第2話女王様との出会いは唐突に
この学校、【峯藤学園】には、女王様と呼ばれる人物がいる。
その人の名は、【貴咲つくよみ】という。
2年生で、特に部活動やらなにやらをしているわけでは無いのに、その知名度はとどまることを知らない。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。これだけを挙げてもその人物の凄さを知ることができるだろう。
学年テストではいつも1位で、運動においては体育の授業などで運動部員を遥かに上回り、そしてなんといってもその容姿は、すれ違えば振り返らないものはおらず、芸能人やアイドル、モデルなどを差し置いてもその美貌は容易くそれらを凌駕する。
それだけならまだしも、彼女には女王様と呼ばれる所以がある。
まず、彼女はいくつもの男子生徒を奴隷として仕上げて、それを配下として学校生活を送っているらしい。
まず、彼女は昼時はいつも男子生徒を椅子代わりにして優雅に紅茶を飲み、その身の回りのことや雑用に至るまで、すべてその奴隷たちがこなしているらしい。
これらは噂でしか聞いたことがないが、俺も一度だけ彼女が男子生徒に土下座させ、その頭に足をのせている現場を目撃したことがある。
正直やばいやつとしか言いようがないが、彼女は男女関わらずとても人気がある。
男子生徒に対してはアレらしいが、女子生徒に対しては実に親切で、朗らかな笑顔や柔らかい物腰で接する様はまさにお嬢様そのもので、女子生徒からは大いに尊敬されており、聞くところによると女子なのにも関わらず告白されたり、奴隷にしてほしいと懇願されたりしているらしい。
正直男子生徒と女子生徒に対する扱いの違いはひどいものであるが、男女ともに人気が凄いのは事実で、実際非公式ファンクラブなるものがあり、聞いた話だと学校の人たちの約半分が加入しているらしい。やはりその整った容姿とかから奴隷にされたい男子は非常に多いらしいし、女子はお近づきになりたいのだろう。
そもそもこの学校女子はSな奴が多いし男子はドMなやつが多すぎる。
そんな彼女に対し、俺はただただ平凡な学生である。
別に俺自身関わりたいと思わないし、向こうも俺と関わろうとはしてこないだろう。
まさに別次元の存在。交わることは一生ない。僕はそう思っていた。
そう思っていたのだが・・・
「あなた、私の下僕にならないかしら?」
そう言われたのは、ある昼休みの出来事だった。
いつも俺は自分で弁当を用意しており、昼休みはいつもなつよしと2人で食べているのだが、今回飲み物を忘れて、わざわざ購買にまで行って飲み物を買おうと思い廊下を歩いていた。
藤色のロングヘアーで、頭の右側にピンクの花の髪飾りをつけており、眉毛まで伸びた前髪と紫色の瞳が特徴の人だった。
目はツリ目で瞳も僅かに細く、まるで猫のような眼をしていた。
ツンととがった鼻に純白の肌、そして頬は僅かにピンク色に染まっており、控えめに言って絶世の美女のような人だった。
身長は170センチ近くあり、スラっとした体形に大きなふくらみを携えたその姿はモデルそのものであり、これだけでその少女がいかに整っているかが分かった。
そう、彼女こそ、貴咲つくよみ本人であり、彼女こそ、学園の女王様の呼び名を欲しいままにしている人物だった。
何故か俺は購買に行く途中の廊下で彼女に話しかけられ、上の発言を俺に提示してきた。横には2人の取り巻きがいて、俺を値踏みするような視線を送ってきた。
…意味が分からない。これは無視に限るな。
そう思い俺は目の前にいる彼女の横をすり抜け、再び前へと歩き出した。
「あら、聞こえなかったかしら?もう一度いうわ。あなた、私の下僕になりなさい。」
再び目の前に立ちふさがった彼女は、被せるように言葉を発した。
腕を組み、まるで試すかのような目はまさしく女王様であった。
そしてそのやり取りが行われていたのはちょうど教室の手前の廊下で、なんだなんだと教室や辺りから人が俺たちを傍観しだし、気が付いた時には多くの人がこちらを見ていた。
・・・そうだ、こいつ有名人だからそうなるか。
正直注目されていることで胃がキリキリし始めた。それに、こいつ俺に下僕になれとか意味わからん事言い始めたぞ。なんで俺なんだ。
そしてこうなってしまった以上、やることはただ一つ・・・
「なんだあれ!」
「え?」
俺が窓を見ながら大声を出すと、つられて彼女も窓を見た。
その隙に俺は彼女の脇を抜け、猛ダッシュで逃走した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
後ろのほうでそんな声が聞こえたが、俺は聞こえないふりをしてそのまま逃げた。
正直なぜ俺にそんな提案をしてきたかわからないが、もう彼女とは関わることはないであろう。いや、そうであってほしい。
そう思いながら俺は購買でお茶を買って、そのまま教室に戻った。
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