安楽死監視人のお仕事

私は10年前から安楽死監視人として働いている。

監視人の仕事では齋藤という名前をつかっている。もちろん偽名だが。


これまではIT企業でプログラマーとして働いていたが、退職して自ら応募したのだ。

給与が良いという点もあるが、それよりも安楽死制度を利用する人に興味があった。

自ら死を選択する気持ちはどんなものなのか、間近で見てみたかった。


監視人としての一番大事な仕事は、執行までに安楽死制度の利用者が、犯罪を起こすのを防ぐことだ。


そのため私達はある装置を持たされている。

その装置にあるスイッチを押すことによって、対象の身体に麻酔が流れ気を失うのだ。

申請時に着けられる時計から流れる仕組みだ。もちろん対象者には外せないようになっている。

その際は殺害ではなくあくまで気を失うだけに留める。

政府としても、殺害して臓器を無駄にしたくはないのだ。


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そもそも自ら申請したのに、どうして間違いを犯そうとするのか疑問に思うかもしれない。


安楽死が近づくと、必ずといっていいほど、死の恐怖でおかしくなるからだ。

逃亡ならまだかわいい。

社会を恨み、死ぬ前に殺人を犯そうとする人も少なくない。


実際この5年間で沢山の人の監視をしてきたが、半数ぐらいの人を装置で気絶させた。


今回はその気絶させた人の中でも、印象に残った人について話そうと思う。


こうして私が話すことで、少しでもその人達の思いが繋がることを願う。

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安楽死監視人 若宮ナオ @wakamiyanao

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