episode-27 黒明
その後。
ソナタとサンダルフォンまで一旦戻り私はみんなに事のあらましを説明した。
当然ながら驚いてはいたけど、戦力が増えるのは歓迎すべきことだしとカクさんやマコさんにスズナちゃん達も喜んでくれた。
ソナタ達は一足先にメルボンへと戻り、私はガブリエルを受け取って合流することになった。
マコさんに引きずられるようにサンダルフォンへと連れ去られていったソナタの心配そうな顔を見てつい吹き出してしまう。
氷山の間を征くサンダルフォンを見送り私は今、ひとりフォールキャニオンの中を歩いている。
「これで私もソナタを守ることが出来るかな」
『そうね、でもまだまだよ。ちゃんと使いこなせないと』
「わかってる、わかってるよ」
『私も協力するから、大丈夫』
「うん、そうだね」
私は私の中のもうひとりの私と話しながらその場所へと足を踏み入れた。
「これが……ガブリエル……」
漆黒の船体に薄い紅を引いたようなラインの入った……サンダルフォンよりも一回り大きな鉄の塊。
全体的に何ていうのか……女性っぽいフォルムにみえる。
サンダルフォンは鋭角で尖ったイメージでソナタって感じがして私は好きだったけど、ガブリエルはすらりとした大人な女性って感じを受ける。
「なんだか女の人って感じ……」
「お褒めに預かり光栄です」
「……え?」
私がつい思ったことを口に出すとどこからか返事が返ってきた。
辺りを見渡すがどこにも人影はない。
「
「……まさか!?」
「初めまして、シシド ミハル艦長。
語りかけてきたのは目の前の潜水艦だった。
確かに声は聞こえるけど一体どこから発されたのかは分からない。
私は一瞬の躊躇いの後、彼女ガブリエルに歩みよる。
パシュンという音と共に側面に扉が現れて開かれ、そこから見える通路に明かりが灯されていく。
「さぁどうぞ、ブリッジへとご案内致します」
ここから先へ進めばもう後戻りは出来ない。
『大丈夫、私もいるんだから』
頭の中でもうひとりの私が柄にも無く励ましてくれるのを聞き、苦笑しながらも私はその一歩を踏み出した。
通路は外側同様黒い金属で出来ていて綺麗に手入れされているように見えた。
何百年もの間使われていなかったにしては綺麗すぎると思いながらも私は点灯する明かりに誘われ通路を進んでいく。
人の気配は全くしないけれど何故か私以外にも誰かがいるのが何となく分かるのはもうひとりの私の影響なのだろうか。
しばらくするとサンダルフォンのブリッジ前の開けた場所とよく似た場所に着き正面と左右に扉があった。
「どうぞ、お入り下さい」
声に促され私は扉を開いて中へと入った。
「……え?」
「「「「ようこそガブリエルへ、艦長」」」」
ブリッジに入った私にぴったり揃った声をかけてきたのは4人の女性。
全員お揃いの……メイド服を着て整列している。
「え〜っと?何?」
「彼女達はこの艦のクルー。左から順にケイ、エル、エム、エヌです。この艦が出来た時にはもっとおりましたが、今ではこの4人のみとなりました」
「初めまして、ミハル艦長。
「機関室担当のエルでございます」
「水雷室のエムです」
「給仕のエヌです」
「そして
とガブリエル。
「え、えっと……はい、よろしく……です?」
「ふふっそう固くならないで下さい。私達はアンドロイドです、人に仕えることが存在意義ですし海に出ることなく終わるはずだったのですから」
「う、うん、そうなんだけど……ちょっとビックリしちゃって」
シリアルナンバーズと呼ばれていた彼女達はアルファベットのAからZまでが創られたそうだ。
ガブリエルの姉妹艦が他に三隻あったらしくそれぞれに同様のナンバーズが配備されていたとガブリエルが教えてくれた。
ナンバーズは『LA型』より後に生産されたアンドロイドでセナの様に『LA型』で蓄積された感情を搭載していてきちんと喜怒哀楽があるそうだ。
といってもそれは単なるデータにしか過ぎずラナの様に人を愛するというようなことはない。
ラナがあまりに特殊すぎたと言えばそれまでなんだけど、彼女達ナンバーズも見た目はまるっきり人と変わらず言われないとまず区別はつかないだろう。
「艦はこれよりメルボンへと出航致します。自動航行で参りますのでお席へおつき下さい」
ブリッジにガブリエルの声がして私達はそれぞれ席につく。
一段高い場所にある艦長席……サンダルフォンではいつもソナタが座っているところだ。
私はひとつ深呼吸をしてその席へ腰をおろす。
ケイをはじめ4人が席から私を振り返る。
姿は見えないけどガブリエルも私の声を待っているように感じる。
すぅーはぁー。
よしっ!
