に到着し、そのままカギを開けて彼女を家に招き入れた。


「あら、男の人の家ってもっと散らかっているイメージだったけど、きれいなのね。」


「まぁ、家事はそこそこ自信ありますから。」


いつも家に帰っても、なつよしが遊びに来た時以外は、勉強か家事ぐらいしかやることがなく、そうなればおのずとこういったことに手を付けるしかなくなる。

つくづく俺ってつまらない人間だな、と思わされるが別に困ったことはないのでよしとしている。


そうして俺はリビングに招き、彼女を椅子に座らせて紅茶を淹れた。


「そういえばまだ名前を聞いていなかったわ。お名前はなんて言うのかしら?

ちなみに私は貴咲つくよみよ。つくよみって呼んでちょうだい?」


「自分は神崎とおるです。自由に呼んでもらって結構です。貴咲先輩」


「わかったわ、とおる。だからつくよみと呼んで?あと敬語も結構よ。」


「いえ、そういうわけにはいきません、貴咲先輩。」


「つくよみ」

「貴咲先輩」

「つくよみ」

「貴咲先輩」

「つくよみ!!」

「貴咲先輩!!」


はぁ、なんて頑固なんだこの人は。


「分かりましたよ、つくよみ先輩。」


「つくよみって呼び捨てじゃないとダメ、あと敬語もダメ。」


「さすがにそれは」

「ダメ」


「はぁ・・・わかったよ、つくよみ。」


結局俺が根負けすることになった。だってこの人認めるまで絶対許してくれそうにないんだもん。


「ふふふ、えらいわ。」


「ったく・・・」


呼び捨てで呼んだ瞬間、嬉しそうに目を細め、頬を赤に染めながらモジモジいわれたため、すっかり俺も牙を抜かれてしまった。

その光景には女王様のような毅然とした態度はなく、一人の乙女な少女の様子を見せていた。てか奴隷にしたいんだったらなおのこと敬語で話させるはずなんだが、よくわからんなこの人は。


「ところでつくよみ、なんでお前は俺を奴隷にしたがるんだ?別に俺以外にも従えてる人はいるだろうし、ほかにも男子生徒はいるだろ。」


「言ったじゃない、気に入ったからって。もしかして疑っているのかしら?」


「いや、そういうわけじゃないが、会ったこともないし、特別何かできるわけじゃない俺なんかをどうして気に入ったんだ?」


「ふふ、やはりあなたは気づいていないのね。」


「え?何に?」


「こっちの話よ。理由についてはそのうち話すわ。ただ今だけは内緒にさせて。」


「は、はぁ。」


凄く理由が気になるが、聞いても答えてくれなさそうだ。


「あと、俺を奴隷にして具体的になにさせるつもりだ?」


「簡単よ。まず毎日私と一緒に登校すること。そしてお昼も毎回一緒で、下校も一緒。あとはそうね、私の命令は絶対厳守で、できるだけ私の身の回りの世話をするの。休日も私が来いと言ったら一目散に駆けつけること。他にも色々あるけど、それは端折らせていただくわ。」


いや、命令多すぎだろ。てか内容もおかしいし。

噂だがこいつは多くの奴隷を従えてるって聞くし、内容的にほかの奴隷にはこんな命令はしてないのだろう。なんで俺を特別扱いするのだろうか。


「もし仮に奴隷になったとして、一緒に登校するときはどこから一緒にいくんだ?俺んちに来てくれるのか、お前の家に行くのか。もしお前んちなら遠いのか?さすがに遠いとこまでわざわざ行きたくないんだが。」


「それについては心配しなくて大丈夫よ。いずれ私の住む場所がわかるわ。」


「いずれってなんだよ。今は言わないのか。」


「ええ、それは楽しみにとっておくわ。」


人差し指をたてて、自分の唇の前まで持っていってウィンクしながらそう答えていた。それを見て俺はふいにドキリとしてしまい、あわててそっぽを向いた。

この人見た目だけはまじで素晴らしいからな。目の毒だ。

正直謎ばかりが増えていく。この人の目的は一体なんなのか。


「言っとくが、俺は一切奴隷になる気はないからな。早いうちに諦めたほうがいいぞ。」


「ふふ、私はあなたが奴隷になるというまで絶対にあきらめないから。それこそ一生ね。」


「さいですか。」


正直早く諦めてくんないかなと願うことしかできなかった。

でも正直、この人を嫌いになることはできそうになかった。確かに頭のおかしいことを言ってはいるが、この人自体悪い人ではないなという印象があったからだ。

聞いた話だと無理やり調教して奴隷にさせると聞いたが、彼女はあくまで俺の意思で奴隷にさせたいようだった。


そして俺たちはそのあと世間話や彼女のことについて聞いていたら、気が付いた時には夕食時になっていた。

一応今日のところは帰るそうで、家の前には家の者の車が迎えに来ているそうだ。


なので俺は車の前まで彼女を見送り、彼女はそのまま車に乗って帰っていった。



いつかすぐに飽きて諦めてくれるように願うばかりだが、自然と彼女と過ごしている時間は楽しいものだと感じた。



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