もう一度深呼吸をして気を落ち着かせ私は声をかける。
「ロック解除、注水開始、メインエンジン始動」
「ロック解除します。注水開始……エンジン始動……問題ありません」
「うん、じゃあ……」
「はい、艦長!改めてお願い致します!」
「……ガブリエル!出航!」
フィーンとモーターとスクリューが回る音が響いて船体がゆっくりと海面下へと潜っていく。
正面のモニターには左右を氷山の氷に覆われた水路が映し出されている。
解像度はサンダルフォンより遥かに綺麗でまるで映画を見ているような感じだ。
「自動航行に切り替えます。メルボンまでの所要時間はおよそ27時間です」
「うん、じゃあ着くまでは各自自由行動でいいからね」
「「はい、艦長」」
「私達は持ち場を確認しに行ってきます」
ケイを除く3人はそう言って礼儀正しく礼をしてブリッジを出ていった。
「えっと、あの、ケイ……さん?」
「ケイで結構です、艦長」
「う、うん。じゃあケイ、ガブリエルはやっぱりこの上にいるの?」
「ガブリエル様はこの艦の心臓であり頭脳でもありそのものでもあります。
「そっか、ちょっと会いに行っても大丈夫かな?」
ケイと話していてもガブリエルが声をかけてくることはないのでいつもいつもブリッジの様子を見ているわけでもないようだ。
航海中などはそちらの制御に注力している為、余計なことに気を使ったりはしないのだろう。
「艦長席の横にある青いボタンを押して頂ければ上部へと上がれますので」
「うん、ありがとう。えっとコレかな?じゃあちょっと行ってくるね」
ボタンを押すと席上の天井が開いて艦長席ごと上がっていく。
うわっ!ビックリしたぁ……
危うく落ちそうになり席にしがみついて私はゆっくりと天井裏へと上がっていった。
下ではケイがくすりと笑っていたのはもちろん見逃してはいない。
「ここが制御室……」
それ程広くない室内は所狭しと配線やモニターが乱雑に散らかっていて、アズライルのラキの部屋を彷彿とさせるものだった。
モニターにはブリッジや機械室に水雷室、他にも外の映像が映っていてここから艦内の主要な場所が見れるようになっているみたいだ。
もしかしたらラキのようにアンドロイドがいたりするのかと密かに期待していた私だったけど目の当たりにしたガブリエルはそういったものではなかった。
この艦の頭脳、ガブリエル。
室内の奥にある
幾多の配線に埋もれる様に……守られる様に壁に架けられた銀色の人の顔。
美しい女性を模し、艦と同じ緋色のラインの入ったそれは閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
「改めて……シシド ミハル艦長。
「……宜しくね、ガブリエル」
「驚かないのですか?」
「うん?驚いたよ?驚いたけど、もう今更って感じじゃないかな?」
「ふふっ、それもそうですね」
こうして私は後に生涯の友となる彼女との最初の邂逅を果たした。
ENCOUNT BLUE 揣 仁希(低浮上) @hakariniki
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